理学療法業界におけるキャリア教育の遅れ【理学療法士 |荒木 智子先生】

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理学療法士になったキッカケは「オリンピック」

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ー 荒木先生が理学療法士になられたきっかけは?

 

荒木先生 少し壮大な話になりますが、元々はなんらかの形で「オリンピックに関わりたい」と思っていました。観客ではなく、裏方として関わろうと考えた時、中学時代のOBの方のチームドクターの経験談を聞いたことでメディカルでの関わりが浮かびました。

 

しかし、そう考えた頃はすでに、高2の終わり。医師を志しましたが、最終的には理学療法士への道を選択しました。大学は、北海道でしたが、決まったのは3月の終わり。まさか自分が北海道に行くとは思ってもみませんでした(笑)

 

入ってからは、あまりの忙しさに最初は圧倒されましたが、学年があがるにつれて、医学部よりももしかしたら面白いかも?と思いました。四年次の臨床実習で指導者の先生方の影響を受け、大学の先生の勧めもあり、卒後は東京の急性期総合病院に勤めました。

 

理学療法士の仕事を続けながらも、スポーツ医学を学びたい気持ちは消えず、アスレッチックトレーナー(AT)の勉強も考えました。そこで、恩師に相談すると、大学院を勧められ、早稲田大学(以下、早大)の大学院へ進学することになりました。これまた、出願締め切りギリギリで決定しました(笑)

 

アスリートをみるのは、医療とは少し違う

ー そこからスポーツ理学療法へ身を投じたということですね。

 

荒木先生 そうですね。早大では身近に、ハイレベルなアスリートがいる環境でしたし、学内にクリニックもありましたので、研究やクリニックで様々な職種の方々とご一緒したことが多くありました。

 

先輩からご縁をいただいて、パーソナルトレーナーをやっていたこともありました。 PTとしては、クリニックや老健で非常勤をして生計をたててました。

 

アスリートをみるのは、医療とは少し違って、ADLのみならず、競技を考えるという点で非常に勉強になりました。特に多く関わったのはマラソンですね。しかも市民マラソン。

 

パーソナルトレーナーとして企業と契約していたので、ホノルルマラソンツアーなどに帯同して、フルマラソンの翌日に走れるからだづくりに関われたのはとても楽しく、勉強になりました。

 

女性のキャリアの継続について考える

ー  荒木先生への勝手なイメージで、ウィメンズヘルス分野に特化していると思っていました。先ほどまでのお話から、ウィメンズヘルス分野に興味を持たれたきっかけは、なんだったのでしょうか?

 

荒木先生 大学院卒業後、これもご縁なのですが、埼玉県立大学に教員として入職して同僚となった須永先生(須永康代先生)からお聞きして知りました。

 

その当時私は、子供の足の発育発達について研究していたので、お話を聞いていただけなのですが、その数年後に自分が妊娠・出産を経験してから考えるようになりました。

 

私の場合、ウィメンズヘルスの中でも、特に女性のキャリアの継続について考えてきています。女性に限った話ではなく、男女ともに関係ある話なのですが、例えば、子育てをしながらも変わらずに働き続け、夫婦関係も変わらずに継続できるために必要なことを検討していたりします。

 

自分自身が夫も多忙な中、子育てして、仕事しているので、そこを「どうしたら楽しくできるか、珍しくなくなるか」ということを考えています。

 

理学療法士という名前はまだまだ認知されていない

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ー 先生が代表理事をされている一般社団法人WiTHsの活動を教えていただけますでしょうか?

