Contents
1.梨状筋の起始・停止を覚える
2.梨状筋には股関節外旋以外の作用がある
3.梨状筋の筋膜リリース
4.梨状筋のトリガーポイント
5.梨状筋と坐骨神経の位置関係
6.梨状筋症候群の評価
7.文献
梨状筋の起始・停止を覚える
起始 |
仙骨の前面、S2-4仙骨孔の間、大坐骨切痕 |
停止 | 大転子内側 |
支配神経 |
仙骨神経叢からの直接支配 |
髄節 | L5ーS2 |
作用 |
股関節外旋、わずかに外転 |
梨状筋の特徴は、仙骨の前面に付着していることです。さらに、大転子の先端に付着していることから、わずかな外転にも作用していることがわかります。もう少し細かく梨状筋について図を見ながら観察してみましょう。(もっと詳しい解剖に関してはこちらをご覧ください)
梨状筋の通る場所
梨状筋の通り道を理解するために覚えておきたい靱帯があります。「仙棘靱帯」です。
上の図をいてもらうとわかると思いますが、仙棘靱帯が付着することで、骨盤の後面には、二つの通り道ができます。このうち、梨状筋は大坐骨孔を通り抜け、仙骨の前面に付着します。
梨状筋を後面から見てみましょう。
ちなみに、坐骨神経は梨状筋の下から出てきます。それでは、梨状筋を前面から見てみましょう。仙骨の前面に付着しているため、梨状筋の起始部の触診はできません。このあと、触診に関しては詳しく説明いたします。
この梨状筋のもう一つの重要性は、臀部を上と下に分けることです。これによって、その領域に供給する血管と神経の名前を決定します(上殿神経と血管は梨状筋より上に出現し、下殿神経と血管は梨状筋より下に出現します)。
梨状筋には股関節外旋以外の作用がある
先ほど見ていただいた、画像でわかる通り、梨状筋の停止部は大転子の内側に付着しているため、外転作用もあります。しかしこれらの収縮は、“求心性収縮”における作用です。筋の収縮形態には、この他、“遠心性収縮”があり、この収縮の観点から見ると、また別の作用が浮かび上がってきます。(以前の記事で、筋収縮の仕組みについて詳しく書いています)
大腿骨頭を臼蓋に対して求心位に保つ働き
梨状筋の解剖図をよくみてみると、股関節の外旋運動を起こすだけではないことが、視覚的にみることができます。
写真の中で梨状筋の走行に着目してみてください。梨状筋は仙骨の前面から起始し、股関節を形成する臼蓋と大腿骨頭のちょうど中央部、股関節運動の中心点にあたる付近を走行し、大腿骨大転子上縁につきます。このことから「大腿骨頭を臼蓋に押し付け、股関節運動の適合性を高めていると、いわれています。
それでは、この梨状筋の求心位に保つ作用を検証してみましょう。ただその前に、「関節の自由度」について確認しておく必要がありますので、図で理解していきましょう。
股関節の基本的な構造
運動学的に関節には運動軸の数によって、1軸性・2軸性・多軸性関節に分けられます。それぞれ運動自由度を1度・2度・3度の関節と言われます。股関節は、自由度3の関節です。
この動きを、保つために梨状筋が、骨頭を求心位にする必要があります。この作用の確認方法として、股関節外転筋のMMTで確認することができます
股関節の不安定性(骨頭と臼蓋の適合性)において、股関節の外転筋力と内転筋力間の不均等を認める。 (前沢克彦他:変形性股関節症症例における患側起立時の骨頭と臼蓋の適合性ならびに股関節外転・内転筋力について:医中誌webより)
股関節外転MMTを行う
上の図のように重力に対して持ち上げることができれば、3の筋力が確保されています。次に療法士の手を、計測下肢に乗せ、その重さに耐えられれば4、さらに抵抗に対して抵抗することができれば5とします。
梨状筋を触診して、筋をリリースしてみよう
梨状筋を触診し梨状筋の硬さを確認します。ここでも、梨状筋の起始停止や走行、部位を解剖学の教科書で確認した上で触診を行いましょう。
梨状筋の触診方法は図に示されているように、
①大腿骨大転子、尾骨、上後腸骨棘(以下PSIS)のランドマークを触診
