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イギリスの教育で培われた能力を日本の医療現場に活かす【木内大介】

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国家試験はないんですよ

インタビュアー:イギリスって、開業権ってあるんですか?

木内先生: あります。私も民間の理学療法クリニックでも働いていたのですが、患者さんはすべて自費で来ます。そこに来てた患者さんは交通事故後のむち打ち症とか腰痛や肩痛の患者さんが多かったです。保険会社からの紹介も多く、交通事故後の治療の一環として民間の理学療法クリニックが対応していました。PTの副業は珍しいことではなく、皆さん普通にしていました。

 

副業は経験を積むための一部として捉えられていました。通常の業務が終わった平日の夜や週末等にしていました。私もラグビークラブやサッカークラブで働いたりもしました。イギリスのPTは皆さん優秀です。学業的には、学部卒、または大学院卒ですし、また、卒業後も自らのレベルアップのために、働きながら大学院に通う人も多いです。アカデミックなところで発信しているPTが多いのでまだまだ盤石だと思います。

 

イギリスの理学療法士の資格を取得するには国家試験はありません。ただ国家資格を取るために、国から認定されている大学または大学院のコースを卒業する必要があります。理学療法士は人気があるので、そのコースに入るのも大変です。入ってからもカリキュラムはけっこう厳しいと思います。臨床実習の時間はどのコースも1100時間以上、私のコースは1200時間しました。コースを無事に卒業すると資格認定になりますが、卒業すること自体が大変です。

 

インタビュアー:教育をどういったことをされるんですか?

木内先生:エビデンスに基づく論理的な考え方と、問題解決能力を徹底して鍛えられます。大学での学習は、与えられるということはあまりなく、自ら課題を見つけ出して、それに対する勉強をし、クラスでは自分が学んだことを発表し、それについてディスカッションしていくということが多かったです。主体的で面白かったですが、負荷は高かったですね。

 

臨床において特に力を入れているのが問診であり、論理的に考えていくことが求められます。SOAPの形式を必ず使いますが、中でもS(Subjective)の部分が非常に重要視されています。まず患者さんの観察や患者さんへの問いかけになるのですが、そのやり方も無駄なく、必要な情報を効率的に引き出すことが目的になります。そのような患者さんとのやり取りから、患者さんに実際に触れる前に、疾患の鑑別とその原因に対する仮説を二つ三つ立てます。それから、O(Objective)の客観的アセスメントに移り、自らの立てた仮説が合ってるのかどうかをテストをしながら検証していく形をとります。

 

理学療法士の評価能力をコンサルティングに活かす

インタビュアー:イギリスのPTの資格を持っていると、日本では働けるんですか?

木内先生:PTの資格は、その国の法律にかなり縛られます。日本の場合は、外国で取得した理学療法士の免許に関して、厚生労働省が定めた書類を提出すると、国家試験の受験資格の認定または理学療法士免許認定の審査をしてくれます。

 

私の場合は、提出から審査結果まで約1年かかりましたが、理学療法士免許を認定していただけました。イギリスで9年勤めて日本に戻ってきましたが、個人的には仕事の内容に満足していましたし、その先のイメージも持っていましたし、また生活も過ごしやすかったので残ってもいいと思っていました。

 

けれど高齢になってきた両親のことや子供たちのこと、妻の希望などがあり、去年日本に帰国しました。せっかく日本に帰国し、新しい環境に入るということもあり、別の視点で医療に関わりたいと思い、今は医療コンサルタントとして働いています。主な業務は、在宅医療の開業・運営サポート、企業・自治体の地域包括ケアに関するプロジェクト、海外への日本の医療技術の輸出のプロジェクトなどに関わっています。

 

在宅医療に関しては、日本の良いところに、イギリスの良いところを少しずつ加えて、さらに良いものを創り出していければと考えています。PTとして臨床の現場で培ってきた問題解決能力は、課題を見つけて、問題を解決していくということで別の現場でも役に立っています。

 

日本で働き始めて約1年経つのですが、イギリスと日本の医療での違いを特に感じるのは、社会におけるPTの発言力や影響力ですね。イギリスは脳梗塞など国のガイドラインを作成するときや、政策をつくるときに、PTが実際に参画したり、PTの声が反映されるように働きかけたりしています。

 

PTにはエビデンスに基づく論理的思考があり、知識、経験、研究に裏付けられたリハビリ分野での専門家としての自負があるので、医師も含めた多職種の中で、患者さんにとって最適な治療方針について議論していって、それぞれの専門職としてお互いに尊重して働けるようになるといいですね。

 

*目次

第1回:イギリスで9年勤めた理学療法士

第2回:オリンピック帯同で必要とされた理学療法士の強み

第3回:イギリスの教育で培われてきた能力を日本の医療現場に活かす

 

木内大介先生経歴

京都大学農学部卒業後、英国ロバート・ゴードン大学大学院修士課程にて、理学療法士の資格を取得。英国の病院、クリニック、スポーツクラブにて9年働く。2012年ロンドンオリンピックでは、理学療法士として選手村で各国の選手・役員の治療に当たる。2014年から株式会社メディヴァにてコンサルタントとして勤務。 

イギリスの教育で培われた能力を日本の医療現場に活かす【木内大介】

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