 

荒木先生 5年ほど前、私がワークライフバランスの研究をしていた頃、研究会で発表したときに、そこへいらっしゃっていた井ノ原さん(リンパ浮腫トータルケアサロンHer`s代表)とお話させていただきました。

 

その後、2013年にこの団体を立ち上げる話があり、そのころには夫が転職して神戸にいましたので、それを追って千葉から神戸に転居することを決めたことをきっかけに2013年9月、本格始動しました。

 

主な活動は、東灘区の地域向けに、産前・産後の女性向けに健康増進、運動指導を行っています。人数は、セミパーソナルのような形でおひとりおひとりにじっくりと関われる方法で行っています。

 

法人としても、プログラムとしてもまだまだ課題は多いので、そこをクリアしながら進めていこうと思っています。この活動を通して感じるのは、理学療法士という名前が、まだまだ認知されていないというところです。

 

これまでは、医療機関にいて処方箋を待って対象者の方と出会っていましたが、今後は私たち専門家が地域に出向いて、関わっていくことも必要だと感じています。そんな中でより感じるのは、理学療法士の仕事にも、治療家の一面とそうではない一面の両方があります。

 

地域の予防・健康増進として活動していく場合、単独での治療行為はできないということを考慮する必要があって、じゃ、どうしていくかとなったら、まずは対象者の方の話を聞き、寄り添うことから始まるのではないかと思っています。

 

こちらが治療として介入できないなら、ご本人の能力を見つけたり、伸ばしたり、ということも運動指導や相談としてできるんじゃないかなと思っています。

 

悩んだ時に、知ってる理学療法士に相談する、そんな雰囲気を作れたらいいなと思います。もちろん、必要に応じて病院に行っていただいて必要な治療を受けてもらう橋渡しのような役割も果たせるのではないかと。

 

そんなことを言っていると、時々「それは理学療法士の仕事じゃないのでは?」なんていわれることもありますが。出会った人が少しでも喜んでくれたら嬉しいです。

 

ー 先生が教育に関わり始めたきっかけを教えていただけますか?

 

荒木先生 これもご縁ですが修士を修了するときに札幌医大のころの恩師が声をかけてくださったのが最初のきっかけです。教員になった最初の一番の上司が細田多穂先生(当時の埼玉県立大学 保健医療福祉学部教授)。

 

臨床から研究にわたった私の経歴を細田先生は「いろいろなところで経験を積んできた」という捉え方をして下さって、安心して教育の道に入ることができました。正直なところ、教育学をしっかり勉強したわけでもなく、理学療法士としての経験もまだまだ浅いので、難しいと感じることの方が多くあります。

 

さらに年々、学生とも年齢が離れていくことで、彼らとの価値観も変わり、このまま教育の場にいることに不安を感じることも少なくありません。やはり、自分は理学療法士なので理学療法士として接するのが一番だと思っています。

 

なので、理学療法士として伝えられることは、最大限伝えようと思っています。特に、臨床と学校教育は乖離しやすい部分がまだまだあるので、その辺りをつなぐことを意識的に取り組んでいます。

 

たとえば地域の活動に学生も参画するなど、学内でできることは限られているので、現場に一緒に出るとこちらも学べることがたくさんあります。

 

ワーク・ライフバランスコンサルタント

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ー 今、教育以外にやっていきたいことはありますか?

 

荒木先生:あまり表だって活動していませんが、「ワーク・ライフバランスコンサルタント」という資格をもっています。

 

この資格の勉強をして、企業の人事担当の方とお話しする機会が増えたことで、色々とわかったことがあります。そこで感じたことは、一般企業に比べ、医療業界では労働時間に関する認識が個々に任されすぎていると感じます。

 

医療は24時間・365日稼働していることもあり、「職場に長くいる人は頑張っている」という空気感を少なからず感じます。私は教育に進んでから結婚・出産をしました。夫の転職で仙台へ転居し、その後1年ほど臨床に戻り、非常勤で週4日勤務しました。

 

東日本大震災があって避難して1カ月休職したり、その後も子供が熱を出して1週間ほど休むこともありましたが、幸い上司や同僚がとても理解してくださり、協力的だったので、続けることができました。

 

もし、常勤だったり、他の施設であれば、仕事を続けるのは難しかったのではないかと今でも感じています。でも、それはとても残念なことでもあるな、と。専門職だからこそ、できればライフスタイルが変わっても続けていけるはずだし、続けていければ、と思います。

 

そういったことを踏まえても、理学療法教育では、卒前卒後を通じたキャリア教育が遅れていると思っています。一般の大学では、キャリア教育授業が設けられて、将来の人生設計を考える時間があるところもあります。

 

しかし、理学療法教育のカリキュラムにはまだないのです。どうしても国家試験を合格することがゴールになりがちだな、と思います。本当は免許取ってからの方が長いのですが。

 

子供は何人欲しい?

