<ポイント>
○ウサギ半月板欠損モデルでは、骨髄液フィブリンクロット※1を使用した半月板縫合術は、末梢血フィブリンクロットを使用した修復術や無処置の場合と比較して半月板修復が良好。
○骨髄液フィブリンクロットを使用した半月板縫合術が普及することで、半月板を温存できる症例の増加が期待。
<概要>
大阪市立大学大学院医学研究科 整形外科学の木下 拓也大学院生、橋本 祐介講師、中村 博亮教授らの研究グループは、ウサギ半月板損傷モデルを用いて半月板の治療法について検証した結果、骨髄液フィブリンクロットを使用した半月板縫合術が、末梢血フィブリンクロットを使用した縫合術や無処置の場合と比較して、半月板の修復が良好であることを明らかにしました。
半月板は、スポーツ外傷や加齢的変化によって損傷しますが、損傷すると治癒しにくく、安易に切除されてしまうケースは少なくありません。その場合、変形性膝関節症へ進行する可能性があるため、できる限り半月板を温存できる治療法の確立が求められています。
本研究によって、ウサギ半月板損傷モデルにおける骨髄液フィブリンクロットを使用した半月板縫合術が半月板の修復に有効であることが明らかになり、半月板温存治療法の確立と普及に繋がることが期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Arthroscopy」にオンライン掲載されました。
木下 拓也大学院生
我々スポーツグループが注目し取り組んでいる『骨髄液フィブリンクロットを使用した半月板修復の治療』を、ウサギ半月板損傷モデルを使用し検証しました。臨床での手応え通り、骨髄液フィブリンクロットの使用により良好な半月板修復が得られました。
半月板は治癒しにくい組織で、修復手術は技術的にも比較的難易度が高いため安易に切除されている現状があります。本研究ができるだけ半月板を温存する治療方法の確立と普及の一助になれば幸いです。
<研究の背景>
半月板は主に膝関節の荷重を分散・吸収し、関節を保護する重要な組織です。損傷すると治癒しにくく、安易に切除すると変形性膝関節症へ進行します。さらに半月板の中でも治癒しにくい部位である無血行野の修復手術には未だ課題があり、骨に穴を開けて骨髄液を関節内に供給するなどさまざまな試みがされています。
本研究グループでは、骨髄液フィブリンクロットが組織修復を促す効果に注目し、臨床応用することで比較的良好な治療成績を報告してきました。
<研究の内容>
本研究では、ウサギ半月板損傷モデルを作製し、無処置のコントロール群、末梢血フィブリンクロットを移植した群、骨髄液フィブリンクロットを移植した群を組織学的評価および力学的評価し比較検討しました。
組織学的評価では、半月板スコアリングシステムに従って、術後 4 週、12 週の半月板の状態を評価したところ、末梢血フィブリンクロット使用群・骨髄液フィブリンクロット使用群で良好な修復が得られました(図 1)。
また、術後 12 週での半月板修復部に圧を加え、その強度を測る力学的評価を実施したところ、骨髄液フィブリンクロット使用群が、コントロール群および末梢血フィブリンクロット使用群よりも有意に強度が高い結果となりました。
図 1
術後 12 週での組織像
骨髄液フィブリンクロット使用群が半月板修復良好
<期待される効果・今後の展開>
骨髄液フィブリンクロットの作製は追加の侵襲が少ない上に、比較的煩雑さが少ないため、すぐに臨床応用ができます。患者自身の骨髄液フィブリンクロットを使用した半月板修復術が普及し、半月板を温存できる症例が増えることが期待されます。
<資金情報>
本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究 C (21K09330) の支援を受けて行われました。
<用語解説>
※1 骨髄液由来フィブリンクロット:個体由来の骨髄液から作成した血餅(血液が凝固したもの)。
<掲載誌情報>
【発表雑誌】Arthroscopy
【 論 文 名 】Bone Marrow-Derived Fibrin Clots Stimulate Healing of a Meniscal Defect in a Rabbit Model
【 著 者 】Takuya Kinoshita, Yusuke Hashimoto, Kumi Orita, Ken Iida,Shinji Takahashi, Hiroaki Nakamura
【掲載 URL】https://doi.org/10.1016/j.arthro.2022.12.013
(掲載日:2022 年 12 月 24 日)
詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-04812.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。