患者中心のプライマリ・ケア評価尺度の日本版を開発

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横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻金子惇講師らの研究グループは、プライマリ・ケア*1の質評価尺度PCPCM(Person-Centered Primary Care Measure)の日本版を開発しました。これは患者さんの視点からプライマリ・ケアの医療機関の質を評価する質問紙で、米国で開発され28か国語に翻訳されています。この質問紙は、11項目という少ない質問数でプライマリ・ケアにとって重要な11の領域を評価できる点、プライマリ・ケアの質を国際的に比較出来る点が特徴となっています。今後はこの質問紙を用いて、国内の各地域や日本と他国のプライマリ・ケアの質を比較し、質改善に繋げていく予定です。(図1) 

本研究成果は、国際誌「BMC Primary Care」に掲載されました。(2022年5月10日)

研究成果のポイント

・2019年に米国で発表され、今後世界的に広く用いられる可能性が高いプライマリ・ケア質評価尺度PCPCMの日本版を開発した。

・質問紙は11項目という少ない質問数でプライマリ・ケアにとって重要な11の領域を評価することが可能であり、日常診療の中で利用しやすい尺度となっている。

・28か国語に翻訳されており、項目も同一のため、日本と他国のプライマリ・ケアを比較しその特徴を記述することができる。

・先行研究の結果に当てはめると日本のPCPCM得点はOECD加盟35か国中28位であり、継続性・家族や地域の状況を考慮したケアの得点が低い傾向が判明した。

図1  PCPCM日本版の概要

 研究背景

プライマリ・ケアは医療資源の有効利用や健康格差の是正の役割を果たしており、各国の医療システムの中で重要な位置を占めています。しかし、プライマリ・ケアが扱う領域は病気に至る前の状態での健康相談、予防医療、患者さん個人だけでなくその家族や地域を対象とした健康に関する活動など幅が広いためその全てを評価しようとすると項目が多くなってしまい、実用的でなくなってしまうという問題がありました。

プライマリ・ケアの質をどの様に評価するかが全世界的に課題となっている中で、米国の研究者らが患者さん、医療者、政策決定者らと「患者中心のプライマリ・ケア評価尺度」(Person-Centered Primary Care Measure: 以下PCPCM)を開発しました。このPCPCMはプライマリ・ケアにとって重要とされるケアへのアクセス、ケアの包括性、ケアの統合、ケアの調整、医療者と患者の関係性、ケアの継続性、アドボカシー、家族状況を考慮したケア、地域状況を考慮したケア、目標志向のケア、健康増進の11項目を11の質問で測定できることが特徴となっています。日本でもこれまで別のプライマリ・ケア質評価尺度が作成され用いられていますが、より少ない項目でより多くのプライマリ・ケアの要素を測定できるPCPCM日本版の作成には意義があると考えました。

研究内容

本研究では、横浜市に在住の20-74歳の方1,000名を無作為に抽出し、郵送で質問紙を送り回答して頂きました。41.7%の方に回答して頂き、PCPCMの平均点は2.59点でした(4点満点)。この得点を元にOECD加盟35か国を対象として行われた先行研究と比較すると35か国中28位であり、現在の日本のプライマリ・ケアの質を表す目安の一つとなると考えられます。また、項目別の得点(それぞれ4点満点)では、ケアへのアクセス(2.98)、ケアの包括性(2.98)、ケアの統合(2.66)、ケアの調整(2.56)、医療者と患者の関係性(3.16)、ケアの継続性(2.14)、アドボカシー(2.48)、家族状況を考慮したケア(2.18)、地域状況を考慮したケア(2.12)、目標志向のケア(2.57)、健康増進(2.68)であり、ケアの継続性、家族や地域の状況を考慮したケアの得点が低い傾向にありました。これは日本のプライマリ・ケアの特徴と考えられると同時に、米国でも同様の傾向が見られており他国でも共通の課題である可能性があります。

本研究ではPCPCMの得点及び同時に調査した他のプライマリ・ケア評価尺度の得点から、尺度としての信頼性・妥当性を算出しており、日本版として使用するのに十分であることを確認しています。米国の原著者らが翻訳した日本語版も当初存在しましたが、日本語表現が分かりにくい部分があり、日本の患者さんにインタビューを行い理解しやすさを確認した本研究のものが正式なPCPCM日本版として原著者らのウェブサイトに掲載されています。

今後の展開

PCPCMは比較的新しい評価尺度ですが、今後世界中でプライマリ・ケアの質評価に用いられる可能性が高いので、他国と比較した時の日本のプライマリ・ケアの特徴を記述する国際共同研究に繋げていければと考えております。また、少ない質問項目で多くの領域を評価できるので、国内の地域ごとの比較や日常診療の中での質改善にも有用と考えています。

また、上述の原著者らのウェブサイトから日本版がダウンロードできることに加えて、下記の本研究室のウェブサイトで日本版使用マニュアルを配布し、今後の利用に役立てていただく予定です。

研究費

本研究は、横浜市立大学学⻑裁量事業  第5期戦略的研究推進事業の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル:

Development and validation of a Japanese version of the Person-Centered Primary Care Measure

著者:

Makoto  Kaneko,  Tadao  Okada,  Takuya  Aoki,  Machiko  Inoue,  Takamasa  Watanabe,  Makoto Kuroki, Daichi Hayashi, Masato Matsushima

掲載雑誌:

BMC Primary Care

DOI:

10.1186/s12875-022-01726-7

用語説明

*1 プライマリ・ケア:「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」(日本プライマリ・ケア連合学会ウェブサイトより

(https://www.primary-care.or.jp/public/index.html)

 

詳細▶︎https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2022/202205kanekomakoto.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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