ー  先生が学生に伝える、キャリア教育というものはありますか?

 

荒木先生:国家試験を受け、臨床に出て、卒後のキャリアまでは教育できないのが現状です。

 

そんな中でも、私は学生との関わりの中で、「どのくらい年収が欲しいか」や「子供は何人欲しい?」と言った質問をするようにしています。

 


もちろん、この年で考えられるものではないですが、すごく大事なことのように思います。卒業してから、彼らが過ごす20代から7〜8年は、人生の中でもとても大事な時期だと思います。

 

例えば、学生に「子供何人欲しい」と聞いたら大体の学生は「2〜3人欲しい」と言うんですね。今の社会情勢からしたら、とてもいいことですよね。続けて「じゃあいつ頃欲しい?」と聞くと「30歳までくらいに」と。

 

さらに続けて「30歳までに3人産むとして、いくら頑張っても6年くらいはかかる。もう22歳だから、もう考え始めないと30歳までには厳しいよね」という話をすることもあります。

 

しかも、「仕事はずっと続けてほしいからどちらかを選択しようなんて思わないで両方取ってほしい。」と言ってます(笑)

 

少し厳しいかもしれませんが、こういうことを考える時間は、理学療法士として働く上でも大事なことだと思います。

 

理学療法士の持っている素晴らしいスキルに「対象者の評価をして、それをその方にとっていい方向に持っていくスキル」ですよね。

 

でもそのスキルを、自分には活かせているかというと、私自身にも日々疑問を感じることもあります。だからこそキャリアについて考えたいし、そういう意味で私が大学にいることは意味があることなのかなと思ったりします。

 

理学療法士の仕事も子育てもどちらも素晴らしい経験だと思うので、できるなら、両方経験してほしい、と心から思います。

 

荒木先生も登壇!女性医学が学べる「ウーマンズヘルスケアフォーラム2017」のお知らせ

2017年7月2日(日)に大阪でウーマンズヘルスケアフォーラム2017が開催されます。

ウィメンズヘルスケアへの関心が高まっている中、私たちは最新の知見や技術、人との関わり方を学ぶ必要があります。

女性が健康に過ごすにはどのようにすれば良いのでしょうか?

産前産後についても知り、選択できるきっかけを。

 

4演題終了後には、全講師の先生方への質疑応答のお時間も予定しております。
実際に臨床で悩んでいることなどを先生方を交えてみなさんとシェアしていきましょう!


〔会場〕大阪YMCA国際文化センター
〔日時〕2017年7月2日(日) 10:00~17:00
〔対象〕療法士、看護師、その他セラピスト
〔料金〕14,800円(税込)※各種割引あり
〔お申し込み〕https://business.form-mailer.jp/fms/28f38c6f55825


詳しくはHPをご覧ください。
http://woman-forum.jp/osaka2017/

 

荒木 智子先生経歴

病院や施設での臨床経験、スポーツクラブでのパーソナルトレーニング、市民ランナーやアスリートのサポートなどを経て、現在は大学で理学療法士の育成、地元神戸で女性の健康増進を目的に、セミナーの開催やパーソナルコンディショニングを行っている。

医学的な視点からワークライフバランスに関する相談にも応じ、「元気に働き続ける」ためのサポートを行っている。

【資格】

理学療法士

ワーク・ライフバランスコンサルタント

【所属】

神戸国際大学リハビリテーション学部理学療法学科助教

一般社団法人WiTHs代表理事

東京医科歯科大学大学院博士課程

理学療法業界におけるキャリア教育の遅れ【理学療法士 |荒木 智子先生】

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