あなたの介助は大丈夫?
職員の不適切なスプーン操作に、認知症のある方が適切に適応した結果、不適切な食べ方を学習してしまいます。
認知症のある方にとっての環境である職員のスプーン操作のパターンと、認知症のある方の障害と能力によって、結果として、現れ方としての食べ方はそれこそいろいろですけれど、よくよくあるのが喉頭の不完全な複数回挙上です。
けれど、この状態ですぐにムセが起こるわけではありません。ですから、こんな状態になっても多くの場合には見逃されています。なぜなら、ムセないからです。
そして、見逃され続けた結果、ムセはじめるようになり、ようやく「あれ?なんだか食べ方が下手になった?」「飲み込むのが遅くなった?」などと気がつかれ始めますが、本当は食べ方の困難はもっとずっと前から起こっていたのです。
この状態なら、対応可能なケースがほとんどです。
では、どうしたらよいのか?
ムセないけれど、喉頭の不完全な複数回挙上がある時には、下唇では難しいので、きちんと前舌をスプーンの背で押してください。
そうこうするうちに頚部前屈を伴った上唇での取り込みの動きが出てきます。そうすると喉頭も1回で大きく挙上できるようになってきます。
食形態を下げる勇気
今までと同じ食形態、1回量、スプーンで難しい場合には、勇気をもってそれらを落としてください。
つまり、食形態を下げる、1回量を少なくする、スプーンを小さくする。
認知症のある方がラクに食べ方の再学習ができるように、食環境を落とすことが大切です。ラクに再学習ができるようになると、再び食形態を上げ、1回量を多くし、スプーンも大きくすることができるようになります。食事摂取速度も早くなります。
食環境を落とすことを懸念する人の理由は大きく分けて2つあるように感じています。
1つは、食形態などを落とすともう二度と同じ形態を食べられなくなってしまうのではないかという不安。もう1つは食形態などを落とすことで時間がもっとかかるのではないかという不安。
適応・学習できないという思い込み
これらの根底にあるのは、食べ方の困難は認知症のある方「だけの問題」という誤った認識であり、認知症のある方は適応・学習できないという誤った「思い込み」であると言えると思います。
本当は違います。
冒頭に示したように、認知症のある方の困難は職員側の不適切さによって増悪されてしまっている。だからこそ、私たち職員側が変わることによって認知症のある方の食べ方を改善することができるということです。
そして、どんなに重度の認知症のある方でも生きている限り、常に能力を発揮して生きています。
その能力を見いだし活用することができるのは、障害のプロである私たちリハスタッフの役目ではないでしょうか。
よく聞く言葉に「ちゃんとした食事介助をしたいけど時間がないからできない」という誤解があります。
大変申し訳ない言い方ですが、不適切な介助をしているから時間がかかってしまうのです。適切な介助をすれば1時間以上かかっていた方が20分ほどで全量摂取できるようになるのです。
早い方は3日もあれば、遅くても2週間で眼に見える変化が現れます。
ぜひ、認知症のある方の食べ方をありのままに観察・評価していただきたいと思っています。 もっと詳しく知りたい方は、(株)geneさんのセミナーにご参加ください。
8月7日(日)10:00~16:00 「認知症のある方への食べることへの対応」
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佐藤良枝先生経歴
1986年 作業療法士免許取得
肢体不自由児施設、介護老人保健施設等勤務を経て2010年4月より現職
2006年 バリデーションワーカー資格取得
2015年より 一般社団法人神奈川県作業療法士会 財務担当理事
隔月誌「認知症ケア最前線」vol.38〜vol.49に食事介助に関する記事を連載
認知症のある方への対応や高齢者への生活支援に関する講演多数
一般社団法人神奈川県作業療法士会公式ウェブサイト「月刊よっしーワールド」連載中