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イギリスで9年間勤めた理学療法士(PT)【木内大介】

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イギリスは患者さんがお金を払わない

木内先生:日本の大学ではもともと農学部で、微生物の研究をしていました。学生の頃はずっとラグビーをしていたのですが、「ラグビー発祥の地イギリスで勉強したい」という単純な理由で、大学卒業後にイギリスに留学をしました。

 

イギリスの大学ではスポーツ心理学やスポーツ生理学を中心に学びました。イギリスのあるレベル以上のラグビークラブにはだいたい理学療法士がいて、怪我をしたら理学療法士が診てくれます。

 

ラグビーで怪我をして理学療法士によくお世話になった経験と、スポーツ科学を学んでいる時に障害予防やリハビリの分野に興味を持っていたことから、理学療法を仕事として意識し始めていました。

 

ちょうどイギリスの大学を卒業する頃に、生物系学部卒を対象に、大学院レベルで理学療法士の資格が取得できるコースが開設されはじめていました。それで大学院で理学療法を勉強することにしました。

 
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大学院はスコットランドのアバディーンという所で学びました。卒業後はイギリス南部の海岸部の地方都市ボーンマスで就職し、働きました。最後はロンドンで働きました。イギリスにはNHS(National High Service)という国の医療システムがあります。

 

日本と保険制度が異なり、診療や治療を受ける時点では、患者さんはお金を払う必要がありません。医療にかかるお金は税金と健康保険から賄われています。他に日本と異なるのは、キャリアアップのために職場を移るのが普通です。

 

ある程度経験を積んだら、違う職場に移りさらに深く経験を積んだり、または違う分野で経験を積んだりします。私自身もいろいろなところで働きました。まず卒業後は、回復期・療養期の病院で働き、高齢者医療全般、特に整形疾患、脳梗塞、認知症の方々を診ていました。

 

その後、在宅で訪問リハビリの多職種チームで働いたり、急性期病院の脳梗塞病棟や集中治療室で働いたりもしました。病院やGPという家庭医のクリニックに併設されているPTクリニックで働いたり、サッカークラブやラグビークラブでも働きました。様々な分野で働く事で患者を全人的(holistic)にみることができるようになります。イギリスの理学療法士の地位が高いのは、医療的な知識や経験を身につけた上で、エビデンスに基づいて、体系的に評価や治療ができるのが一つポイントとしてあるかもしれません。

 

イギリスの就職事情〜実力主義のキャリアパス〜

木内先生:私がPTのコースに通う以前は、卒業すればほぼ100%就職できるような感じでしたが、私が卒業する1年くらい前から、就職率が60%くらいに落ちました。その当時の新卒者の就職は競争が厳しく、かなり大変でした。最近はだいぶ回復してきました。

 

インタビュアー:なぜ減らすことができたんですか?

 

木内先生:理学療法のコース数の削減と、新卒者の職域を拡大したのが大きいと思います。訪問リハビリチームとかメンタルヘルスチームとか障害者対象のチームとか、以前は経験を積んだ理学療法士でしか働けなかった分野に、サポート体制を整えて新卒の理学療法士でも働けるように就職の幅が広がっていきました。あと日本と違うのが就職して年数を経てば昇進というのはありません。

 

どの職も必ず一般公募で、書類選考と面接を経て、上のレベルの仕事に就いていきます。そのために普段から知識やスキルを上げ、それを面接で証明していかないと次のレベルに上がれません。書類審査と面接に加えて、新卒だと実技試験があったり、ある程度経験を積んだレベルだと5〜10分くらいのプレゼンがあります。それらを点数化したうえで、結果にかかわらず、必ずフィードバックをしてくれます。上に行けば行くほど役割が変わってきて、指導的な役割とかチーム運営、外部との連携と、それまでの経験やスキルを伝え、発信する立場になっていきます。担当する患者も、より複雑な症例になっていきます。

 
*目次

第1回:イギリスで9年勤めた理学療法士

第2回:オリンピック帯同で必要とされた理学療法士の強み

第3回:イギリスの教育で培われてきた能力を日本の医療現場に活かす

 

木内大介先生経歴

京都大学農学部卒業後、英国ロバート・ゴードン大学大学院修士課程にて、理学療法士の資格を取得。英国の病院、クリニック、スポーツクラブにて9年働く。2012年ロンドンオリンピックでは、理学療法士として選手村で各国の選手・役員の治療に当たる。2014年から株式会社メディヴァにてコンサルタントとして勤務。  

イギリスで9年間勤めた理学療法士(PT)【木内大介】

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