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日本の子どもの歩き方は諸外国の子どもと異なることが判明 ~小学校児童の歩き方の基準となるデータを国内で初めて作成~

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国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の杉浦 英志 教授、伊藤 忠 客員研究者(愛知県三河青い鳥医療療育センター三次元動作解析室:動作解析専任研究員 兼務)は、名古屋大学医学部附属病院小児科の伊藤 祐史 医員、愛知県三河青い鳥医療療育センター整形外科の則竹 耕治 センター長、小児科の越知 信彦 センター長補佐らとともに、日本の小学校児童における歩行の基準値を作成し、歩行中の下肢の動きの年齢による差異を調査した結果、諸外国の子どもの歩行中の下肢の動きと異なることを初めて明らかにしました。

歩行は日常生活において重要な動作であり、個人の健康状態を反映します。子どもの歩行を評価する際には、正常な発達を評価するための年齢に応じた基準値が必要です。しかし、国内において子どもの年齢別の歩行中の下肢の動きに関するデータは不足しています。本研究は、小学校児童の歩行の基準値の作成と成長による歩行の変化に着目した研究であり、児童の歩行の発達過程を知る上で重要な情報源になります。本研究結果から、日本の小学校児童は、股関節の動きは僅かに内股であり、高学年になってもその動きは大きく変化せず、諸外国の子どもの歩行中の下肢の動きとは異なることが明らかになりました。この結果は、正常な歩行と病的な歩行を評価するための重要なツールになり、子どもの歩行の状態を確認できるだけでなく、歩行障害の整形外科治療とリハビリテーションの効果判定にも使用することができます。

本研究成果は、2022年5月12日付国際科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

【ポイント】

・6~12歳の子どもの歩行の基準値を国内で初めて作成。

・高学年は低学年よりも歩行が綺麗であることが明らかになった。

・諸外国の子どもの歩行と動きが異なることを国内で初めて明らかにした。

【研究背景】

子どもの歩行は、日常生活において重要な動作であり、個人の健康状態を反映します。したがって、歩行を評価するためには、年齢に応じた歩行を特徴づけることが重要になります。さらに、子どもの歩行の正常な発達を評価するためには基準値が必要ですが、国内では基準となる参考データはありません。したがって、国内の子どもにおける歩行の変化に関する参照データベースを構築することは重要です。

歩行分析は身体機能注1)評価の1つであり、歩行異常のスクリーニングに使用することができます。さらに歩行分析は、正常な歩行パターンと病的な歩行パターンを評価するための重要な臨床ツールであり、歩行障害の整形外科治療の介入結果の評価に使用することができます。また、子どもの歩行のパーセンタイル発育曲線注2)を作成することで、歩行の発達の軌跡からの逸脱を特定することができます。子どもの歩行の発育曲線は、学齢期の歩行の発達を評価するために使用できる可能性があります。

本研究の目的は、日本の小学校児童の歩行の基準値を作成し、子どもの歩行のパーセンタイル発育曲線を作成することでした。

図1.歩行分析に使用したモデル 

【研究成果】

2018年1月から2020年3月にかけて、愛知県三河青い鳥医療療育センターで運動器健診のための岡崎市児童健診に参加をした6歳~12歳(424人;男児208人;女児216人)の岡崎市内の小学校児童を対象にしました。三次元動作解析装置注3)を使用して、骨盤~つま先に14mmの反射マーカーを貼付し(図1)、8mの歩行路を最低3回以上歩行してもらい、3回の平均値を使用しました。

測定した歩行中のデータから、骨盤、股関節、膝関節、足関節、つま先の向きの動きのデータを算出しました。さらに、これらの動きを点数化することができる指標を用いて、歩容注4)の得点を算出しました。

図2.子どもの歩行のパーセンタイル発育曲線  Ito T et al. Sci Rep 2022改編

 

各年齢の歩行を比較するために、先行研究を参考に6~8歳、9~10歳、11~12歳の3つのグループに分けて、「歩行中の下肢の動き、歩容の得点」を比較しました。全体のデータから、歩行の基準値となるデータを作成し、歩容の得点から発育曲線を作成しました(図2)。本研究で作成した、子どもの歩行のパーセンタイル発育曲線により、歩行の典型的な発達の軌跡からの特定の逸脱を容易に識別することができます。

