人の気持ちを元気にする活動
インタビュアー:介護保険が始まったくらいの時期というのは、杖や福祉用具はデザインをあまり重視していなかったのですか?
池田先生:個人的な考えですけれど、多くの福祉用具のデザインは、何らかの理由によりある行為が出来ない、難しいという<マイナス>な状態を、出来る状態<ゼロ>にするという、機能性に偏りすぎているような気がします。
私達が何かの道具やモノを買うとき、それらを使って行う行為ができる、便利になるのは当然のことで、色が綺麗なもの、デザインがカッコいいものを探しますよね。
機能的なことは当たり前で、さらに色柄、素材などのような<プラス>の要素を求めているわけです。 これからの福祉用具は機能性に加えて、美しさ、豊かさ、使っていてワクワクするような要素をもっと盛り込んでほしいものですね。
もちろん、少しずつ改善されてきていると感じています。
施設デザインについても、院内にアメニティ向上委員会などが設置されるなど、感心は高まってきています。いわゆる病院っぽい病院ではなく、ホテルような、カフェのようなイメージの施設も多く見られるようになってきました。
ところが、経営者の方が有名なデザイナーに依頼し、お洒落な空間が完成しても、職員の皆さんがその意味を理解し、有効に使えなければ、いずれまたちぐはぐな落ち着かない空間に逆戻りしてしまう。
作る人、使う人の思いが繋がらなければ、表面的に美しくなっても意味がないということを、インテリアや家具の仕事をして強く思うようになりました。
インタビュアー:家具やインテリアを変えると高齢者にどんな影響がありますか?
池田先生:一つの例として、ご利用者様の作品を美しく飾る効果についてお話ししましょう。
アクティビティとして「ちぎり絵」に取り組んでいただいたとします。
その作品を掲示板に展示するということは各施設でもよく行われているでしょう。画鋲やテープでただ貼り付けるのではなく、台紙を活用したり、額装したり、美しく配置したりして、アーティストの作品のように飾ってみてはいかがでしょうか。
飾り方ひとつで芸術性が高まります。
それを見た周囲の方から褒められれば、自尊心の向上、次の作品づくりへの意欲が増すなどの精神面への効果が期待できます。
ご家族には「大切に飾られた作品」=(イコール)「うちのお婆ちゃんも(作品と同じように)スタッフの方に大切にしてもらっている」と感じて、施設への信頼、安心を感じていただけるかもしれません。
利用を検討している施設見学のお客様にも良い印象を与えますので、集客や経営面においてもよい影響を及ぼします。
これはほんの一例ですが、インテリアや住環境を改善することで、人の気持ちを元気にする活動を「インテリアリハビリテーション®」と名付けました。
インタビュアー:私も職場の人に頼んで利用者さんのマニキュアを塗ったら、今は自分でするようになりましたし、周りから褒められて色んなところに出ていくようになったって聞きました。
池田先生:それは素晴らしいことですね。
インテリアリハビリテーション®の活動はそれ自体が単独で目立ったり、優先されたりするのではなく、患者様、ご利用者様、スタッフの皆さん方がより輝くための場づくり、背景や舞台を再構築しているとご説明すると、理解していただきやすいようです。
整理整頓は、“感謝の瞬間をよりよいものにするための”環境づくり
インタビュアー:「インテリアリハビリテーション」は、わかりにくいと言われますか?
池田先生:例えば法人様での職員研修で、インテリアの勉強という捉え方をされると、何がリハビリテーションに関係するのか、理解しづらいスタッフさんもいらっしゃるようです。
法人研修では、初めに<総論・概念>をお伝えします。その後、<各論>を学んだら翌月は<実践発表>という流れを繰り返します。
学んだことを実際に自分の部署で実践してみて、インテリアや環境の改善が、患者様やご利用者様に何かしらの変化をもたらしていることを目の当たりにして、インテリアリハビリテーションの効果が腑に落ちてくるようです。
ところで、“整理整頓”って上司や先輩に言われてするのは嫌じゃないですか?
インタビュアー:そうですね。それがきれいだと思って自主的にする人としない人がいますけど、認識の違いがありますね。
池田先生:PTやOTは、転倒予防の観点からも、すっきりと片付いた環境で生活することが大切だとわかっています。
ところが、実際自分が職場や自宅の整理整頓をするとなると苦手に思う人が多いようです。セラピストに限らず全ての医療福祉関連職種の皆さんにとって、この苦手意識は問題だと思いました。
事故防止という目的も大きいのですが、整理がきちんとできていると仕事の効率が上がるんですよ。
医療福祉の仕事において、人と人が接する部分は効率では測れないものです。でも、スタッフだけで済む業務や事務的な作業、これらが効率化すれば、ゆとりの時間が生まれます。
このことでご利用者様の動作をじっくり見守ることができたり、患者様の話にもっと耳を傾けたりすることができます。 「そのための整理整頓なんですよ」と私から職員の皆さんに説明させてもらっています。
これによって、片づけは苦手、できればやりたくない、という考えがほぐれてくるようです。
インタビュアー:そうですよね。きれいにしようよって言っても方法論が分からない人もいますよね。
池田先生:片付けの方法って、学校の勉強のように、きちんと習ったことがある人ってまずいませんからね。研修では具体的にお伝えしています。
目的も、単に見かけが綺麗になるだけでは、いまひとつやる気がわかない方もいらっしゃるでしょう。
そこで、スタッフの皆さんに仕事のやりがいを改めてお訊ねしてみると「感謝の言葉をいただいた時」「心が通う交流ができた時」などの回答でした。
「そんな瞬間をよりよいものにするための環境づくりですよ」とお伝えして、自分達のメリットを感じてもらえるようにしています。
(インタビュアー:輪違 ライター:林・蜷川)
池田 由里子先生経歴
株式会社リハブインテリアズ 代表取締役
【経歴】 1968年、福岡県北九州市生まれ。
私立明治学園高等学校卒業。 鹿児島大学医療技術短期大学部理学療法学科卒業後、 医療法人社団寿量会熊本機能病院にて理学療法士として勤務。
その後インテリアコーディネーターの資格を取得し、医療福祉施設を数多く手がける株式会社硯川設計(熊本市)、北欧福祉家具輸入販売の株式会社デアマイスター(東京都)を経て、
2008年8月、株式会社リハブインテリアズを設立。
【保有資格】
理学療法士・インテリアコーディネーター
整理収納アドバイザー1級 整理収納アドバイザー2級認定講師
カラーコーディネーター2級
ハート&カラーインストラクター
照明コンサルタント
介護支援専門員
福祉用具プランナー
福祉住環境コーディネーター2級
※こちらは池田先生がTEDxFukuoka 登壇時の動画です。
「つなげ、つながる、価値の創造 - INTERIOR REHABILITATION 」