○ 発表内容の概要
東京都健康長寿医療センターの石神昭人研究部長、滝野有花研究員、滝沢晶子連携大学院生らは、韓国釜山大学の Jaewon Lee 教授、順天堂大学の町田修一教授らと共同で、骨格筋でのビタミン C 不足は、性別に関係なく筋萎縮や身体能力の低下をもたらすことを明らかにしました。この研究成果は、骨格筋におけるビタミン Cの機能解明に大きく貢献するものと期待されます。本研究成果は、2022 年 6 月 23 日に Biology の電子版に掲載されました。
○ 研究目的
標準的な男性や女性の骨格筋量は、体重のおよそ 30~40%を占めます。また、骨格筋にはビタミン C が存在します。私たちは、以前に、ヒトと同様に体内でビタミン C を作れない雌のビタミン C 合成不全マウスを用いて、血漿や骨格筋のビタミン C が減少すると筋肉にどのような影響があるかを調べました。そして、ビタミンC 不足期間が長くなるにつれて、筋肉を構成する筋線維が細くなり、筋重量が減少して、再びビタミン C を与えると回復することを明らかにしました(Scientific Reports、 9、 4702、 2019)。しかし、この現象は雌だけに認められるのか、雄でも同様にビタミン C が減少すると骨格筋の筋線維が細くなり、筋重量が減少するのかは、わかっていませんでした。そこで本研究では、この点を明らかにしました。
○ 研究成果の概要
本研究では、ヒトと同様に体内でビタミン C を作れない雄のビタミン C 合成不全マウスを用いて、血漿や骨格筋のビタミン C が減少すると筋肉にどのような影響があるかを詳細に調べました。その結果、ビタミン C 不足期間が長くなると腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋、前脛骨筋、長趾伸筋などの筋肉を構成する筋線維が細くなり、筋重量が減少し、再びビタミン C を与えると回復することがわかりました(図 1)。また、筋力や自発的活動量により評価した身体能力も同様にビタミン C 不足期間が長くなるにつれて低下し、再びビタミン C を与えると回復しました。これらの現象は、以前に報告した雌での結果と同様でした。しかし、筋重量の減少や身体能力の低下は、雌の方が雄に比べて早期に認められました。
○ 研究の意義
本研究により、ビタミン C 不足は、雌雄など性別に関係なく骨格筋の萎縮や身体能力の低下をもたらすことが明らかとなりました。また、ビタミン C の再投与により、性別に関係なく回復できることも明らかになりました。ビタミン C は手軽に摂取できる食品成分です。この研究成果は、筋肉でのビタミン C の機能解明に大きく貢献するものと期待されます。
○ 掲載論文について
【掲載誌】オンライン科学雑誌「Biology(インパクトファクター:5.079)」(電子版)(2022 年 6 月 23 日)
https://www.mdpi.com/2079-7737/11/7/955/htm
【掲載論文の英文表題と著書およびその和訳】
Vitamin C Is Essential for the Maintenance of Skeletal Muscle Functions
Shoko Takisawa, Yuka Takino, Jaewon Lee, Shuichi Machida, and Akihito Ishigami * (*corresponding author)
ビタミン C は骨格筋の機能維持に不可欠である
滝沢 晶子、滝野 有花、Jaewon Lee、町田 修一、石神 昭人* (*責任著者)
【掲載論文の要旨】
ビタミン C(L-アスコルビン酸)は、コラーゲンの重合に不可欠な水溶性の抗酸化物質である。私たちは、以前に、ビタミン C 不足により骨格筋の萎縮や身体能力の低下が起こることをヒトと同様にビタミン C を体内で合成できない雌のビタミン C 合成不全マウスを用いて明らかにした。この現象が性別に関係なく雄のビタミン C合成不全マウスでも同様に認められるかを調べるため、雄のビタミン C 合成不全マウスをビタミン C 投与群と非投与群の 2 群に分けた。そして、4、8、12、16 週間後に腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋、前脛骨筋、長趾伸筋などの骨格筋の筋重量を測定した。腓腹筋のビタミン C 量は、高速液体クロマトグラフィーと電気化学検出器を用いて測定した。自発活動量は、XY 赤外線ビームにより 1 日の移動距離を測定した。筋力は、ワイアハング試験により、落下までのぶら下がり時間を測定した。全身持久力は、トレッドミルにより疲労困憊までの走行距離を測定した。その結果、ビタミン C 非投与群では、4 週間で骨格筋のビタミン C 濃度が著しく低下した。また、非投与群の腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋、前脛骨筋、長趾伸筋の筋重量は、12 週目からビタミン C 投与群に比べて有意に低値を示した。非投与群の全身持久力は、8 週より、また自発的活動量は、12 週より、ビタミンC 投与群に比べて有意に低値を示した。とても興味深いことに、これら、筋重量の低下や全身持久力、自発活動量の低下は、ビタミン C を再投与することにより回復した。このように、ビタミン C は骨格筋の機能維持に不可欠であることがわかった。本研究より、ビタミン C の不足は、性別に関係なく、骨格筋の萎縮、及び身体能力低下の原因となることが明らかとなった(図 1)。また、ビタミン C の再投与により回復できることも明らかになった。
【共同研究チーム】
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 老化制御研究チーム 分子老化制御
石神 昭人 研究部長、滝野 有花 研究員、滝沢 晶子 連携大学院生
韓国釜山大学
Jaewon Lee 教授
順天堂大学
町田 修一 教授
図の説明
(図1)骨格筋でビタミン C が不足すると、性別に関係なく、骨格筋の萎縮や身体能力の低下をもたらす。また、ビタミン C の再投与により回復する。
詳細▶︎https://www.tmghig.jp/research/release/2022/0714-2.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。