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【菅原健介先生】街づくリハビリテーションを実践する理学療法士

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療法士の"成果"が求められている時代

ー いきなりですが、菅原さんはデンマークで学生時代をすごしたとお聞きしました。諸外国と比べて日本のリハビリテーションはどうなんでしょうか?

 

菅原先生:正直、諸外国と僕が比べられるだけの見識がないのですが、アメリカにいるPTの友達の話しだと、アメリカは産業PTなど、理学療法士が企業に入ることでタイピング能力が上がるなどを具体的な数字で出しています。

 

会社の保険料を下げるために理学療法士がいたほうがいいとか、PTを配置することで小学校の子供の怪我が何%減るとか、そういったエビデンスがでていて、企業や小学校など各分野ごとにPTを配置するシステムになっているそうです。つまりアメリカの専門って「業種」の領域みたいなんです。

 

医療・介護の財源がもう枯渇している現在の日本において、医学モデルの専門分科のような形も必要ですが、一方ではもっと幅を広く捉えて職域拡大に繋げていければいいなと感じています。

 

そのモデルがアメリカなど諸外国にはに有るんです。もちろん丸々真似するのではなく、日本仕様にするのは大事ですが、そういった面の教育の導入は必要だと思います。

 

ー なるほど、具体的にはどういったことが必要だと思いますか。

菅原先生:『高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会』など、多く議論されているとは思うのですが、内閣府や厚労省の方とお会いした時に聞くのが、理学療法の話しを理学療法士に聞いていても、各団体や独自の手技ばかりの話しになってしまうそうです。

 

例えば、『うちの団体の手技を学んでいる人はこれができます!と。そうなってしまうと、客観的に理学療法はなんだかわからない。手技自体を否定する気は全然ないんだけれど、「理学療法」で何ができるのか。それが分からないと保険制度には載せられない』といった感じですね。

 

だから、理学療法士の有用性を分かって頂くには、手技を含め自費の分野の線をきめる。つまり理学療法の範囲をしっかり決めて、それ以外は理学療法ではないとしっかり決める。

 

そうしないと理学療法がなんなのかわからなくなってしまうのではないでしょうか。

 

ー 情報が溢れている今だからこそ、「理学療法」や「作業療法」としての力点や線引きを明確に打ち出すことが重要ですね。そういったことを含め、学生や若い療法士がしっかり理学療法や作業療法、言語聴覚療法のことを理解していく「教育」はより必要ですね。

 

菅原先生:そう思います。ただ病院で理学療法士をやっているときはそういった危機感はあまり考えなかったんです。

 

でも、親が代表をしているキャンナスというボランティア団体の現地コーディネーターとして避難所に8ヶ月間住み込みながら震災支援を経験する中で、危機感を感じるようになりました。

 

地域住民の方や、地域の保健師や医療職、支援にくる看護師の多くの方に理学療法士が全くしられておらず、『理学療法士さんってリハビリ室にいる人ね!』『骨折したりして、リハビリが必要になったらお声がけします』と。

 

本当に危機感を感じました。そういう経験も踏まえ、私はもっと広い範囲で理学療法士が働く場所が必要だと感じました。

 

私はいま、神奈川県藤沢市で小規模多機能型居宅介護という介護事業をやっているのですが、ご利用者の65%の要介護度が下がっていて、年間約1500万円程度の介護保険料の削減につながっています。

 

10カ所作ると、年間1.5億円の市の介護保険料を削減できると、地元の市長に提案しています。また、国の制度として、小規模多機能型居宅介護の加算自体を、PTが取れる様に『専門職加算』(現状は看護師加算のみ)して頂く様に、ご提案頂けないかと話をしにいきました。

 

国会質問でもあげてくださったのですが、厳しい回答が返ってきました。その他、他業種の方にも相談に行ったのですが同じく厳しい回答が返ってきました。平たく言うと小規模多機能のことを言われたというよりは、「リハビリは大丈夫??」といった回答でした。

 

だからこそ、もっと成果を残していかないといけない部分はあると感じます。

 

先ほども言いましたが、全てアメリカが良いということではなく、理学療法士が関わったおかげでこれだけ医療費や介護保険料を削減をできたということを、色んな分野で結果を出して認めてもらうことが求められています。

 

医療・介護の分野でもっと成果を出さないといけないし、結果を出せば、企業も理学療法士雇った方がいいんじゃないかという考えにもなるし、手当もつくかもしれない。

 

そこを切り開く人がこれから必要なんだと僕は思います。

 

トイザ・リハ

ー 今の話を聞く中でアナログだったものがテクノロジーで解決できるようになるなど、労働体系のパラダイムシフトが生じている時代においては、今までの「療法士像」という既存のものに依存しない発想や実践は本当に大事だと思いました。

 

菅原先生: そうですね。例えば、僕は自分の卒業研究のときに「理学療法士の職域拡大の可能性」というテーマで、大手玩具メーカーなどの経営企画の方に理学療法士雇いませんかと話をしました。

