【本研究成果のポイント】
・外反母趾変形の進行に関与する因子として、第 1 中足骨と内側楔状骨から構成される第 1 足根中足(tarsometatarsal: TMT)関節の過剰可動性があげられますが、その動態は明らかでない部分も多くあります。(図 1)
・本研究では、超音波画像装置と三次元動作解析システムによる同期解析によって、歩行中の第 1TMT 関節の定量的評価に成功しました。(図 2)
・この新たな評価ツールの開発によって、外反母趾の評価・治療方法の発展に貢献できることが期待されます。
【概要】
・外反母趾は代表的な足部疾患であり、女性に多く発生します。外反母趾変形の進行に関与する因子として第 1TMT 関節の過剰可動性が考えられてきました。
・多くの研究者により第 1TMT 関節の過剰可動性に注目した研究が行われてきましたが、歩行中にどのような関節運動が起こっているかは不明でした。
・本研究では、外反母趾のない健常男女を対象とした、超音波画像装置と三次元動作解析システムによる同期解析により、歩行中の第 1TMT 関節動態を定量的に評価することに成功しました。
・歩行立脚期において女性は男性と比較して、内側楔状骨が特徴的な変位を示しており、この第 1TMT 関節の動態が将来的な外反母趾の発症につながる可能性が示唆されました。
・本研究成果はロンドン時間の 2022 年 6 月 2 日に「Scientific Reports」に掲載されました。
【発表論文】
●論文名:Quantitative evaluation of the vertical mobility of the firsttarsometatarsal joint during stance phase of gait
●著者:前田 慶明 1*,生田 祥也 2,3*, 田城 翼 1,有馬 知志 1,森川 将徳 4,金田 和輝 1,石原 萌香 1,アンドレアス ブランド 5,6,中佐 智幸 2,7,安達 伸生 2,3,浦辺幸夫 1
1. 広島大学大学院 医系科学研究科 総合健康科学
2. 広島大学大学院 医系科学研究科 整形外科学
3. 広島大学病院 スポーツ医科学センター
4. 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
5. BG Unfallklinik Murnau バイオメカニクス研究室
6. Paracelsus Medical Private University Salzburg バイオメカニクス研究室
7. 広島大学病院 未来医療センター * 責任著者
●DOI 番号:10.1038/S41598-022-13425-5
【背景】
外反母趾の病態には、性別、靴の習慣、第 1 中足骨の形状などの解剖学的要因が影響しています。さらに外反母趾では、第 1TMT 関節の過剰可動性がみられることが報告されており、外反母趾変形の進行への関与が指摘されています。
しかし、ほとんどの研究は座位や立位などの静的な条件下での測定に留まっており、歩行動作における、第 1TMT 関節の動態は不明なままでした。
また、大型計測機器や CT 装置を用いた解析では、汎用性の低さや被曝のリスクなどが問題点として考えられていました。これらの課題を解決するために、簡便かつ安全に動作中の第 1TMT 関節の動きを評価できるツールの開発が必要とされていました。
【研究成果の内容】
本研究では、外反母趾変形のない若年女性 12 人と若年男性 13 人を対象として、歩行測定を行いました。歩行測定に際して、超音波画像装置と三次元動作解析システムを同期させ、第 1TMT 関節の関節運動(第 1 中足骨と内側楔状骨の垂直移動量)を評価しました。(図 2)この同期解析によって、歩行周期に合わせた関節運動を数値化することが可能となりました。
女性は男性と比較して、歩行中に第 1 中足骨と内側楔状骨が足底側に落ち込むことが確認されました。この特徴的な変位が長期的な外反母趾変形につながる可能性があり、さらに女性での高い外反母趾有病率に影響していることが示唆されました。
【今後の展開】
超音波画像装置と三次元動作解析システムによる同期解析を用いて、外反母趾変形を有する方の第 1TMT 関節動態を評価することで外反母趾の病態解明に寄与することが期待されます。また、外反母趾に対する治療(保存療法や手術療法)の前後において、第 1TMT 関節の動態を比較することで、治療効果の判定,新たな外反母趾の治療法の開発に応用できる可能性があります。
【参考資料】
図 1:外反母趾の第 1 足根中足関節
図 2:超音波画像装置と三次元動作解析システムによる同期解析
詳細▶︎https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/71623
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。