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【論文紹介 第1回】PT養成校学生は特に将来の経済面に不安があり、将来の希望年収は平均年収以上であった

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本研究は理学療法士養成校の学生を対象としたキャリア調査研究である.第1回ではキャリアの関心度、仕事や生活への不安の有無と内容、将来の希望年収の結果を紹介する.

ポイント

・キャリアに関心がある学生が多いが,それ以上に仕事や生活に不安がある学生が多かった.

・不安の内容は「経済面」が最も多く,次いで「仕事と生活の両立」,「業務」の順であり,時代とともに価値観が変化してきていると考えられる.

・将来の希望年収は,平均年収以上である「500〜700万円以下」を希望する学生が全体の67.4%であった.

本研究成果は2024年2月15日,「日本リハビリテーション教育学会誌」にオンライン掲載されました.

研究の背景

 近年,理学療法士(以下,PT)のキャリアや働き方は劇的に変化してきており,学生のうちから様々なキャリア形成を考えていると予測される.これら多様性は,言い換えればロールモデルの未確立とも考えられ,将来に不安を抱える学生が多いのも事実である.看護師や歯科医などのキャリア調査では,認定や資格の取得以外にも,興味ある専門分野,開業願望,開業後の希望年収など,より詳細なキャリア調査が実施されているが,PT学生における働き方の多様性に合わせた詳細なキャリア調査は見当たらない.そこで本研究では,私立大学のPT養成校学生1年生~4年生に対して,キャリアの関心度,卒業後の進路や興味ある専門分野,仕事や生活への不安の有無と内容,将来の希望年収,資格や学位取得の必要性,起業や兼業願望の有無と内容,キャリアに関する情報収集源について調査を実施した.

研究内容

 本研究は,対象者に対してキャリア意識を無記名自記式のアンケート調査にて実施した.質問紙は,先行研究に準じて著者が作成した(図1).本研究における「キャリア」の定義は,文部科学省により定義されている「人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で,自らの役割の価値や自分との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」として実施した.アンケート内容は,キャリアの関心度,卒業後の進路や興味ある専門分野,仕事や生活への不安の有無と内容,将来の希望年収,資格(認定PT・専門PT)や学位(修士・博士)取得の必要性,起業や兼業願望の有無と内容,キャリアに関する情報収集源の24項目とした.

図1 キャリア調査に使用したアンケート用紙

結果(第1回ではキャリアの関心度、仕事や生活への不安の有無と内容、将来の希望年収のみ)

 アンケート調査の回収率は86.3%(278/322名)であった.キャリアの関心度では,全体の69.0%が「関心がある」(1:とても関心がある,2:やや関心があると回答した人数の割合)を示していた.またキャリアの関心度は,性別間では有意差はなく,学年間はKruskal-Wallis検定にて有意差(p<0.05)が認められ,その後のBonferroni法の多重比較にて2年生より1年生でキャリアの意識が高かった(p<0.05)(表1).仕事や生活への不安では,全体の82.0%が「不安がある」(1:とても不安がある,2:やや不安があると回答した人数の割合)ととても高く,性別間および学年間に有意差はなかった(表2).不安の内容では,全体(不安があると回答した人数)で「経済面」が32.7%と最も高く,次いで「仕事と生活の両立」が30.6%,「業務」が29.6%の順であった.性別間では,Fisherの正確確率検定後,調整済み残差にて女性より男性では「経済面」が多かった(p<0.05)(表3).将来の希望年収では,「600万円以下」が全体の28.9%と最も高く,次いで「500万円以下」が23.4%,「700万円以下」が15.1%の順であった.性別間では,Fisherの正確確率検定後,調整済み残差にて男性より女性では「500万円以下」や「600万円以下」が多く,女性より男性では「700万円以下」や「800万円以下」,「1000万円以上」が多かった(p<0.01)(表4).

 

 

 

 

今後の展望

 本研究では,PT養成校学生のキャリア意識として,キャリアに関心がある反面,仕事や生活に不安がある学生も多かった.またその内容は「経済面」が最も多く,次いで「仕事と生活の両立」,「業務」の順であり,将来の希望年収は平均年収以上である「500〜700万円以下」を希望する学生が多かった.今後は養成校の属性や地域性を考慮するとともに,現職者を対象とした調査を実施することで,少しでもPT学生や若手PTが年収やワーク・ライフ・バランスを意識したキャリア形成をしていく上での意思決定に役立つ要因を解明していく必要があると考える.

掲載誌情報

【発表雑誌】日本リハビリテーション教育学会誌

【論文名】私立大学の理学療法士養成校学生におけるキャリア意識の実態調査

【著者】稲垣郁哉1)、山口和人1)、堀本ゆかり2)

1)日本医療科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻

2)国際医療福祉大学大学院 医療福祉教育・管理分野

掲載URL:https://rehaac.org/pdf/nihonreha/2024_nihonriha_vol7_no1.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

【目次】

第1回:PT養成校学生は特に将来の経済面に不安があり、将来の希望年収は平均年収以上であった

第2回:PT養成校学生が考える認定・専門理学療法士や修士・博士の必要性とは

第3回:起業や兼業に興味ある学生は2〜3割程度おり、パーソナルジムに興味ある傾向

第4回:キャリアに関する情報収集源ではSNSをほとんど活用していない

【論文紹介 第1回】PT養成校学生は特に将来の経済面に不安があり、将来の希望年収は平均年収以上であった

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