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ICFで評価・対応する食事介助|作業療法士 佐藤良枝先生

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「ムセたらトロミ」で大丈夫?

まず最初に、臨床あるあるな食事介助の対応についてお話します。
認知症のある方や高齢者がムセたら、どうしていますか?

 

まず、飲み物にトロミをつける。というケースが圧倒的に多いんじゃないでしょうか。
でも、ムセは変わらない。そうするとさらにトロミをつけますよね?

 

「ムセたらトロミ」
このようなパターン化された対応に臨床現場では非常に多く遭遇します。

 

トロミをつけたのにムセは変わらない。というようなケースの場合に多いのが、実は嚥下5相における「咽頭期」の機能は保たれている。ところが「口腔期」に易疲労があってその結果「咽頭期」が引きずられて能力低下を示している。というケースが案外多いのです。

 

このようなケースでトロミをどんどんつけていったら、食塊の粘性を増してしまい、ますます「口腔期」の易疲労をきたしてしまい、結果として本来保たれているはずの「咽頭期」の能力発揮を阻害する。

 

その結果、誤嚥性肺炎に罹患してしまう。ということが起こっているのです。

 

ストローで飲み物を摂取

じゃあ、どうしたら良いのか。
少しだけ粘性のある飲み物を試します。


「飲むヨーグルト」程度の粘性のある飲み物を少量シリンジなどで摂取していただき、喉頭挙上の動きを確認します。
多くの場合に元々は「咽頭期」の能力が保たれているので、喉頭挙上の動きもタイミングも大きな問題がないことが多い。


そのように判断できればストローで飲み物を摂取していただきます。
飲み物にトロミをつけてスプーンで介助していてもムセが収まらないという方が、ごく薄い粘性のある飲み物をストローでムセなく摂取できるというケースにたくさん遭遇しています。


さらにこの方法を繰り返すうちにトロミをまったくつけていないお茶やジュースをそのままストローでムセなく飲めるようになるというケースがとても多いのです。

 

「それ本当?」と疑ってしまいたくなるような話かもしれませんが、本当に現実に起こっていることですし、嚥下5相と喉頭蓋反転のメカニズムの知識があれば、理にかなったことだと納得していただけると思います。

 

問題は、対象者の側にではなく私たち援助職の側にあります。
「ムセたらトロミ」というパターン化した思考回路・対応が不適切なわけで、だったら私たちがパターン化した思考回路・対応を卒業しさえすれば良いのだということになります。

 

嚥下5相に分けて能力と困難を把握する

POST原稿 説明図.004

 


まず、どのように食べているのか飲み込んでいるのか嚥下5相にそって確認する。
各期において能力と困難を把握する。
各期はそれぞれ前後の期に影響を与え合っているので、二次的にもしくは代償的に能力低下している期と本来的にウィークポイントとなっている期を明確にします。

 

つまり、食べる場面での行動観察という情報収集の次に行うのが、相互関係論であるICFにのっとって情報の整理・分析という評価を行うということなのです。

 

身体は身体としてつながっています。
便宜上、名前として区分けされてはいますが、身体の構造的には連続性があります。
嚥下5相が前後の期に相互に影響を与え合っていても何の不思議もありません。

 

重度の認知症のある方にも、食べることの再学習は可能

ICIDHは、因果関係論です。
人間において、時間という縦軸・環境という横軸さまざまに関与しあっている複雑な「場」において、「今」「目の前にいる」方の食べ方に適用するのには無理があるのです。

 

私たちは理論としてはICFを学んでいますが、実際の臨床の場面においてまだまだICIDHの影響を払拭できているとは言い難い現実もあります。
冒頭に紹介したパターン化した思考回路・対応がなぜ起こるのか、そして受け継がれてしまうのかということの根本にはICIDHの影響を拭い切れていないということが関与していると考えています。

 

重度の認知症のある方にも、食べることの再学習は可能です。
一見不合理な食べ方にも必ず嚥下5相において、できている部分もあるし、代償的な能力低下や二次的な能力低下という不合理な現れ方をしている部分もあります。


その部分のアセスメントが重要なのです。
そして適切にアセスメントができるためには、私たちが不適切な準備期を作らない=適切なスプーン操作を行うという前提要件を担保することができて初めて本来の食べ方を観察することができるということを意味しています。

 

因果関係論であるICIDHの影響

認知症のある方の能力を見いだすことができる。
ICFを用いた評価・対応を行うからこそ、私たちは今とは異なるもう1つの現実を観ることができるようになり、認知症のある方は今とは異なるもう1つの現実を体験することができるようになります。
ここに私たちが対応の工夫をする本質的な意義があります。

 

一見不合理な認知症のある方の今の食べ方を否定しない。
不合理な食べ方という現れ方をしている能力を見いだす。
能力をより合理的な方向に発揮していただけるような方策を考える。

 

「今の食べ方が良くない、だから良くなるために〇〇しよう」
という方向性での検討は、善意からの提案ではあったとしても、どこかで今を否定し、望ましい状況を設定し、そこから差し引きマイナスで現状を観て、現状を「改善・修正する」ためにどうするか考えるという方法をとっているわけで、まさしく因果関係論であるICIDHの影響下にある視点・考え方・方策といえます。


冒頭で示したような、「ムセる・ムセるのは良くない・ムセないためにトロミをつける」という在りようが示しているのは、私たち援助者が認知症のある方の能力低下を原因と位置づける因果関係論の影響下にあることを如実に示しています。

 

私たち援助者が、因果関係論であるICIDHの影響の強さを自覚した上で、無意識の影響下から脱却できるようになるためには、目の前で起こっていることをそのまま観察するということから始まると考えています。
観察ができるためには知識が必要です。


そして有効な観察ができるためには私たち自身の関与(食事で言えば、適切な準備期=適切なスプーン操作)が認知症のある方の能力を損なわないことが要件となります。

 

最も重要なことは、同じことが認知症のある方の食事以外の場面でも起こっているということなのです。
違う現れ方をしているので、気がつきにくいだけで、同じコトが違うカタチで現れているだけなのです。

 

お知らせ

「月刊よっしーワールド」

▶︎ http://kana-ot.jp/wp/yosshi/


書籍「食べられるようになるスプーンテクニック」
▶︎ http://www.nissoken.com/book/1824/index.html 

 

【セミナー】


▶︎8月6日「認知症のある方への評価から対応まで 東京会場」

▶︎9月10日「認知症のある方への食べることへの対応 東京会場」

▶︎9月24日「ナースのための認知症のある方への対応の工夫と考え方 名古屋会場」

▶︎10月8日「認知症のある方への対応入門~評価のすすめ方 大阪会場」

 

佐藤良枝先生プロフィール

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1986年 作業療法士免許取得
肢体不自由児施設、介護老人保健施設等勤務を経て2010年4月より現職

2006年 バリデーションワーカー資格取得


2015年より 一般社団法人神奈川県作業療法士会 財務担当理事
隔月誌「認知症ケア最前線」vol.38〜vol.49に食事介助に関する記事を連載

認知症のある方への対応や高齢者への生活支援に関する講演多数


ICFで評価・対応する食事介助|作業療法士 佐藤良枝先生

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