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オーストラリアでライフスタイルコーディネーターとして働く作業療法士【横井静香先生】

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同居した認知症の祖母がきっかけとなった

ー 最初になぜ作業療法士になろうと思ったキッカケを教えてください。

 

横井先生 私がまだ12歳くらいの頃、祖母が認知症になり、介護のため同居することになりました。同居する以前の、認知症のイメージは、できないことも多く介護量も多いだろうと思っていました。いざ、同居してみると自分で行えることの多さに驚きました。

 

行動記憶や昔のことは憶えおり、「他にはどんなことができるんだろう」というところに興味をもちました。

 

出来る限り自分で行うよう促したり、一緒にやっているうち、一時的に祖母の要介護度が改善したことを覚えています。出来ることを探す、生み出す、いきいき暮らす。それが今でも大事にしている祖母からの教えです。

 

母がケアマネージャーをしていたことで、リハビリの仕事を知り、高校卒業後の進路について考えたときに、現場見学に行って作業療法士の養成大学へ進学を決めました。

 

ー 海外で働くことに興味をもったのはいつからですか?

 

横井先生 はじめて海外の作業療法に触れたのは、大学4年に進学する春休み中、カナダの作業療法士の先生を数人訪ねた時です。日本と外国での大学での指導方法の違いに興味をもっており、大学の教授に「海外の作業療法士で知っている先生はいらっしゃいませんか?」と依頼し紹介していただきました。

 

お金もなく、スタディーツアーですと本音を聞きにくいと思い、カナダで大学教授をしている先生を紹介していただくことにしました。そこで出会った先生は、人間的にも本当に素晴らしい先生ばかりで、とても刺激を受けました。

 

将来は、英語も使えて、人間的にも成長した作業療法士になりたいと思い、海外で働くことや、日本と海外の医療福祉を繋ぐことを意識しました。

 

 

ー 卒後、入職したのはどちらですか?

 

横井先生 新卒では、大阪の脳神経外科病院に二年弱勤めました。臨床を経験すると、作業療法に対する興味は増し、いろんな研修会に参加させていただいていました。

 

セラピストによって、人を診る視点、介入方法や新人指導の方法などが異なることを体感しました。「自分には何が出来るだろう、海外のセラピストはどのような診方をしているのだろう」と、すごく興味が湧いてきました。

 

ただ一方で、作業療法士としての勉強に追われ、英語を勉強する時間を捻出していないことに気がつきました。たまに国際交流会にも参加していましたが、全然喋れませんでした。

 

大学のころから「将来は世界の作業療法士をもっと繋げられるようになりたい」という決心が固かったので、そこでバシっと仕事を辞め、英語圏の地域で生活しながら英語を学ぼうと思い、オーストラリアに移りました。

 

カナダとの繋がりは学生の頃からありましたが、当時の自分の体調にあった環境をリサーチし、温暖な気候で人口も比較的少ないオーストラリアのパースに移住することに決めました。

 

1年間のワーキングホリデーの後カナダに移住しようと、と思っていましたが、現在西オーストラリアに住んでいます。

 

 

ライフスタイルコーディネーターという仕事

 

ー 現在、アシスタントとして働いていると伺いましたが、どのような仕事ですか?

 

横井先生 作業療法アシスタントの仕事を経て、現在はライフスタイルコーディネーターとして働いています。

 

日本でいう有料老人ホームでの作業療法アシスタントは、実際にレクリエーションをする人です。

 

ライフスタイルコーディネーターの仕事内容は、日々のレクリエーションの計画作成、ボランティアスタッフの管理、地域住民を巻き込んだプロジェクトやイベントの企画運営です。ボランティア希望が来たら、面接して全部のプロセンス、例えば無犯罪証明書の確認や推薦者に電話をかけたりと、様々です。

 

施設を紹介するために、ボランティアさんと施設で暮らす方の興味や能力を知り、どんな人とどんなことができるのかを組み合わせてコーディネートしていきます。

 

ボランティアに応募する方々は主に、地域に住む定年退職後の方々、中高生、大学生です。日本人で海外の高齢者福祉を体験、貢献したいという方も受け入れています。

 

現在、オーストラリアは就職難ですので、ボランティアの経験が仕事にいかせるという理由で応募される方もおられます。また、中高生は学校の単位の中で、数時間のボランティアを義務付けられています。

