発表内容の概要
【研究所】福祉と生活ケア研究チーム(医療と介護システム研究)は、筑波大学、東京大学との共同研究で、病院から自宅に退院した要介護状態にある高齢者の医療・介護レセプトデータや要介護認定データを分析し、要介護高齢者が退院直後にリハビリテーション(リハ)を受けることで要介護度の悪化を抑制することを示しました。この研究成果は、リハビリテーション医学分野におけるトップジャーナルである「Archives of Physical Medicine and Rehabilitation」に掲載されています。
研究目的
要介護状態にあっても、その悪化をできるだけ防ぐ方法を検討することは重要です。医療保険や介護保険で提供されるリハは、心身機能の維持や改善を目的としているため、要介護度悪化を抑制する方法の一つと考えられます。特に、病院から自宅への退院など療養環境の変化は要介護状態にある高齢者(要介護高齢者)の心身機能に大きな負担を与えるため、退院直後のリハの要介護度悪化に対する抑制効果を検証することは意義があります。本研究では、要介護度悪化の予防策を検討するため、要介護高齢者を対象に退院直後(退院月から1カ月以内)のリハが退院後1年間の要介護度悪化に与える効果を検証しました。
研究の成果の概要
千葉県柏市における要介護高齢者で自宅に退院した2746名のうち、退院直後に医療保険または介護保険のリハを利用していた者は573名(20.9%)いました。退院直後のリハを受けた者と、受けていなかった者の特性(性別や年齢、経済状況、要介護度、疾患など)を均等にするため、傾向スコアマッチングという手法を用いました。退院直後のリハを受けた者と受けなかった者で、特性の近い566組(合計1132名)が選ばれ、分析に用いられました。退院後1年間で要介護度が悪化した者は、退院直後のリハを受けた群では12.3名/千人月、退院直後のリハがなかった群では20.0名/千人月でした。また、退院直後のリハを受けた群では、そうでない群に比べると、退院後1年間の要介護度悪化を約30%抑制していたことがわかりました(ハザード比:0.71, 95%信頼区間:0.53-0.96)。
研究の意義
本研究から、要介護高齢者における退院直後のリハは、要介護度悪化を抑制することが示されました。要介護高齢者が退院直後にリハを利用できるように、入院時から病院の職員とケアマネージャーが連携して、ケアプランを検討することの重要性を示すことができた点で、本研究は意義があると言えます。
掲載論文
「Archives of Physical Medicine and Rehabilitation」(2022年1月24日掲載)
Effects of Early Postdischarge Rehabilitation Services on Care Needs-Level Deterioration in Older Adults With Functional Impairment: A Propensity Score-Matched Study.
邦訳:退院直後のリハビリテーションが要介護度悪化に及ぼす効果
URL:https://doi.org/10.1016/j.apmr.2021.12.024
著者:光武誠吾1、石崎達郎1、土屋瑠見子1, 2、宇田和晃1, 3、陣内裕成4、植嶋大晃5、松田智行3, 6、吉江悟2, 3, 7, 8, 9、飯島勝矢7, 8、田宮菜奈子3, 10
- 東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム
- 一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部門
- 筑波大学 ヘルスサービス開発研究センター
- 日本医科大学 衛生学公衆衛生学講座
- 京都大学医学部付属病院 医療情報企画部
- 茨城県立医療大学 理学療法学科
- 東京大学高齢社会総合研究機構
- 東京大学未来ビジョン研究センター
- 慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室
- 筑波大学 医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野
※本研究は、日本理学療法士協会研究助成「ハイリスク者へのリハビリテーションによる健康寿命の延伸への効果―医療・介護レセプト連結データによる分析」(研究代表者:田宮菜奈子)と日本学術振興会基盤研究(B)「医療・介護ビッグデータを用いた再入院発生予測モデルの開発と再入院予防策への提案:20H03924」(研究代表者:光武誠吾)の助成を受けて実施されました。
詳細▶︎https://www.tmghig.jp/research/release/2022/0316.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。