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これから先進国で働くことを考えている療法士・学生へ #4|岡田瞳先生

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免許の取得方法

 

 ドイツで理学療法士として働くためには、日本と同様に国家試験に合格し、理学療法士の免許を取得する必要があります。原則として、まずは養成校とされている3年制の専門学校あるいは4年制の大学で学び、国家試験を受験するための条件を満たさなければなりません。養成課程では、2900時間以上の理論・実技授業、1600時間以上の学外での臨床実習が義務付けられています。

 

 理学療法士に限らず、ドイツでは専門性の高い職種の養成校は専門学校が主流となっており、これまでほとんどの学生が進学先として専門学校を選択してきました。

 

大学は研究期間という認識が非常に強く、理学療法士の場合はまず基礎的な知識を専門学校で身につけ、その後働きながら経験を積む過程で研究への興味関心を抱いた者が、社会人として大学に進学するという流れがあったのです。

 

しかし国際化が進む近年においては、他国の影響を受け、ドイツでも理学療法士の養成課程を大学機関へと移行する動きが見られています。学位も、ドイツの伝統的な「ディプロマ」から「バチェラー」や「マスター」に変更する大学が増えてきました。

 

これから留学を考えられている方は、そういった点も学校選びの際に考える必要がありそうです。

 

 

 国家試験は養成校の卒業試験でもあります。国家試験に不合格となれば、卒業することもできません。

 

また、受験生には計二回のチャンスしか与えられず、仮に二度目の試験で不合格となれば、理学療法士への道は閉ざされてしまうことになります。

 

大変厳しいようですが、ドイツでは国内の大きな試験は全て同様の規則から成り立っています。

 

昔から、「二度失敗する者はその道に進むのにふさわしくない」という考え方があるようです。ただし、違う州にてもう一度養成課程からやり直し、そちらで再受験することは可能な場合もあるようです。詳細は、それぞれの州で直接確認してみなければなりません。

 

 そして国家試験は、日本のように全国統一の試験ではなく、それぞれの州が管理して行うため、たとえば試験の数や内容が州によって異なってきます。私が滞在していたヘッセン州の場合は、試験数が多く比較的難易度も高いと言われていました。

 

 

試験期間は三週間半で、計42試験。日曜日以外は毎日試験という過酷な日々でした。

 

単純な選択問題もあれば、数時間かけて行う論述式の試験もありましたし、試験官からの質問に直接自分の口で答える口頭試験もありました。

 

 

解剖学や生理学は、骨格模型やホワイトボードを前に細かく説明しなければならず、より実践的な内容が多かったと記憶しています。もちろん実技試験もありましたし、病院で実際の患者さんのカルテを見ながら治療計画を立て、患者さんの協力を得て行う実技試験や、実際に運動療法のグループ指導を行うという試験もありました。

 

計画的な試験準備が必要なのは明瞭ですが、長い試験期間を乗り越えるための心身の管理というのも非常に重要になってくると思います。



 国家試験に合格し、必要な書類手続きを行えば晴れて理学療法士の免許を取得できます。原則としては、前述の流れを踏む必要がありますが、

 

他国ですでに免許を取得している場合には、ドイツ国内での免許取得の方法が変わってきます。EU内であれば新たに免許を取得する必要がないケースがほとんどですが、日本をはじめEU外の国の免許を保有している場合には、一定時間の養成授業や臨床実習が必要なケース、国家試験の再受験が必要なケースなど、州や地域によって様々ですし、申請者の国籍やバックグラウンド等によっても条件が異なってきます。

 

ですから、担当部署に直接相談し、その返答に従って手続きを進めていく必要があります。

 

 

言語をどのように習得したか

 留学前は、ドイツ語の基礎すら身に付いていない状態でした。ドイツ留学を決意してから実際に渡航するまで、あまり時間もありませんでしたし、英語のように学校教育の中で長きにわたって学んできたわけでもありませんでしたので、現地到着後から本格的に勉強を始めることとなりました。