 

 

ー そういうのをコーディネートとかをするのを今やっているんですか。

 

横井先生 そうです。あとは施設内のイベントを企画することもあります。最近ですと、地元のダンスクラブの子供達がきてくれました。

 

最初私がワーキングホリデーでオーペア※1をしていたときに面倒をみていた子供が、ダンス教室に通っており、その縁で実現しました。お年寄りは子供と触れ合う機会ができ、幼児たちはダンスを披露した後たくさんの大人に褒めてもらう機会ができ、お互いに良い時間となりました。

 

あとは、ミュージックコネクションというプログラムを、中学生と行ったこともあります。

 

認知症の方の昔好きだった曲を探す中で、過去の体験談を語るなど、「認知症があっても出来ること」を見つけ、「認知症が進行すると何もできなくなる」という社会的烙印(スティグマ)を教育現場から変えていくことです。

 

※1 海外にホームステイをし、そこに住んでいる子供のベビーシッター或いはナニーとして保育をしながら、ホストファミリーから報酬をもらって生活すること。

 

日本は世界の認知症リハを牽引する

 

ー 日本とオーストラリアで認知症のアプローチは違いますか?

 

横井先生 日本の認知症に対する取り組みは他国に誇れるものだと思います。。

 

一方、オーストラリアの良い点は、認知症と診断された場合、作業療法士が一人ひとりの状態と運転技能を評価し運転の可否や運転できる場所・範囲を決定することです。これは日本政府や作業療法士が学ぶべき点だと思います。

 

 

ー オーストラリアで作業療法士の仕事は知られていますか?

 

横井先生 作業療法士は一般に広く認知されており、日本のように「作業療法士って何をする仕事?」と聞かれるようなことはあまりありません。「OT」と略語で言っても伝わるくらいです。

 

先ほど述べたように、作業療法アシスタントと作業療法士の役割もはっきり分かれていて、それに関して、私は欠点もあるなと感じています。日本では、評価から介入計画を立てて、実際に介入し、また再評価を行いますよね。

 

オーストラリアでは、最初の評価と介入計画を立てるのは作業療法士ですが、実際の介入の多くは作業療法アシスタントによって行われます。作業療法士が継続的に変化を追うことはあまりなく、再評価は6ヶ月に1回や急変したときだけという場合もあります。作業療法アシスタントの資格は、6ヶ月程度でとれるので、全然知識も視点も作業療法士とは差があります。

 

なかなか効果的なアプローチを常に行うのは難しいのではないかと感じています。

 

 

ー オーストラリアの給料事情はいかがですか?

 

横井先生 作業療法アシスタントが25ドル(時給)、作業療法士が50ドルくらいの状況です。ただオーストラリアでは昨年景気が大きく悪化し、人件費削減のために療法士や看護師など高給料の職種が影響を受けている施設もあります。

 

ー 横井先生の今後やろうとしていることを教えていただけますか。

 

横井先生 今後は、自分がやったことを外に発信する活動も行いますが、そこで出会ったネットワークを使って、世界中の人と繋がれるような新しいプロジェクトができたらいいなと思っています。それは医療従事者だけではなく、当事者やそのご家族も、地域の子どもたちも交えてやりたいと思っています。

 

 

 横井先生にとってプロフェッショナルとは?

 

横井先生 対象者に「患者」や「利用者」という役割を着せず、「その人らしく」人生を歩めるようにサポートする。そのために自分に何が出来るのかを常に考え実践するというのがプロフェッショナルだと思います。

 

横井先生オススメ書籍

認知症当事者の視点で書かれています。認知症というだけで何もできなくなるわけではありません。認知症と診断された後も、もっと社会に貢献したいし、それが実現可能であるというのが表れている書籍だと思います。

 

私の記憶が確かなうちに
Posted with Amakuri at 2017.8.12
クリスティーン ブライデン
クリエイツかもがわ

横井静香先生 プロフィール

広島大学作業療法学科卒業

日本での作業療法士経験を経て西オーストラリアの高齢者福祉施設にてOTアシスタント

→エンリッチメントコーチ

→ライフスタイルコーディネーター

オーストラリアでライフスタイルコーディネーターとして働く作業療法士【横井静香先生】

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