その結果、歩行中の下肢の動きの多くは6~12歳で類似していましたが、年齢が高くなるにつれて、股関節と膝関節の屈伸の動きが徐々に小さくなりますが、足関節の動きにはあまり変化がないことが示されました。11~12歳の子どもは、足が地面から離れた時の膝が曲がる最大角度が小さく、歩行中の膝の可動域も少ないことが分かりました。また、歩容の得点は、6~8歳よりも11~12歳で高く、低学年よりも歩き方が綺麗であることが示されました(図3)。

諸外国のデータと比べてみると、日本の小学校児童は、歩行中の股関節の動きは軽く内股であり(図4)、高学年になってもその動きは大きく変化せず、諸外国の研究結果とは異なることが明らかになりました。また、歩幅や1分間当たりの歩数などの年齢による変化は、世界共通と思われますが、成長の影響を考慮するために正規化すると、諸外国のデータとは若干異なり、高学年になると歩幅は短くなり、1分間当たりの歩数も増加することが認められました。このことから、作成された子どもの歩行の基準値と歩行のパーセンタイル発育曲線は、子どもの現状の歩き方を把握することを可能にし、子どもの歩行障害の治療効果判定の発展に貢献することができます。

図3.各年齢の歩容の得点

 

図4.股関節の内股の程度

【まとめ】

これらの結果から、我々が作成した歩行分析のデータベースは、今後子どもを対象とした歩行研究において価値があると思われます。また、本研究の結果は、正常な歩行と病的な歩行を評価するための重要なツールになり、子どもの歩行の状態を確認できるだけでなく、歩行障害の整形外科治療とリハビリテーションの効果判定に使用することができます。 

【用語説明】

注1)身体機能:

身体が持つ能力のことを指す。

注2)パーセンタイル発育曲線: 

全体を100として小さい方から数えて何番目になるのかを示す数値のことを指し、50パーセンタイルが中央値になる。

注3)三次元動作解析装置:

歩行および動作を測定し、関節運動等を高精度で解析し、評価することができる装置。

注4)  歩容:

歩くときの姿勢やその動きの特徴のことを指す。

注5)  歩行周期:

片側の足が床に接地し、次に同じ足が床に接地するまでの歩行の周期を指す。

【論文情報】

雑誌名:

Scientific Reports

論文タイトル:

Three-dimensional  gait  analysis  of  lower  extremity  gait  parameters  in  Japanese children aged 6 to 12 years

著者:

Tadashi Ito 1 2*, Koji Noritake 3, Yuji Ito 4 5, Hidehito Tomita 6 7, Jun Mizusawa 7, Hiroshi Sugiura 3, Naomichi Matsunaga 2, Nobuhiko Ochi 5, Hideshi Sugiura,2          *筆頭著者・責任著者

所属:

1,Three-Dimensional  Motion  Analysis  Room,  Aichi  Prefectural  Mikawa  Aoitori  Medical and Rehabilitation Center for Developmental Disabilities, 9-3 Koyaba Kouryuji Cho, Okazaki, 444-0002, Japan.

2,Department  of  Integrated  Health  Sciences,  Graduate  School  of  Medicine,  Nagoya University, Nagoya, Japan.   

3,Department  of  Orthopedic  Surgery, Aichi Prefectural Mikawa Aoitori Medical and Rehabilitation Center for Developmental Disabilities, Okazaki, Japan.

4,Department  of  Pediatrics,  Nagoya  University  Graduate  School  of  Medicine,  Nagoya, Japan.

5,Department  of  Pediatrics,  Aichi  Prefectural  Mikawa  Aoitori  Medical  and  Rehabilitation Center for Developmental Disabilities, Okazaki, Japan.

6,Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University, Toyohashi, Japan.

7,Department  of  Rehabilitation,  Aichi   Prefectural  Mikawa  Aoitori  Medical  and  Rehabilitation Center for Developmental Disabilities, Okazaki, Japan.

DOI: 10.1038/s41598-022-11906-1

URL: https://www.nature.com/articles/s41598-022-11906-1 

 

詳細▶︎https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/06/post-269.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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