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DPCデータを用いた大規模研究において急性心不全患者の体格と入院に伴う日常生活動作能力低下や医療費負担との関係性を解明

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神戸大学大学院保健学研究科の小川真人研究員、井澤和大准教授、科学技術イノベーション研究科の山下智也教授、医学研究科循環器内科学分野の吉田尚史研究員、平田健一教授らの研究グループは、医学研究科リハビリテーション機能回復学講座、医学研究科糖尿病・内分泌・総合内科学分野、 医学部附属病院リハビリテーション部、国立循環器病研究センターとの共同研究において、DPCデータ※1を用いた循環器疾患診療実態調査(JROAD)※2の中で、急性心不全患者約23万人の体格と医療費、ならびに入院関連機能障害(HAD)※3に関する関係を調査しました。その結果、体格(BMI)の低下に伴いHADリスクは上昇し、HAD患者では入院医療費が上昇することを明らかにしました。この研究成果は、2022年9月18日に国際学術雑誌「International Journal of Cardiology」に掲載されました。

ポイント

・急性心不全患者におけるHADの有病率は7.43%であることを明らかにしました。

・HADのリスクはBMIの低下に比例して増加しました。

・BMIと入院医療費の間には、全年齢でU字型の関係が見られ、“痩せ”も“肥満”も医療費が増加することを明らかにしました。

研究の背景

心不全は、世界中で急速に増加しており、国際的に最も重要な健康問題の一つとなっています。特に、 超高齢社会を迎えた日本では、心不全患者の急増が“心不全パンデミック”として認識されています。 心不全は入院を繰り返す疾患であるため、治療費の高騰や入院に伴う医療費負担は、経済的側面からも喫緊の課題となっています。また、日本では、心不全患者の入院期間が諸外国に比べて長く、心不全の入院費も高額であり、医療財政を圧迫しています。

一方、虚弱な高齢者は心不全入院に伴う日常生活動作(ADL)の悪化(入院関連機能障害: Hospital associated disability(HAD))が大きな問題となっています。そのため、心不全患者のリスク層別化が必要とされており、今回、我々はBMIに着目し、体格によって急性心不全患者のHADの発生率や医療費との関係を調査しました。

研究の内容

本研究は日本循環器学会が主導する循環器疾患診療実態調査(JROAD)を用いて実施されました。 JROAD 調査施設の中から DPC参加病院を対象に、病名や診療行為の明細が含まれた DPC データを集め、得られたデータからBMI、入院時と退院時のADL、入院医療費、並びに基本データを抽出しました。さらに、BMIを世界保健機関のアジアBMI分類に従い層別化し、HADや入院医療費との関係を調査しました。

研究期間中に本邦の1,086の病院に入院し、急性心不全と診断された1,166,567人の患者を同定し、死亡例や欠損値例の除外を行った後、958の病院の中の238,160人を対象としました。年齢中央値は81.0歳で46.2%が女性でした。BMIの中央値は22.2kg/m2で、15.7%が低体重、42.2%が標準体重、16.7%が過体重、19.3%が肥満I、6.0%が肥満IIでした。全体として、低体重群は高齢で、女性に多い傾向が見られました。一方、肥満II群では、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの合併症が多い傾向がみられました。入院中、リハビリテーションは39.4%に実施されていました。

HADを有する患者は全体の7.43%でした(低体重、9.90%; 普通体重、7.81%; 過体重、6.72%; 肥満Ⅰ、5.93%; 肥満Ⅱ、5.09%)。 痩せ型群ほどHADを発症しやすく、HAD発症患者は入院期間が延長していました。マルチレベル混合効果モデルを用いた解析において低体重はHADの高い発生率と有意に関連していました(オッズ比1.32)。年齢で層別化すると、すべての年齢層でBMIが低いほどHADのリスクは増加する傾向が見られました。

