強制的に高められたリーダーシップ
ー そういえば、先生が働いていたのは福島県いわき市ですよね。震災の影響はありましたか?
鯨岡先生 あれ(2011年)は、施設長になって2年目の頃でした。施設のほうは津波のエリアとは離れていましたが、施設の損壊等色々ありました。物流が止まったりもしました。
原発の影響もあり、被爆を気にして、外に出られないことなどもありました。職員もガソリンがなく通えなくなり、施設に寝泊まりしたり、食料も入ってこなくて援助してもらったり、1日2食にしてなんとかやりくりしていました。
トイレも使えなかったですしね。水も通らず、近所の川から汲んできて、だんだん死の危険というかそういうのをすごく感じて、このままじゃ施設の運営もままならない。脱水のために利用者さんの健康状態もみるみる悪化していきました。
勤務する法人では人工透析をメインに行っていて、水が大量に必要になります。避難する必要があるなと感じて、避難先を探していました。最終的に千葉県の亀田総合病院で、バックアップしてくれるという話があり、利用者さん百何十人と職員みんなで移動しようというプロジェクトを指揮しました。
その病院に行くにも5,6時間かかったんですよね。実際途中で2人の利用者さんが亡くなってしまいました。向こうに着いたら着いたで、新聞社の人が押しかけてきて、その対応に追われたり、本当めまぐるしかったですね。精神的にも追い詰められました。
結局自分の中で、こういったことを通じて、リーダーシップも強引に養われていった気がします。施設長として決断しなければいけない場面がいくつもありました。そこには正解がないわけです。しかし、迷っている時間もなく、切羽詰っている状況でした。
迷いを見せると職員に動揺が広まりますので、一か八かとまではいかないものの、言い切って、みんなに発信していましたね。
私は元々、そういうタイプじゃなかったんですよ。クラスの委員長とか生徒会長とかしたことないですし。全然そういう人間ではなかったのですが、誰もいない老健から始まり、部署に自分しかいないんだから自分がやるしかない。常にそう言う局面に置かれていたので、(他にオプションはないという意味で)仕方がないからやってきました。その中でリーダーシップというのは培われてきたのかなと思いますね。
今、いろんな災害があちこちでありますけど、そういう時に高齢者施設や病院は大変な局面に置かれます。当然ですけど、利用者さん、患者さんがそこにいらっしゃいますからね。そうなると、みんな一丸とならないといけませんし、追い込まれると「よしみんなでやって行こう」となります。だから、皆さんまだ本気になっていないだけで、誰でもリーダーになることはできると思いますよ(笑)
私は本来「60点理学療法士」から始まりましたが、いま自分がこのような活動ができているのも、自分自身のポジショニングだったと思うんですね。自分の決して十分でない知識や技術でも、喜んで頂けるクライアントさんが確実にいるということと、常に人がまだいない立ち位置を見つけて、自分独自なものを作り出してきました。
今、地域包括ケアシステムと言われていますけど、地域の専門職の主役はケアマネージャーさんだと思うんです。仕事で声をかけて下さるかどうかって、ケアマネージャーさんや地域包括の方にいかに、知られているかがキーになってきます。
認定とか専門とか大学院とか、キャリアアップの道筋というのは素晴らしいことだと思いますが、地域レベルでのキャリア構築というのは「〇〇地区の鯨岡さんでしょ?」といった、エリアで認識されることがすごく大事なんじゃないかなって感じてるんです。
なので、その人が専門職としてのスキルはもちろん大事ですが、「見せかた」とか「知られかた」というのもすごく大事なんじゃないですかね。
ー 今、ネットワークビジネスが業界では一部問題になったりしています。今までコーチングが怪しいなどと言われたことはありませんか(笑)?
鯨岡先生 意外にそれはありませんね(笑) 確かに、私が活動し出した当初は、「それはエビデンス的にどうなの?」のような雰囲気も多少感じましたが、特に最近はコーチング自体の名前も広まってきていますし、勉強されてる方も多いです。「そういうのも大事だよね」という認識が業界全体に広まってきていると感じますよ。
確かに、周りを見渡すと、どんどんそっち方向(ネットワークビジネス)に進んでいるな、と思う人もいるんですよ。いろんなビジネスがある中で、そういう界隈の人ってわかるじゃないですか。ビジネスをやっていて勿体無いのが「そっち系の人なんでしょ」とレッテルを貼られ、アンダーグラウンドの存在になってしまうことですよね。
私は、仕事をする上でオフィシャル感がすごく大事だと思っていて。協会や学会に呼ばれたり、職能団体などの公的な場所に呼ばれるということです。この人はちゃんとしたことやっている、と認識されることです。その意味で、「その選択で本当にいいの?」とは思ってしまうんですけどね。
ー 先生にとってプロフェッショナルとは?
鯨岡先生 常に“相手にご機嫌を与えることのできる人”そして、“行動変容を起こすことができる人”がプロなんじゃないかなと思いますね。
【目次】
第一回:部署の崩壊
第二回:主体的に働く動機付け
鯨岡栄一郎先生オススメの書籍
鯨岡栄一郎先生のプロフィール
株式会社メディケアソリューション 代表取締役
理学療法士,日本コーチ協会認定メディカルコーチ,国際コーチ連盟正会員
群馬大学医療技術短期大学部 理学療法士学科卒
訪問リハで現場実践する傍ら、老健の施設長だった経験を生かし、施設・事業所に対する組織活性化コンサルや研修講演事業、管理職向けの個人コーチングセッションを展開している。「心の放火魔」の異名をもち、これまで数多くの療法士のブレイクスルーをサポートしてきた、医療介護業界におけるコーチングの第一人者。
著書「医療・福祉の現場で使える『コミュニケーション術』実践講座」(運動と医学の出版社)は教科書としても採用されている。
2018年初頭に新刊出版予定
[著作物・論文等]
・作業療法ジャーナル(2011年1~6月号) 「OTのための教養講座:コーチング」
・書籍 「医療・福祉の現場で使える『コミュニケーション術』実践講座」(運動と医学の出版社) 2012年
・理学療法ジャーナル(2014年4月号) 「理学療法における患者の動機づけを向上させる技術」
・通所介護&リハ(2015年9・10月号)「相手を伸ばす!レベル別・キャリア別 ほめ方・叱り方と育成のポイント」
・月刊介護保険 「介護の現場を活性化するコミュニケーション術」(2017年7月号~)
他多数。
―――――――――――――――――
◇YouTubeチャンネル
―――――――――――――――――