 

『バリアフリーもただ段差がないのではなく、作った後に何十年たっても改修・拡張しやすい可能性を残した提案を理学療法士が入っていればできますよ』なんてプレゼンをしました。

 

例えばトイザらスは病院を作ったらいいと思っていて、「トイザ・リハ」みたいな。子供はリハしに病院行くなんて楽しくないですよ。(あくまで僕だったら楽しくないという意味です)。

 

なので、注意が逸れちゃうかもしれないなどの問題は置いておいて、そういう可能性や発想は面白いと思います。理学療法士が知識を活かしておもちゃの営業をしてもいいですしね。

 

医療機器を売っている営業の方に聞いたら「一般の大学を出ていきなり”股関節”とか言われても何のことかもわからない」という話をしていました。

 

そういう方が医者に接待しながら営業するってすごく大変なことなんですよ。だから理学療法士や作業療法士が営業で売った方がいいものを紹介・マッチングできると思うんですよね。

 

ー 最近ではフィットネスに理学療法士が多く入っていたり、他業種への就職は増えてきた印象です。でも療法士が働くのはまだまだ病院が多いですね。もちろん医療職なので当たり前の話ではありますが。

 

菅原先生:そうなんですけど、そこの中だけに留めるのは知識も技術もあるのに凄い勿体無いなって思いますね。フィットネスをうちでも始めるんですけど、65歳になれば介護施設やリハビリを使えますが、40歳とかで退院してもその後、要介護度がつかなければ継続的にリハビリ・運動をするところがないのが現状ですよね。

 

フィットネスジムにリハ職がいて内容や運動強度を調整しながらトレーニングする。そんな環境に大きな可能性を感じます。ただ、今はそこにも大企業が入ってきていて、もう止まらない勢いというか、フィットネス業界の狙い通りになってきているというか。

 

そういった流れに対して、例えば理学療法協会発でフィットネスジムを作っていくとか、それくらいの大きな事をしたら面白いなとは感じています。

 

本来ならば専門職が真価を発揮できる領域まで、どんどん一般企業に押し込まれている。このままだと勢いでのみ込まれてしまうのでは、、、と感じざるをえませんね。

 

そうなってしまうと、誰かの為に、誰かの役に立ちたいと思いで理学療法士が活躍するのではなく、商業ベースの企業の一つのコマになってしまう可能性があるんですよね。そうなってしまったら悲しいなと感じます。

 

ー 確かにそうですよね。先ほどの療法士の強みを活かすフィットネスはニーズが大きそうですね。

 

菅原先生:まさにそうですね。ニーズは間違いなくあるんですが、絶対に成功するという保障がないから誰もやらない。誰かが突っ込んで生活できるのがわかればみんなやろうとするんだろうけど。

 

なので、今の時代は過去の成功事例をただまねるのではなく、新しい価値を生み出そうとする起業家マインドをもった、理学療法士が求められているのではないでしょうか。

 

費用対効果にすぐれたモデル

 

ー のちほど「小規模多機能」の魅力についてはじっくりお聞きしようと思うのですが、まずわかりやすいところで小規模多機能の利点について"コスト面"からお話頂けますでしょうか。

 

菅原先生:はい。まず少し遡って人口統計の図を見ると、日本の人口って明治維新までは3000万人しかいなかったんですよ。その後の50年で爆発的に増えて1億2000万人になり、これから急激に下がっていきます。

 

これだけ人口が激減していく中で、国としても1200兆の借金があって子供が生まれた瞬間に8300万円の負債を背負う国で。未だに国の借金が1分間に30万とか膨れ上がっています。

 

支える側も少なくなっている中で、2050年には65才以上と若者の割合が1:1.2 になると言われています。そんな時代に自分達の保身で給料を確保してくれとは言えませんよね。

 

療法士は高齢者が元気になることを、医療・介護費用を削減できる可能性がある。それをやった上で、しっかりと給料をもらえると思うんです。

 

ー なるほど。

 

菅原先生:だって、自分の子どもや、孫にこれ以上の負債を背負わせるわけにはいかないですよね。例えば特養ですが、特養一つを作るのに(場所によって違うが)20〜30億円かかっているといわれます。

 

それで100名しか入らないので1床3000万円で入居施設をつくっていることになるわけです。一人に一軒家を建ててあげているのと同じです。このような形では供給スピードが到底追いつかない時代です。
 
 

ー もっとスマートにコンパクトにできないか、ということでしょうか。

 

菅原先生:そう思います。時代にあったコストのかけ方って言うんでしょうか。コスト的にみると、小規模多機能なら作るのは3000万くらい、10箇所作れば3億円で、10分の1の値段で倍の数の利用者を見ることができるわけです。

 

この点からも小規模多機能のほうが費用対効率がいいと思います。なので雇用も生み出せます。あと、小規模多機能は地方分権されているので、より生活に合わせた形で制度も作ることができるはずなんですよね。そこに看護師だけでなく、療法士がいることが僕は理想だと思っています。

 

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