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インタビュー174回:理学療法士(PT)井ノ原裕紀子先生 リンパ浮腫治療と保険適応外でのケア no.5

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妊娠、そして出産。

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インタビュアー:病院で働いている理学療法士も、もっと患者さんと関わりたいけど時間や単位の制約があってできないと思っている人が多いと思います。

 

井ノ原先生:正直厳しいところはあるんじゃないですか?雇用されている立場では、経営面も含めた病院の方針に従わないといけない大前提がありますから。また縦横の縛りもあるでしょうから、たとえ患者さん本意という大義名分があっても、自分だけが勝手なこともできないでしょうしね。

 そういう点では、私のような働き方はまさに患者さん本意を貫くことができます。でも、自費対応って、イコール儲かる、という変なイメージがあるみたいですけど(苦笑)全然そんなことないですよ。私には「自分の家族を守れない人に、他人を守れる筈がない」という持論があるんです。

患者さまにとって、私は頼れる存在かも知れないですけど、突き詰めたら「私の代わり」は探せば見つかるかも知れません。でも私の家族にとっては「私の代わり」はいないんですよ。かけがえのない存在を大事にできずに他人を優先するなんて不遜だと思っています。

それを踏まえた仕事の時間の構成をしていますから(現在では原則一日二組限定)、全然儲かりませんよ(笑)

しかも何もかも一人ですから、どんな場合であろうと業務を誰かに代わってもらうこともできないので、儲かるどころか、むしろ割に合わないかも(苦笑)

 

インタビュアー:確かに、家庭のことを考えると、いい働きかたですよね。

 

井ノ原先生:そうですね、色々を経て、最終的にこのスタイルに落ち着いた感じですね。

 立ち上げ当初は、余りのニーズの高さに、なりふり構わずな感じで没頭していましたが、患者さま本意を思い詰め過ぎて、休業日のご予約の希望を叶えたり、早朝・深夜の電話にまで丁寧に対応したりするうちに、だんだん体調に不安を感じるようになってしまって。

待ってくださっている患者さまがたくさんいらっしゃるからと頑張ってきたつもりでしたが、そのせいで私が身体を壊してしまって対応ができなくなったら、元も子もないですよね。それで、自分の身体もちゃんと考えなければと思うようになりました。

 それから程なく妊娠がわかり、翌年次女を出産したんですが、妊娠38週まで働いてましたよ。三人目なのに予定日より一週間以上遅れましたが(苦笑)

でも産後一か月半で復帰しました。しかも子連れで!この辺では生後六ヶ月から保育所に入所できるので、六ヶ月になるまでの約四ヶ月間、サロンにベビーベッドを設えて、「同伴出勤」(笑)で過ごしました。家族優先や自分の体調管理優先のポリシーは、この頃に決定的になったと思います。

ただ、私の場合は夫という大黒柱がある上での仕事ですから、収入を第一義に考えなくても済むという利点があるので、ある意味ワガママな働き方をさせてもらうことができているというのは感じています。全力で支援してくれる夫や家族には、感謝に堪えません。

 子連れで仕事ができる環境というのは起業家ならではの特権でもあるので、羨ましがられることも多かったですが、良いことばかりじゃなかったですよ。授乳やオムツ替えなど必ず時間を割かないといけませんから、尋常でない程気を遣うこと前提でしたし。

余談ですが、Her’sは「来るものは拒まず」の方針なので、男性の患者さんにも対応しています。だって、それでなくても対応施設が少ないところへ男性だからと断られたら、男性の患者さんは途方に暮れることになるじゃないですか。

今も年間数人は見えますよ。なので、授乳がある期間に男性の患者さんのご予約が入ったらどうしよう!?と。そうですね、これまで続けてきた中で、私にとってこの頃が最大のストレスだったかも知れないですね(苦笑)

ごまかしのないグレー

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インタビュアー:開業問題に関して色々と囁かれていますが、何か先生のところに話はありましたか?

これまでで最大のピンチは、保健所が視察にやってきたことですかね。

ある日突然、保健所から電話がかかってきて「お伺いしてもよろしいですか」と。何もやましいことはしてなくても「保健所が来る」なんて聞いたら身構えるじゃないですか。心当たりも身に覚えも全く無いけど、それはそれで、何がいけなかったのかと余計に焦りました。

 で、実際に保健所の方が来られましたが、結論は、なんと根も葉もないデマが苦情として通報されていて、その事実確認だったんです。本当にビックリして、週刊誌みたいなことが、実際に起こるんだと思いました。

 確かに、Her’sの業務内容は、業界的には「グレー」だという自覚はあります。但し、昨今よく見かける「『ごまかし』のグレー」ではなく、則るべき法律のない中で出来るだけ真っ当にやっていくために、現行の法制度の解釈で可能な限りの遵守を心掛けた「『限りなく白に近づけたい』グレー」であることに自信を持っています。

ささやかな言葉の選択一つ、表現の仕方一つにも、細心の注意を払ってきました。当然、この時もお咎めなしでしたが、「『ごまかし』のグレー」で綱渡り同然に活動している人たちは、いずれ然るべき時がやってきたら、それはもう、困るんじゃないでしょうか。

大変なことになると思いますよ。

そして、それは自分だけの問題ではなく、業界にも多大な影響を及ぼすことになる危険をちゃんと自覚して欲しい、と言うか、自覚しないといけないですね。

摘発されないから大丈夫なのではなく、特に経験年数の浅いうちは、単に知られていないだけということが考えられます。年数を経て、ある程度知られるようになってからが、本当の正念場だということを頭に置いておいた方が良いですよ。


  *目次
【第1回】ブラックジャックに憧れて
【第2回】保険適応外のケア
【第3回】リンパ浮腫、診療をしないと…?
【第4回】自費診療と病院との違い
【第5回】産後1ヶ月の職場復帰
【第6回】開業について、私はこう考える!

井ノ原先生も登壇し、女性医学が学べる「ウーマンズヘルスケアフォーラム2016」!

詳しくは、こちらから↓woman2016

井ノ原裕紀子先生経歴

1993年3月 神戸大学医療技術短期大学部 理学療法学科卒業
同 4月 ㈱塩野興産入社
2005年 11月 【Her's】創業
2006年12月 ㈱塩野興産退社
2007年3月 Her's・ケア部門立ち上げ
2008年4月 第3子(次女)出産
2013年1月 第1回リンパ浮腫療法士認定
2013年9月 一般社団法人WiTHs設立(代表理事)
2015年1月 一般社団法人WiTHs退社
2015年3月 がんリハビリテーション インテンシブコース修了
2015年11月 EPochアカデミック事業部部長就任

  【ようこそ!Her’sへ】
 http://hers.ko-co.jp/
インタビュー174回:理学療法士(PT)井ノ原裕紀子先生 リンパ浮腫治療と保険適応外でのケア no.5

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