【本件のポイント】
・マインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法プログラムについての初めてのランダム化比較試験
・本プログラムが上記患者さんのパーソナルリカバリーに寄与する可能性が示唆された
・社会的・職業的機能の改善が難しい患者さんに対して、有効な治療の選択肢となる可能性
学校法人関西医科大学(大阪府枚方市 理事長・山下敏夫、学長・木梨達雄)精神神経科学講座加藤正樹准教授、総合医療センター精神神経科作業療法士山本敦子らの研究チームは、うつ病、不安症患者さんに対するマインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法の効果を検証し、マインドフルネスを組み込んだ 8 週間の作業療法プログラム(Mindfulness Occupational Therapy: MOT)が上記患者さんのパーソナルリカバリーに寄与する可能性を明らかにしました。詳しい研究概要は次ページ以降の別添資料をご参照ください。
書誌情報
掲載誌
Neuropsychobiology
論文タイトル
Effectiveness and changes in brain functions by an occupational therapy program incorporating mindfulness in outpatients with anxiety and depression: a randomized controlled trial
筆者
Atsuko Yamamoto, Banri Tsukuda, Shota Minami, Seina Hayamizu, Minami Naito, Yosuke Koshikawa, Toshiya Funatsuki, Chikashi Takano, Haruhiko Ogata, Yoshiteru Takekita, Keiichiro Nishida, Shunichiro Ikeda, Toshihiko Kinoshita, Masaki Kato
なお、本研究をまとめた論文が『Neuropsychobiology』(インパクトファクター:12.3、論文受理時の値)に 8 月 10 日(木)に掲載されました。
<本研究の背景>
うつ病と不安症は、世界における主要な健康問題とされています。これらの疾患は慢性的疾患であり、症状の改善や機能回復を得られた後も、社会的・職業的領域の役割において十分なリカバリーを得られない場合が少なくありません。マインドフルネス*1 は精神科の患者さんのパーソナルリカバリー*2 に大きく寄与することが示されていますが、その研究はまだ十分に行われていないのが現状です。すでに効果が確認されているマインドフルネスプログラムは、時間的、地理的、経済的な観点から、定期的に通院している患者さんにとって参加が難しいと考えられます。本研究では、これら課題を解決するために、マインドフルネスを組み込んだ 8 週間の作業療法プログラム(Mindfulness Occupational Therapy:MOT)を実施し、うつ病および不安症患者さんのパーソナルリカバリーを評価し脳機能への影響を調査しました。
<本研究の概要>
本研究は、うつ病および不安症の外来患者さんを対象とした、ランダム化比較試験です(図 1)。MOTは週 1 回 1.5 時間のセッションを 8 週間にわたり行い、その前後および追跡調査時(18 週)に評価しました。その結果、プログラムに参加した 13 名は、待機群の 12 名と比較して、リカバリープロセス尺度が有意に改善し(p<0.01)(図 2)、またこの改善は追跡調査時にも持続していました(図3)。さらに、脳波解析により、左背外側前頭前野(dlPFC)(図4)のβ2 帯域の電流源密度(current sourcedensity :CSD)が、プログラム参加群で待機群と比較して有意に増加したことが明らかとなりました(p<0.02)(図5)。本研究は MOT が CSD に影響を与えることを初めて明らかにしたもので、MOT のうつ病および不安症患者のパーソナルリカバリーの改善効果が示唆されました。プログラム参加群で観察された左 dlPFC の CSD の増加は、抑うつ症状の改善や幸福度の向上と関連している可能性があり、以前の報告と一致しています。MOT は、症状が軽減した後でも、社会的・職業的機能の改善が難しい患者さんに対して、有効な治療の選択肢となり得ることが示唆されました。
<本研究の成果>
本研究は、マインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法プログラムについての初めてのランダム化比較試験であり、うつ病と不安症のパーソナルリカバリーの改善にそのプログラムの有用性が示されました。また、その効果は定量脳波解析によっても裏付けられました。薬物療法などの生物学的治療だけでは十分なパーソナルリカバリーに至らない患者さんにとって、マインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法プログラムは、プログラムのアクセシビリティの観点も含めて、念頭に置くべき選択肢の一つになると考えられます。
用語説明
*1 マインドフルネス
第3世代の認知行動療法と呼ばれることもある、「今、ここ」に注意を向け価値判断せず、あるがままを受け入れる姿勢を養う
*2 パーソナルリカバリー
病気や障害を受容し新たな人生の意味や目的を見出し充実した生活を送る過程
詳細▶︎https://www.kmu.ac.jp/news/laaes7000000pj5l-att/20230816_PressRelease.pdf
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。