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アシスト中に「透明」になるリハビリテーション用ロボットの基盤技術を開発

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【ポイント】

・リハビリテーション用のロボットのためにアシスト中の機械的透明性を高める技術を開発

・独自構造の新開発の融合型ハイブリッドアクチュエータを搭載した駆動関節に特徴

・外乱に強い関節の正確かつ大きなトルク制御を実現

・これまで難しかった中・重度の片麻痺患者に適応するリハビリテーションロボットの実現に期待

概要:

国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所の野田 智之 主幹研究員と電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻の仲田 佳弘 准教授らの研究グループは、リハビリテーションロボット(※1)の機械的な透明性(※2)をアシスト中に向上させる革新的な手法を提案しました。この研究グループは、肩関節リハビリテーションロボットのための関節駆動技術を開発し、ロボットの関節の機械的な透明性を検証する実験を行いました。この関節の駆動技術には、仲田と野田が独自に開発した融合型ハイブリッドリニアアクチュエータを採用しており、外部から加えられた動きの外乱に強く精密なトルク制御が可能な駆動技術を実現しました。

この研究では、従来のアシストロボットでは難しかった、ロボットの関節のアシスト中の機械的な透明性を高める技術と、透明性を検証するベンチマーク試験を開発しました。具体的には、様々な速度で外部から動きの外乱が与えられた時の、ロボット関節のトルク制御性を詳細に評価し、アシスト中に高い機械的透明性を実現できることが検証されました。この駆動技術により、ロボットを装着したユーザは、ロボットにアシストされているにも関わらず、ロボットが持つ機械的特性に制約されることなく自然な動きを実現したリハビリテーションやトレーニングを受けられることが期待できます。

この成果は、ロボティクス領域のトップカンファレンスである ICRA2024(米国電気電子学会(IEEE)主催)に採択され口頭発表されます。また、同国際会議における学会併設展示において当該技術を搭載した肩関節リハビリテーションロボットが展示・デモ発表されます。

(注釈 1)

下山 拓真 氏(電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻 博士前期課程 2 年)

野田 智之 主幹研究員(国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所)

寺前 達也 研究員(国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所)

仲田 佳弘 准教授(電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻)

からなる研究グループ(論文の著者順)

 

【背景】

リハビリテーションロボットの分野では、機械的な透明性の実現が近年重要視されています。機械的な透明性とは、利用者が動いた時に、ロボットがその動作に追従して動き、ロボットの存在を力覚的に知覚できない状態を指し、使用者が自然な動きを保ちながら効果的なリハビリテーションが行えるようにする特性です。この特性は、「Dynamic Transparency」(動的透明性)と呼ばれ、機械的な透明性を示す概念です。

従来の動的透明性の研究では、ロボットがその動作に追従して動き、ロボットが使用者の動作を妨げないようにすることが目標とされていました。しかし、この目標を達成するだけではロボットはユーザをアシストすることはできません。従来の駆動技術では、大きな力を出力した状態で動的透明性を高くしようとすると、制御が不安定になる問題から、十分に動的透明性を高めることができないという問題がありました。

現実のリハビリテーションでは、適時適切な支援力を提供することが必須です。特に中度から重度の障害を持つ患者に対しては、大きなアシスト力を出力する必要があります。このような状況では、従来技術では動的透明性を高めることができません。本研究では、このような患者群のため、リハビリテーションロボットが安定して十分なアシストを行いつつも、使用者の動作を妨げないようにする「アシスト中の動的透明性」を高めることを新たな研究コンセプトとして提案しました。

【手法】

このような背景から、これまでに仲田・野田は、融合型ハイブリッド直動アクチュエータ(※3)、という新しいアクチュエータコンセプトの提案(論文は Finalist of 2024 Best TransactionPaper Award for 2024 IEEE/ASME Transactions on Mechatronics 受賞)と、空圧と電磁力を用いる融合型ハイブリッド直動アクチュエータ(一体構造空電ハイブリッドアクチュエータ(※4))の研究を行っており、アクチュエータ単体での特性評価が行われていました。今回の研究では、アシストロボットの分野において、上記の研究コンセプトを実現するため、融合型ハイブリッド直動アクチュエータを搭載した外骨格ロボットの駆動関節を開発しました。また、患者の様々な動きを想定した「ロボット外部からの動きの外乱」を加えるベンチマーク試験を開発し、機械的な透明性を検証する実験を行いました。検証実験では、動きの外乱を試験機に加え、発生しているアシスト力、つまり駆動関節の発生トルクをどの程度正確に保つことができるかを評価しました。この試験では、動きの外乱に対して、設定したトルクが正確に制御されているほど、機械的な透明性が高いことを示します。外乱は遅い速度と早い速度の 2 パターン、試験機の目標トルクは 3 パターン設定され、試験機のトルクの調整能力を広範囲にわたって検証しました。また、空気圧シリンダのみを使用した制御と、空気圧力と電磁力のハイブリッド制御の効果を比較し、ハイブリッド駆動条件で駆動関節のトルク制御が最も正確で、開発した技術の機械的な透明性が高いことを検証しました。