②その骨指標をつなぎ三角をつくる
③尾骨-PSISのラインから大転子にかけて二等分する
④二等分した上方に位置する三角形の場所が梨状筋のある位置
梨状筋は深部の筋肉になるため深く押圧をして触診してみましょう。そして、梨状筋の硬さがあったのならば、それを押圧でいいので筋膜リリースしてみます。
その後、もう一度MMTを測定し筋力の発揮具合を評価してみて下さい。これでもし、筋力発揮が強くなっていたのならば、梨状筋の硬結により股関節の適合性が悪く、股関節周囲筋の筋力発揮を阻害していた、または梨状筋が股関節の適合性を高める事に関与していた事が一つ考えられます。
臨床ではこのように解剖学的特徴をもとに仮説を立て、その仮説の効果検証を一つ一つ行っていくことで臨床に繋がる解剖学が自然と身についていきます。
梨状筋のトリガーポイント
トリガーポイント触診(trigger point palpation) 推奨グレード B トリガーポイントを診断する検査方法の信頼性は確立されておらず,触診によるトリ ガーポイント識別の再現性には,研究の質を改善する必要がある。
引用:背部痛 理学療法診療ガイドライン
梨状筋症候群(PS:Piriformis syndrome)とは?
定義
PSは、臀部や股関節の痛みなどの症状の組み合わせを特徴とする、痛みを伴う筋骨格系の状態です。いくつかの記事では、梨状筋症候群は、負傷した筋肉や炎症を起こした筋肉などの梨状筋の異常な状態によって引き起こされる坐骨神経の枝の末梢神経炎として定義されています。
PSに頻繁に使用される同義語は、深臀症候群、脊髄外坐骨神経痛、ウォレット神経炎などです。梨状筋症候群と診断された女性の数は男性よりも多く、女性と男性の比率は6:1です。この比率は、女性の寛骨における大腿四頭筋のより広い角度によって説明することができます。
また、坐骨神経と梨状筋の位置関係において、いくつかのパターンが報告され中には、坐骨神経が梨状筋を突き破っている例もある(下図)。
上記は先天的なものに由来するが、梨状筋症候群は腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症との判別が重要となる。基本症状は、上記通り坐骨神経症状が主ですが、
下肢の知覚異常は、正常例が多いとされていますが、以下の報告によると、鈍麻74%、過敏14%、正常12%と高頻度にみられています。
(参照:尾鷲和也:梨状筋症候群 脊椎脊髄,32(2):15-112,2019)
との報告もあります。
梨状筋と坐骨神経の位置関係
過去の研究では梨状筋下孔から坐骨神経が通過する「教科書通りの走行」は83.1% 残りの16.9%は坐骨神経(ないし脛骨神経・総腓骨神経)が様々な形で梨状筋を貫通していると報告されています。
梨状筋症候群の病因
仙腸関節または臀部の臀部外傷 | 解剖学的変異の素因 |
筋筋膜性トリガーポイント | 梨状筋の肥大とけいれん |
椎弓切除術に続発する | 膿瘍、血腫、筋炎 |
梨状筋の滑液包炎 | 乳頭状孔の領域の新生物 |
結腸直腸癌 | 坐骨神経の神経鞘腫 |
エピサクロイリア脂肪腫 | 臀部内注射 |
大腿骨釘 | 梨状筋の骨性筋炎 |
クリッペル・トレノネー症候群 |
梨状筋症候群の評価
③フライバーグサイン
参考文献
「梨状筋症候群、診断と治療」https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19466717/
「梨状筋症候群の非外科的管理:系統的レビュー」https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK74304/
「梨状筋症候群の臨床的特徴:系統的レビュー」https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2997212/