安静時のアスリートの呼吸機能と運動パフォーマンスには関係性があった!? -呼吸パターンに着目したスポーツ外傷・障害の予防戦略構築に繋がることが期待-

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立命館大学スポーツ健康科学部の下澤結花助手、寺田昌史講師、杉山敬特任助教、伊坂忠夫教授、総合科学技術研究機構の栗原俊之准教授、菅唯志准教授らの研究グループは、1933 名のアスリートに実施した疫学調査から、約 90%のアスリート(1751 名/1933 名)が安静時に非効率的呼吸パターン(胸式呼吸)を有していたことを明らかにしました。本研究成果は、2022 年 5 月 24 日、「Journal of Strength and Conditioning Research」に原著論文としてオンライン版が公開されました。

【本件のポイント】

・呼吸パターンは、アスリートのさまざまな筋骨格系疾患や精神状態と密接に関係する。

・Hi-Lo テストにて安静時の呼吸パターンを評価した全てのアスリートのうち、約 90%(1751 名/1933名)のアスリートが非効率的呼吸パターンを有していた。

・安静時の呼吸パターンが効率的(横隔膜呼吸パターン)であったアスリートは、全体の約 9%(182名/1933 名)のみであった。

・これらの研究結果から、スポーツ外傷・障害予防や運動パフォーマンス向上において、安静時の呼吸パターンをスクリーニングすることの重要性が示唆された。

【研究の背景】

近年、安静時の非効率的呼吸パターンなどを含む呼吸機能不全は、腰痛症などの筋骨格系疾患の関連要因であることが明らかになっています。加えて、呼吸機能は運動機能や動作パターン、精神的・心理的状態と密接に関係することが報告されています。適切な呼吸パターンの獲得は、心身の緊張とリラックスのバランスを整え、運動パフォーマンスの向上および心身への負荷を軽減することに繋がる入り口と考えられています。そのため、アスリートの身体的・精神的な健康の維持に関して、呼吸機能の重要性が注目されています。

これまでに、喘息などの呼吸器系疾患を有する患者における非効率的呼吸パターンの割合は報告されていますが、アスリートにおける呼吸パターンの評価を検討した研究は多くはありません。そこで、本研究では、安静呼吸時の呼吸パターン評価法である Hi-Lo テストを用いて、アスリートにおける非効率的呼吸パターンと効率的呼吸パターンの割合について調査しました。

【研究内容】

本研究は、さまざまな競技・年齢層・地域のアスリート 1933 名を対象とし、Hi-Lo テストを用いて安静時の呼吸パターンを評価しました。Hi-Lo テストでは、立位姿勢の対象者の右手を胸部に左手を腹部に置き、安静呼吸中の胸部および腹部に置かれている手の動きを視診することで、呼吸パターンの評価を行いました。Hi-Lo テストの結果から、アスリートの呼吸パターンを効率的呼吸パターンと非効率的呼吸パターンに分類しました。効率的パターンを有するアスリートは、全体の約 9%(182 名/1933 名)にとどまりました。全体の約 90%が、非効率的呼吸パターンを有していたことから、非効率的呼吸パターンを示すアスリートが多数を占めていることがわかりました。

【今後の展開と社会へのインパクト】

本研究の結果は、アスリートの健康管理やトレーニングにおいて、呼吸パターンに着目することの重要性を示すものとなりました。呼吸機能の低下は、酸素という栄養素を脳に供給することを妨げてしまうため、脳は疲弊して、心身の状態をうまくコントロールすることが出来なくなってしまいます。大多数のアスリートが非効率的な呼吸パターンを有しているということは、安静時であっても心身が絶えず緊張または興奮状態にあり、疲労が蓄積しやすくなっている可能性が考えられます。また、適切な呼吸は脊椎や体幹部の安定性に貢献するため、呼吸機能を改善することによって、運動パフォーマンスにも好影響を及ぼす可能性が考えられます。そのため、本研究の結果から、アスリートの呼吸パターンを評価した上で、呼吸を活用したエクササイズをトレーニングやコンディショニングに取り入れることの必要性が示唆されました。今後、非効率的呼吸パターンがスポーツ外傷・障害の発生率とパフォーマンスに及ぼす影響や、呼吸パターン改善のトレーニング効果を検証していくことで、さらなる研究の発展が期待されます。

【論文情報】

題目:Point Prevalence of the Biomechanical Dimension of Dysfunctional Breathing Pattensamong Competitive Athletes

著者:Yuka Shimozawa1, Toshiyuki Kurihara2, Yuki Kusagawa3, Miyuki Hori3, Shun Numasawa4,Takashi Sugiyama1, Takahiro Tanaka3, Tadashi Suga2, Ryoko Shiroma Terada5, TadaoIsaka1, Masafumi Terada1

所属: 1 立命館大学スポーツ健康科学部,2 立命館大学総合科学技術研究機構, 3 立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科, 4 大阪バスケットボール協会医科学委員会, 5(株)リーチ

雑誌: Journal of Strength and Conditioning Research

DOI : 10.1519/JSC.0000000000004253

URL: https://journals.lww.com/nscajscr/Fulltext/9900/Point_Prevalence_of_the_Biomechanical_Dimension_of.23.aspx

詳細▶︎http://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=667

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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