【成果】

実験結果から、駆動関節患者は想定された動きに対して高い追従性と正確なトルクの制御を示しました。患者の動きを想定した様々な速度の動きの外乱に対して、ロボットの駆動装置が迅速に応答し、適切なアシストトルクを提供可能なことが示されました。これにより、リハビリテーション中の自然な動作を、アシスト中にサポートする能力が実証されました。また、空気圧シリンダのみで制御される従来システムと比較して、ハイブリッド制御を用いたシステムは、外乱下でより正確なトルク制御が可能であることが確認されました。これにより、実施可能なリハビリテーションの幅と、患者のリハビリテーション中の快適性が向上する可能性があります。

【今後の期待】

 この技術のさらなる発展により、より多様なシチュエーションにおけるリハビリテーションへの応用が期待されています。特に、様々な程度の障害を持つ患者に対してカスタマイズされたリハビリテーションプログラムの実現が見込まれます。さらに、この技術が他のリハビリテーション機器にも応用されることで、リハビリテーションの選択肢が拡がり、より多くの患者が恩恵を受けることが可能になります。将来的には、この外骨格ロボットの駆動技術が、患者の日常生活への復帰支援と生活の質の向上に大きく寄与することが期待されます。

図1 アシストロボットにおける「透明性」コンセプト。(a) 従来のロボット:ロボット固有の特性がユーザとの間に望ましくない相互作用力を発生させ、ユーザの自由な動作を制約する。(b) 従来の透明性コンセプト:相互作用力を 0 に保ち、ユーザの自由な動作を可能とするが、アシスト力は発生させない。(c) 提案されたアシスト中の透明性コンセプト:アシストのための相互作用力を発生させている最中に、ユーザの動作にロボットが追従しながらも、ロボット固有の特性を適切に打ち消し、理想の相互作用力を保ち続ける。このコンセプトは自身で腕を動かすことができず、常にアシスト力が必要となるような重・中度患者のリハビリテーションにおいて、自然なリハビリテーションを実現するために重要である。

 

図2 開発した試験機。(a) 肩関節機構の動作範囲。(b) 試験機に搭載された融合型ハイブリッドアクチュエータの構造。図の一部は断面図である。(c) 試験機の模式図。(d) 実験装置の写真。

図3 試験機の透明性の評価実験結果。異なる角速度の動作外乱(Slow: 0.31 rad/s, Fast: 0.65 rad/s)に対して、試験機のトルクを目標値(0, 3, および 6 N)に保つ能力を評価した。トルクの生成能力は、2 つのシステムの制御方法(P-P と P-E)で比較した。P-P (Pneumatic base force ‒ Pneumatic compensation force) 制御方法では、主な力を空気圧力で出力し、動摩擦も空気圧力で補償する。この制御手法は、従来のエアシリンダでも実施可能である。P-E (Pneumatic base force ‒ Electromagnetic compensation force) 制御方法では、主な力を空気圧力で出力し、動摩擦を電磁力で補償する。この制御手法は、空電ハイブリッドアクチュエータでのみ可能である。(a) Slow 条件における関節トルク。 (b) Fast 条件における関節トルク。(c) トルクの平均二条平方根誤差の比較。

(論文情報)

著者名:

Takuma Shimoyama, Tomoyuki Noda, Tatsuya Teramae, Yoshihiro Nakata

論文名:

Achieving Mechanical Transparency Using Fusion Hybrid Linear Actuator forShoulder Flexion and Extension in Exoskeleton Robot

会議名:

2024 IEEE International Conference on Robotics and Automation

公表日:

2024 年 5 月 13 日

(国際会議とデモンストレーションが行われる学会併設展示会場)

名称:

第 41 回 ロボット工学とオートメーションに関する国際会議2024 IEEE International Conference on Robotics and Automation(略称は ICRA2024)

会期:

令和 6 年 5 月 13 日(月)~5 月 17 日(金)

会場:

パシフィコ横浜

展示ブース番号:

IC-119 (デモ展示期間:5 月 13 日(月)~5 月 16 日(木))

*報道関係者の方は ICRA2024 ウェブページをご参照の上、無料のプレスパスをご請求ください。

(外部資金情報)

本研究は、JSPS 科研費、JP21H04911(アクチュエータ、能動関節、および評価装置の開発と実験)、および JST ムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2034(空気圧制御インタフェースの開発)の助成を受けたものです。

(用語説明)

※1 リハビリテーションロボット:運動麻痺の改善や身体のトレーニングのアシストを行う装着型のアシストロボット。

※2 機械的な透明性:ロボットに外部から動きの外乱が与えられたときに、ロボットが持つ機械的な特性が動きを制約しないこと。制約が少ないほど透明性が高い。

※3 融合型ハイブリッド直動アクチュエータ:複数のアクチュエータのエネルギーを力に変換する構造を融合させ、あたかも 1 つのアクチュエータのように内部で力を合成する、新しい直動アクチュエータ。

※4 一体構造空電ハイブリッドアクチュエータ:空気圧力と電磁力を組み合わせた融合型ハイブリッドアクチュエータであり、高い応答性と正確な力の制御を達成できる。

詳細︎▶︎https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2024/20240513_6253.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

アシスト中に「透明」になるリハビリテーション用ロボットの基盤技術を開発

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