研究成果のポイント
- ・朝食の摂取頻度、飲酒頻度、喫煙などの生活習慣が抗肥満因子として知られている、線維芽細胞増殖因子(FGF)21の血中濃度を変化させることを発見
- ・これまで血清FGF21値に影響を与える生活習慣については明らかでなかった
- ・朝食抜き、毎日飲酒、喫煙などの生活習慣改善が肥満症予防につながることに期待
概要
大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの中西香織講師、瀧原圭子教授らの研究グループは、「朝食をあまり食べない」、「毎日飲酒する」、「喫煙習慣がある」などの生活習慣が抗肥満作用をもつ因子として知られている線維芽細胞増殖因子(FGF)21の血中濃度を変化させることを発見しました。
これまでFGF21は、肥満・加齢などで血中濃度が上昇することは知られていましたが、生活習慣との関連については解明されていませんでした。
今回の研究では、血清FGF21値と生活習慣の関連を調査し、朝食の摂取頻度、飲酒頻度、喫煙習慣などの生活習慣が血清FGF21値を変化させることを明らかにしました。
本研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」に、11月19日(金)に公開されました。
研究の背景
FGF21は糖脂質代謝を改善するなどの抗肥満作用をもつ因子として知られており、2型糖尿病や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの肥満関連疾患の新しい治療戦略として期待されています。一方で、肥満症や2型糖尿病患者では血清FGF21値は逆に上昇していることも報告されています。この機序として、肥満や2型糖尿病では「FGF21抵抗性」の状態となっており、FGF21の抗肥満作用が低下していると考えられています。
これまで、生活習慣と血清FGF21値の関連について報告がなかったことから、FGF21の血中濃度に影響を与える生活習慣について調査を行いました。
研究の内容
健康診断を受検した基礎疾患のない男性398名を対象とし、身体計測、血液検査、問診による生活習慣調査と血清FGF21値との関連について解析を行いました。血清FGF21値は年齢、肝機能に影響されるだけでなく、朝食摂取頻度、飲酒頻度、喫煙習慣などの生活習慣でも変化することを発見しました。
さらに、朝食を食べる頻度が「週0-2日」、飲酒の頻度が「毎日」と回答した群で、また喫煙者は非喫煙者と比較して血清FGF21値は有意に上昇していました(図1)。
これらの生活習慣の下では、肥満症や2型糖尿病と同様に、「FGF21抵抗性」状態となり、FGF21の持つ抗肥満作用が低下する可能性があることが示唆されました。
図1. 朝食摂取頻度、飲酒頻度、喫煙習慣による血清FGF21値の変化
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
朝食抜き、毎日飲酒、喫煙などの生活習慣はFGF21の血中濃度を変化させており、FGF21のもつ抗肥満作用にも影響を及ぼしている可能性が示唆されました。これらの生活習慣改善が肥満症の予防につながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2021年11月19日(金)に英米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Serum FGF21 levels are altered by various factors including lifestyle behaviors in male subjects”
著者名:Kaori Nakanishi, Chisaki Ishibashi, Seiko Ide, Ryohei Yamamoto, Makoto Nishida, Izumi Nagatomo, Toshiki Moriyama and Keiko Yamauchi-Takihara
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-021-02075-8
この研究についてひとこと
朝食抜きや過度の飲酒、喫煙は様々な疾患や健康障害のリスクであることは知られていますが、本研究からもこれらの生活習慣は抗肥満作用に影響をもたらす可能性が示唆されました。肥満症は現代社会にとって大きな問題ですので、日々の生活習慣の見直し、改善が必要だと思われます。(中西香織)
用語説明
線維芽細胞増殖因子(FGF)21
FGF21はFGF19やFGF23と共にホルモン様の作用を持つFGF19サブファミリーに属しています。FGF21は糖脂質代謝を改善するなどの抗肥満症効果を持つことから、2型糖尿病やアルコール性脂肪肝炎(NASH)などの肥満関連疾患の新しい治療戦略として期待されています。
詳細▶︎https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20211209_4
注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。