複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome:CRPS)は、比較的小さな外傷や手術などが契機となって激しい痛みが生じます。これまでの研究の中で、CRPSの脳機能を調べた研究は多くありますが、日常診療で使われる脳波を活用してCRPSの脳機能異常を明らかにした報告は少ないです。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの 大住 倫弘 准教授らは、名古屋大学医学部 平田 仁 教授、岩月 克之 講師、東京大学附属病院 住谷 昌彦 准教授らと共同で、CRPSにおける脳波ネットワーク異常の特徴を明らかにしました。この研究成果は、Clinical EEG and Neuroscience(Resting-state Electroencephalography Microstates Correlate with Pain Intensity in Patients with Complex Regional Pain Syndrome)に掲載されています。
研究概要
複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome:CRPS)は、比較的小さな外傷や手術などが契機となって激しい痛みが生じます。これまでの研究で、何らかの脳機能異常によってCRPSが増悪・長期化することが明らかになっています。特に、何もしていない「安静時」の脳活動の異常について多く報告されています。しかしながら、多くの研究ではfMRIやMEGなどの大掛かりな機器を使っており、日常診療で使われている脳波データではどのような異常があるのかは明らかになっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの 大住 倫弘 准教授らは、名古屋大学医学部 平田 仁 教授、岩月 克之 講師、東京大学附属病院 住谷 昌彦 准教授らと共同で、CRPSにおける脳波マイクロステートを分析し、安静時のデフォルトモードネットワークがCRPSの痛みのつよさと密接に関連していることを明らかにしました。
本研究のポイント
・CRPSにおける安静時の脳波活動を測定した。
・マイクロステート解析を活用して脳波ネットワークの異常を観察した。
・その結果、デフォルトモードネットワークの異常がCRPSの痛みのつよさと密接に関連していることが明らかになった。
研究内容
CRPSを有する者を対象に、安静時の脳波活動を計測して、脳波マイクロステート解析をしました(図1)。そして、それぞれのトポグラフパターンにおけるパラメータ(Mean Duration、 Time coverage etc…)とCRPSによる痛みのつよさとの相関関係を調べました。その結果、デフォルトモードネットワークで構成されていると考えられているトポグラフパターンのパラメータと痛みのつよさとの間に有意な相関関係がありました(図1)。つまり、デフォルトモードネットワークの異常がCRPSの痛みを増悪させている可能性が明らかになりました。加えて、初回の脳波測定日の6ヶ月後にも脳波を計測し、デフォルトモードネットワークの改善とともに痛みが緩和していることも確認されました。このことからデフォルトモードネットワークの改善がCRPSの痛みの緩和と密接に関連していることが考えられました。
図1:安静時脳波マイクロステート解析によって計算されるトポグラフパターンと痛みとの相関
本研究の臨床的意義及び今後の展開
日常診療で使われている脳波データを活用すればCRPSに生じている脳波ネットワーク異常を観察できる可能性を示唆しました。今後は、これらの脳波ネットワーク異常を改善させるためのリハビリテーションを検討していきます。
論文情報
Osumi M、 Sumitani M、 Iwatsuki K、 Hoshiyama M、 Imai R、 Morioka S、 Hirata H.
Clin EEG Neurosci. 2023
その他の情報
本研究は以下の助成を受けて実施したものです。
Japan Agency for Medical Research and Development (AMED)
詳細▶︎https://www.kio.ac.jp/topics_press/81789/
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。