12月19日に開催された第251回社会保障審議会介護給付費分科会で、令和8年度介護報酬改定の審議報告案が示された。処遇改善加算の対象サービスが拡大され、訪問リハビリテーション及び介護予防訪問リハビリテーションが新たに対象となる。令和8年6月施行予定で、リハビリテーション専門職にも賃上げの道が開かれる形となった。
処遇改善加算、訪問リハ等を新規対象に
審議報告案では、介護職員等処遇改善加算の対象を拡大する方針が示された。新たに対象となるのは、訪問看護及び介護予防訪問看護、訪問リハビリテーション及び介護予防訪問リハビリテーション、居宅介護支援及び介護予防支援の3類型だ。
報告案では「介護職員のみならず、介護支援専門員等の専門職の人材不足も深刻である状況」と指摘。現行の加算が介護職員以外にも配分されている実態を踏まえ、「引き続き介護職員の処遇改善が重要であることに留意しつつ、介護職員以外の介護従事者を新たに対象とすることが適当」とした。
算定要件はキャリアパス+職場環境
新規対象サービスの算定要件は、現行の介護職員等処遇改善加算Ⅳの取得に準ずる内容となる。具体的には、キャリアパス要件Ⅰ及びⅡ並びに職場環境等要件が必要だ。ただし「要件の整備には一定の期間を要する」として配慮措置を講じる方針も明記された。
既存の対象サービスでは、生産性向上や協働化に取り組む事業所・施設に対して、現行の加算Ⅰ・Ⅱの加算率に上乗せを行う新たな要件が設けられる。
委員からの意見──「継続的な処遇改善を」
日本介護支援専門員協会の濵田和則副会長は「居宅介護支援事業所等の介護支援専門員も生産性向上や協働化に取り組む上乗せの対象の事業所・職種として認めていただけるよう引き続きお願いしたい」と要望した。
日本看護協会の田母神裕美常任理事は「看護職員の役割に見合った処遇改善に向け、加算の確実な取得、実際の賃上げにつながることが重要」と述べ、より多くの事業者が算定できる対応を求めた。
全国老人保健施設協会の東憲太郎会長は、令和6年度の全産業の賃金と介護職員の賃金の差は月額3万円、年収で約100万円との認識を示した上で、「補正予算の1.9万円では全産業との差はまだ88万円ある」と指摘。令和8年度改定では「最低でも全介護従事者で月2万円、介護職員で月額2.9万円の賃上げができる程度の財源確保」を要請した。
一方、健康保険組合連合会の田川参考人(伊藤悦郎委員の代理)は「処遇改善を介護報酬で対応していくことは利用者負担や保険料負担のさらなる増加につながる」と指摘。賃金改善や職場環境改善が確実に行われているか効果検証を求めた。
福祉用具・居宅療養管理指導は今回対象外
日本労働組合総連合会の平山春樹生活福祉局長から、福祉用具貸与と居宅療養管理指導が対象外とされた理由について質問があった。
厚生労働省老人保健課長は、居宅療養管理指導については「保険医療機関または保険薬局の指定を受けた病院・診療所・薬局がサービスを提供している」ため、福祉用具については「市場の価格競争を通じて適切な価格による給付が行われるよう、保険給付上の公定価格を定めていないため、他の公定価格によるサービス提供とは異なる性質がある」と説明した。
平山委員は「介護業界全体の賃上げも求めており、今後ご検討いただければ」と再度要望した。
基準費用額、食費の引き上げへ
審議報告案には、介護保険施設等の食費に関する基準費用額の見直しも盛り込まれた。令和7年度介護事業経営概況調査の令和6年度決算では、介護保険施設における食費の平均費用額が現行の基準費用額を上回っていた。
報告案では「利用者負担への影響も勘案しつつ、在宅で生活する者との公平性の観点から必要な対応を行うことが適当」とした。
NPO法人高齢社会をよくする女性の会の石田路子副理事長は「低所得者だけでなく一定以上の所得がない要介護認定者に対しても配慮措置を検討いただくことを要望する」と述べた。
全国老人保健施設協会の東会長は、令和7年度以降も物価が急速に上がっており、現在の基準費用額との差は5000円程度にまで広がっているとの認識を示し、「170円程度の引き上げ」を求めた。
まとめ・今後の展望
田辺国昭分科会長は「審議報告の取扱いについては、今後のスケジュールも踏まえ、私と事務局で相談し、修文その他必要な対応を行った上で皆様に報告するとともに、厚生労働省のホームページに速やかに公表する」と述べた。
令和8年度介護報酬改定は6月施行の予定。令和7年度補正予算の「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」が令和7年12月分から令和8年5月分までをカバーするため、切れ目のない処遇改善となる。
報告案では、令和9年度介護報酬改定に向けても「持続的な賃上げに向けた環境整備の必要性や事業所・施設の事務負担軽減の必要性等の観点から、介護分野の処遇改善に向けた考え方の整理を行うべき」としている。
理学療法士としての現場経験を経て、医療・リハビリ分野の報道・編集に携わり、医療メディアを創業。これまでに数百人の医療従事者へのインタビューや記事執筆を行う。厚生労働省の検討会や政策資料を継続的に分析し、医療制度の変化を現場目線でわかりやすく伝える記事を多数制作。
近年は療法士専門の人材紹介・キャリア支援事業を立ち上げ、臨床現場で働く療法士の悩みや課題にも直接向き合いながら、政策・報道・現場支援の三方向から医療・リハビリ業界の発展に取り組んでいる。







