大阪府立大学(学長:辰巳砂 昌弘)総合リハビリテーション学研究科 竹林 崇 教授の研究グループは、脳卒中後に生じる手の麻痺を回復させるより良い方法を検討した研究において、患者さんの障害の重症度の違いに応じて、ロボット(写真)の使い方を変える事で、より効果的な回復を促進することを明らかにしました。また、これらの知見を広く共有することにより、ロボットを有するリハビリテーション病院においても、作業療法士がロボットを用いて、再現性の高い効果的なアプローチを提供することが可能になり、患者の幸福および Quality of life(注 1)の改善に寄与できることが期待されます。
リハビリ・ロボット
<研究概要>
効果的な治療手段が不明瞭であったリハビリテーション分野で、ロボットを用いた効果的なリハビリテーションプログラムを詳しく分析することで、患者さんの障害の重症度に合わせてロボットの使い方を変える事により、効果的な治療となることを明らかにしました。これにより、様々な重症度の麻痺を有する患者さんへのロボットを使ったより適切な治療が可能になります。この知識は、将来、作業療法士の仕事の一部を、ロボットが代わって提供するための基礎となる可能性があります。
<研究のポイント>
- ・重症度に応じたロボットによる適切な治療法を発見
- ・軽症の麻痺に対しては補助を減らした練習が効果的
- ・重症の麻痺に対しては補助を増やした練習が効果的
<研究者からのコメント>
リハビリテーション学研究科 竹林 崇 教授
最近の脳卒中リハビリではロボットを使う事が多くなっています。ロボットを適切に使用することによって、患者さんの幸福にも大きく関わる手のリハビリをさらに進めていただきたいです。
<研究内容>
脳損傷の後に生じる手の麻痺は、患者の幸福感や Quality of life(生命の質)に負の影響を与えると言われており、その治療法の確立は急務であると考えられています。近年、手の麻痺に対する治療として、ロボットを用いた方法(ロボットセラピー)が世界的にも注目を集めています。しかし、世界に比べ、日本ではロボットの開発および普及が遅れているのが現状です。そう言った中で我々は 2016 年に日本で初めて、脳損傷後の手の麻痺(注 2)に対するロボットセラピーの治療効果を明らかにしました*
現在、世界のロボットセラピーの研究は多種多様な機器が開発され、その効果を検討しています。しかしながら、手の麻痺の重症度によって、ロボットをどのように使えばより効果的な回復を促進できるかについて、詳細かつ明確に示した知見はほとんど見当たりません。適切なロボットの使い方が明らかでなければ、いくら効果的な治療法であっても、高い再現性を示すことが困難になり、一般の医療現場での普及は困難となります。
本研究では、ロボットセラピーにおける適切かつ効果的なロボット(ReoGo, モトリカ社,イスラエル;ReoGo-J,帝人ファーマ株式会社,日本)(図)の使い方を明らかにすることを目的に、2016 年に公表したロボットセラピーの効果を示した論文を後ろ向きに二次解析を行うこととしました。その結果、重症の麻痺を有する患者さんには、麻痺手に対するリハビリテーション中に、ロボットが提供するアシスト量(練習を正確に行うための介助量)を増やし、患者さんが正確な練習を繰り返し行うことで、有効な麻痺手の機能回復を示すことが明らかになりました。一方、軽症の麻痺を有する患者さんでは、ロボットが提供するアシスト量を極力減らし、患者さん自らの力でなんとか正確な練習を繰り返し行なうことで、有効な麻痺手の機能回復を示すことが明らかにすることができました。
*米国心臓/脳卒中学会が発行する”Stroke 誌”に 2016 年に掲載済み
<社会的意義、今後の予定>
この結果を利用することで、ロボットを有する一般的なリハビリテーション病院においても、患者さん毎の手の麻痺の重症度を鑑み、ロボットの使用法を変えることで、適切な治療を提供することの一助となることが予測されます。また、この知識は、将来的に、作業療法士の仕事の一部を、ヒトの代わりにロボットが患者さんの麻痺した手足に関する治療を提供するための基礎、基盤となる可能性も秘めています。これらが仮に実現すれば、麻痺の治療成績の向上や医療費の削減等に繋がる可能性があります。
<発表雑誌>
本研究成果は(日本時間)2022 年 2 月 26 日 午後 12 時に、英国の BioMed Central 「Journal of Neuroengineering and Rehabilitation」のオンライン速報版で公開されました。
<雑誌名>
Journal of Neuroengineering and Rehabilitation
<論文タイトル>
Impact of the robotic-assistance level on upper extremity function in stroke patients receiving adjunct robotic rehabilitation: Sub-analysis of a randomized clinical trial.
<著者>
Takashi Takebayashi, Kayoko Takahashi, Yuho Okita, Hironobu Kubo, Kenji Hachisuka, Kazuhisa Domen
<DOI 番号>
https://doi.org/10.1186/s12984-022-00986-9
<SDGs 達成への貢献>
大阪府立大学は研究・教育活動を通じて SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。本研究は SDGs17 の目標のうち、「3:すべての人に健康と福祉を」等に貢献しています。
<研究助成資金等>
本研究の一部は、帝人ファーマ株式会社からの支援を受けて行われました。
<用語解説>
(注1)Quality of life
恵まれた環境で仕事や生活を楽しむ豊かな人生をいう。狭義には、特に医療・福祉分野で、延命治療のみにかたよらずに、患者の生活を向上させることで、患者の人間性や主体性を取り戻そうという考え方。
(注2)脳損傷後に生じる手の麻痺
脳出血や脳梗塞、その他、なんらかの理由で脳損傷があった場合、多くの患者さんに、片側の手足に麻痺が生じます。一般的には、片麻痺、半身麻痺等呼ばれています。
<参考 URL 等>
本研究の論文公開ページ:https://rdcu.be/cHMQk
2016 年に公開の論文ページ:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27006452/
詳細▶︎https://www.osakafu-u.ac.jp/press-release/pr20220311/
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。