国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科部長猪原匡史が代表を務めた科学研究費助成事業「高齢者の脳卒中後嚥下障害の急性期診療アルゴリズム確立」において、国循脳神経内科の福間一樹医師、猪原匡史部長らのグループが、急性期脳卒中におけるサルコペニア(筋量と筋力の低下が身体活動障害をもたらす症候群)と摂食嚥下障害(食べ物や飲み物を口の中に入れ、そしゃくし、飲み込むことの障害であり、誤嚥性肺炎を引き起こす原因となる)との関連を解明しました。
この研究成果は、欧州臨床栄養代謝学会(European. Society for Clinical Nutrition and Metabolism)の機関誌「Clinical nutrition」に公開されました。
背景
サルコペニアと摂食嚥下障害は、脳卒中後患者を含めた高齢者の予後や生活の質の低下に影響しうる重要な問題となっています。近年、サルコペニアによる摂食嚥下障害に注目が集まり、回復期リハビリテーションを受ける患者におけるサルコペニアの摂食嚥下予後への影響が報告されてきました。しかしながら、脳卒中急性期におけるサルコペニアと摂食嚥下予後との関連は明らかにされていませんでした。
研究手法
国立循環器病研究センター脳卒中ケアユニットで診療体制を整備し、2020年~2022年にかけて入院早期に低栄養、サルコペニア、摂食嚥下障害のスクリーニングを行った60歳以上の急性期脳卒中患者350例を登録しました。アジアのサルコペニア診断基準(Asian Working Group for Sarcopenia 2019)に基づき、健側(麻痺がない側)の握力と下腿周囲長、生体インピーダンス法による骨格筋量指数を計測する判定スキームでサルコペニアを診断しました。サルコペニア罹患群とサルコペニアを否定した対照群に分類し、摂食嚥下機能、経口摂取レベル、誤嚥性肺炎の合併を比較しました。
成果
登録患者のうち、119例(34%)にサルコペニアを認め、その66%が低栄養を伴っていました。サルコペニア罹患群は、対照群と比較して、摂食嚥下関連筋の一つである舌筋の筋力(舌圧)が低く、嚥下スクリーニングテスト(改訂水飲みテストスコア)の結果が不良でした(オッズ比 0.51, p = 0.042)。また、サルコペニアが入院7日後(オッズ比 4.72, p = 0.002)、入院14日後(オッズ比 3.93, p = 0.006)の経口摂取レベル不良(Functional Oral Intake Scale < 5)、入院中の誤嚥性肺炎合併(調整後オッズ比 6.12, p = 0.007)と有意な関連を示すことを明らかにしました。
本研究から得られた知見
本研究の結果から、本研究に登録した高齢脳卒中患者のサルコペニア罹患率は34%であり、サルコペニア罹患群は低栄養の併存率が高いことから栄養介入の必要性が示唆されます。さらに、サルコペニアは摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎のリスクであり、急性期の早期診断・栄養介入・誤嚥予防が求められることが示されます。本研究で得られた知見に基づいた低栄養・サルコペニア・摂食嚥下障害を包括した脳卒中管理の発展が期待されます。
図1)脳卒中患者のサルコペニア判定スキーム
発表論文情報
著者:
Kazuki Fukuma, Masatoshi Kamada, Kazuya Yamamoto, Chiaki Yokota, Soichiro Abe, Shinsaku Nakazawa, Tomotaka Tanaka, Takuro Chichikawa, Yuriko Nakaoku, Kunihiro Nishimura, Masatoshi Koga, Shigetoshi Takaya, Ken Sugimoto, Shinta Nishioka, Hidetaka Wakabayashi, Ichiro Fujishima, Masafumi Ihara
題名:
Pre-existing sarcopenia and swallowing outcomes in acute stroke patients
掲載誌:
Clinical nutrition
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0261561423001863?dgcid=author
謝辞
本研究は、科学研究費助成事業「高齢者の脳卒中後嚥下障害の急性期診療アルゴリズム確立」および厚生労働科学研究事業「脳卒中後の失語・嚥下障害・てんかん・認知症の実態調査と脳卒中生存者に対するチーム医療の確立を目指した研究」により支援されました。
詳細▶︎https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_38905/
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。