一人当たり入院医療費の中央値は6,630米ドル(795,628円(1$120円換算))でした。HADを合併する患者は入院医療費が増加する傾向にありました。 また、痩せまたは肥満の場合、入院医療費は増加する傾向にある事が明らかとなりました。この関係は年齢に関係なく一貫していましたが、若い患者ほど入院医療費が高い傾向にありました。

図: 急性心不全患者における体格と入院関連機能障害との関係

急性心不全患者において、入院関連機能障害は7.43%に見られた。BMIが低い患者ほど入院関連機能障害のリスクは高く、また75歳以上の高齢者で入院関連機能障害のリスクは増加した。入院関連機能障害が発生した患者では、発生しなかった患者と比較して入院医療費が11.6%増加した。また入院関連機能障害が発生した患者の44%に入院中リハビリテーションが実施されていた。

今後の展開

本研究結果は入院時のBMIに基づく早期のリハビリテーション、特に年齢に関係なく痩せ、または肥満患者に対する早期かつ集中的な介入を推奨するものとなります。今後の心不全パンデミックに伴う入院医療費の急激な増加を考慮すると、本研究はHADによる患者並びに経済負担をより包括的に理解し、特に低体重患者のHAD予防におけるリスク層別化、政策立案、ベンチマーキングに貴重な情報を提供するものとなる可能性があります。本研究結果に基づく、リスクの層別化、並びに外来でのフォローアップシステムの確立や地域連携の重要性を示唆するものとなります。

用語解説

※1 DPCデータ:

DPC(Diagnosis Procedure Combination;診断群分類)に基づいた患者の臨床情報と、なされた診療行為の電子データセット。

※2 循環器疾患診療実態調査(JROAD):

全国の日本循環器学会専門医研修施設の中でDPCを採用している全国の施設を対象に、病名や診療行為の明細が含まれた DPC データを集め、データベースを作成し、医療の質を向上するのに必要な情報を発信する実態調査プロジェクト。

※3 入院関連機能障害: Hospital associated disability(HAD):

入院を契機にする体力や身体機能の低下を指す。本研究では食事や着替えなどの日常生活の能力の指標であるBarthel indexを入院時と退院時に調査し、入院時よりも退院時に低下があるものを入院関連機能障害と定義した。

謝辞

本研究は、日本循環器学会研究助成事業の支援を受けて行ったものです。

論文情報

タイトル

“Hospital-associated disability and hospitalization costs for acute heart failure stratified by body mass index- insight from the JROAD/JROAD-DPC database”

DOI:10.1016/j.ijcard.2022.08.044

著者

Masato Ogawa1,2,†; Naofumi Yoshida3,4,†; Michikazu Nakai5,6; Koshiro Kanaoka5; Yoko Sumita5; Yuji Kanejima1; Takuo Emoto3; Yoshihiro Saito3; Hiroyuki Yamamoto3; Yoshitada Sakai7; Yushi Hirota8; Wataru Ogawa8; Yoshitaka Iwanaga5; Yoshihiro Miyamoto5; Tomoya Yamashita3; Kazuhiro P. Izawa1*; Ken-ichi Hirata3

1,Department of Public Health, Graduate School of Health Sciences, Kobe University

2,Division of Rehabilitation Medicine, Kobe University Hospital

3,Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

4,Division of Endocrinology, Diabetes and Metabolism, Beth Israel Deaconess Medical Center and Harvard Medical School

5,Department of Medical and Health Information Management, National Cerebral and Cardiovascular Center

6,Department of Biostatistics, National Cerebral and Cardiovascular Center

7,Division of Rehabilitation Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

8,Division of Diabetes and Endocrinology, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine
† These authors contributed equally
* Corresponding author

掲載誌

International Journal of Cardiology

詳細▶︎https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2022_10_06_01.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

DPCデータを用いた大規模研究において急性心不全患者の体格と入院に伴う日常生活動作能力低下や医療費負担との関係性を解明

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