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第三回:楽しい運動【国立長寿医療研究センター 健康増進研究室室長|理学療法士 土井剛彦先生】

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集団体操が苦手?な理学療法士

ー 今後地域に出て行く療法士が増えてくると思います。現在はどのようなリハが認知症の方に有効とされているのでしょうか?

土井先生 よく聞かれる質問なのですが、我々は認知症になってしまった方々を対象にというよりは、MCIの方を中心に研究しています。

 

MCIといっても、見てもらえればわかりますが、びっくりするぐらい元気な方が多く、一見、認知機能低下を感じさせません。元気なのですが、検査をすれば認知機能が低下しているという感じです。

 

研究成果として、運動を行うことでが、あたまの健康を保つために有効だということが明らかになってきました。当然、脳トレのような認知機能に直接的にアプローチする方法も有効です。

 

一方で、運動が苦手な高齢者がいる中で、我々が検証した運動以外のものでは、ダンスや楽器の演奏の効果です。実際に検証した結果、運動と同じようにある程度の効果が見込める印象です。

 

今後はもう少し、この辺りのコンテンツを増やしながら研究を行っていけたらと思っています。こうなってくると、理学療法士とはちょっとかけ離れた仕事もあるのかなと思っています。ですから、研究自体も「理学療法士だから」ということをあえて考えずに行っています。

 

逆に、理学療法士だと意識するあまり、高齢者と一緒にする体操が面白くなくなってしまったこともあります。笑 一般的に臨床では一対一が基本ですから、その強みを地域での活動に活かせる部分もたくさんあると思います。

 

特に適切なリスク管理については重要だとおもわれます。一方で、地域において集団に対する体操を教える場面というのがたくさんありますが、うまく高齢者を楽しませながら指導できる人は職種に関係なく、たくさんいらっしゃいますね。

 

もし、興味があるならば、地域に出てたくさん経験するべきだと思います。特に、この分野を中心に活動していきたいのであれば、まずは現在行なわれている方々のレベルを最低限身につけなければならないでしょう。

 

 

ー 認知症に“なる”前の段階からの介入が望まれるということですか?

土井先生 一度ここで理解しておいていただきたいことがあります。また、認知症に“なる”というと少し語弊があるかもしれません。認知症の原因として、最も多い病気はアルツハイマー病です。その原因とされるのが、アミロイドβの蓄積が問題とされています。

 

もちろん確定した説ではないですが、もっとも確からしい学説としてそう考えられています。その蓄積は発症の20年~30年ほど前からはじまっていると言われているので、いきなり“なる”というわけではありません。一方で、蓄積していても症状として認知症にならない人がいるのも事実です。

 

我々としては、根治する治療方法ができることを強く望みますし、蓄積があっても問題が生じないように、神経細胞を大きくしておくことも同時に大切だと思っています。それに対して、なるべく脳にいいことをやりましょうというなかに、運動が手段の一つとしてあるわけです。

 

運動方法として、有酸素運動や筋トレなどもありますが、ストイックに運動だけをやればやるほど高齢者の評判があまりよくありません。

 

一方で、デュアルタスクで運動を行うと最初こそ抵抗感はありますが、間違えながら楽しんで取り組み、難しいことにもチャレンジすることができて楽しいようです。

 

多くの人がデュアルタスクで運動をすると間違うので、その間違いが楽しさに変わってくることが重要です。「楽しい」ということは、運動を継続してもらうための大事なポイントになります。

 

 

ー そうしますと認知症の方に対する病院でのリハでは、楽しさを見出すのは難しいですね。

 

土井先生 対象が発症前の方と後では全く違うので、別のものと捉えています。病院でのリハで実施するとなると、毎日できるという利点がありますので、そこを最大限に生かすことが大事です。

 

ただし、現状では認知症のみで入院するケースよりは、他の疾患や障害にプラスして認知症があるというケースが多いと思いますので、そのような方々にリハを行うということは非常に難しい課題だと思います。

 

私が実習を行なっているころは、認知症があるとリハの適応から外されることが多かったと記憶しています。現在、推計で高齢者の15%ほどが認知症ですので、無視できない数になっています。MCIもあわせると約25%という報告もあります。そうなると、認知機能の評価をきっちりと行える療法士が求められていると思います。

 

この専門が理学療法士なのか作業療法士なのか言語聴覚士なのか、もしくは他の職種なのかについては難しいところですが、認知機能の評価をして、その結果をしっかりと理解しリハに活かす必要はどの職種にもあると思います。

 

認知機能の中でも、記憶が悪い人もいれば実行機能が低下している人もいますので、それを認知症として一括りにするのは適切ではないかと思われます。その人に対して、何をすべきなのかをしっかりと評価してアプローチしてもらいたいと思います。

 

予防を目指した介入方法として運動以外には、知的活動や社会活動、栄養、そして最近では睡眠なども注目をあびていますが、つまるところ健康的で活動的な生活を送るということが重要だということです。

 

ー この分野の研究はどの国が一番進んでいるのでしょうか?

 

土井先生 どこがというよりも、高齢化率の高い日本が先頭を切ってこの分野を進めていかないといけないと考えています。以前に少しだけアメリカで研究していたことがありますが、アメリカなど海外の研究のすすめ方は、分業がすすんでいて非常に合理的です。

 

日本では、ほとんどのことを研究者がやりますので、論文も書けばデータも取得して、自治体とのやりとり、業者とのやりとりまで多くのことを研究者が行います。ですから、おのずと時間が足りなくなりがちです。

 

アメリカは、効率的なうえ予算規模も大きいため、実施する規模も大きくなります。そのため、インパクトの高い研究を行える可能性が高まるわけです。

 

高齢者の分野においては、日本がひっぱっていかなければなりませんし、理学療法士の方にもっと参画してほしいなと思っています。高齢者の研究をしたいという強い想いのある方がいれば、是非うちの職場に来てもらいたいです。笑

 

 

【目次】

第一回:研究者として生きる

第二回:高齢者の介護予防と健康増進

第三回:楽しいリハビリ

最終回:社会保障の限界

 

土井先生オススメ書籍

 

 

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土井剛彦先生のプロフィール

資格:理学療法士

学位:博士(保健学)

所属学会:日本理学療法士協会、日本老年医学会

受賞歴:

  • 第4回藤田リハビリテーション関連施設臨床研究会 最優秀発表賞
  • 第49回日本理学療法学術大会 優秀賞
  • Geriatrics & Gerontology International the 2015 Best Article Award受賞
  • 第8回理学療法学優秀論文 最優秀賞

社会活動:

  • 愛知県理学療法士会学術誌部
  • 日本理学療法士学会 編集委員会査読委員

好きなサッカー選手:

セバスティアン・ダイスラー(Sebastian Deisler)

ジャンルカ・ザンブロッタ(Gianluca Zambrotta)

論文実績:

Research Map(http://researchmap.jp/takehiko/

主な著書:

 

 

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