 

 渡航前にミュンヘンにある語学学校の入学手続きを済ませていたので、到着翌日から早速授業が始まりました。レベルチェックのために簡単なテストを受けましたが、事前に基礎単語のみ頭に叩き込んでおいたせいか、下から二番目のクラスとなりました。

 

ところが、ドイツ語で「会話をする」という経験は全くありませんでしたから、最初は授業の度にパニック状態で、本当にドイツ語を話せる日が来るのだろうかと不安に思うこともありました。

 

英語でいうところの「be動詞と一般動詞」の違いのようなところから理解しなければなりませんでしたので、大学入学レベルに達するまでとても遠い道のりのように感じてしまったのです。

 

しかし、不安を消すためにも前進するためにもドイツ語の勉強に没頭するということ以上の方法はありませんから、睡眠以外の時間は全てドイツ語に費やしました。

 

 

 まずはGoethe-Institut(ゲーテ・インスティトゥート)によるゲーテ・ドイツ語検定試験でのレベル「C2」を目指します。ゲーテはドイツ語教育の推進を世界各国で任されているドイツを代表する文化機関であり、その検定試験の結果により発行されるドイツ語能力証明書は世界各国で認定を受けています。

 

ドイツの大学に入学するためにはDSHという大学入学のための語学試験に合格する必要がありますが、ゲーテのC2を有していればこちらも免除されます。日本には「独検」という検定試験が存在しますが、現地では証明書等には活用できません。ゲーテのC2は、独検1級よりも難易度が高いと言われています。

 

 少しでも早くそのレベルに近づくために、語学学校は2校掛け持ちしました。授業の合間は学校や図書館で予習や復習、宿題や語彙力の強化に努めました。

 

その他、食事の時間も通学時間もリスニング教材や現地のラジオを耳にして1分でも長くドイツ語に触れる時間を作ることにしました。

 

 このようにして約半年で理学療法士の養成校に入学することができましたが、ここからが問題でした。語学学校では日常生活で必要なドイツ語を中心に学んできましたが、養成校では突然専門的な授業を受けることになるわけです。

 

さらにはドイツ語以外に英語、ラテン語を身につける必要がありました。授業は全く理解できず、何から手をつければよいのか分からない状態でしたが、親切なクラスメイトからノートを借りたり、授業をボイスレコーダーで録音して帰宅後に何度も聞き返したりしながら、何とか遅れを取らずについて行くことができるようになりました。

 

 養成校を卒業し、社会人として現地で働き始めてからも、ドイツ語の難しさを痛感する日々は続きました。しかしその度に、語彙力を増やし、ネイティブの言葉に耳を傾け、その発音や表現を自分のものにするという心がけを忘れないようにしました。

 

今ではドイツ語の通訳や翻訳のお仕事もできるようになりましたが、英語をはじめ、必要な外国語を学ぶ際にはドイツ語の習得時に学んだ方法を上手に活用しています。

 

 語彙を増やすことと同時に少しでも長く外国語に触れる時間を作ること、間違いを恐れずに積極的に会話をすること、これらが外国語習得のポイントではないかと思います。

 

岡田瞳先生プロフィール

1982年10月31日生まれ、茨城県出身。筑波大学在学中に女子バスケットボール部に所属しながらスポーツ医学を専攻し、アスレチック=トレーナーの基礎を学ぶ。卒業後は単身ドイツに渡り、フィジオセラピスト(理学療法士)の国家資格を取得。その後アスリートのコンディショニングに特化したスポーツクリニック『スポーツリハ=ベルリン』にてブンデスリーガやナショナルアスリートの治療、リハビリ、トレーニング指導に携り、同時に様々なブンデスリーガ加盟クラブの専属フィジオとしても活動。

 

2012年、約7年半のドイツ生活に終止符を打ち、2012 FIFA U-20女子ワールドカップをきっかけに帰国。同大会ではFIFAメディカルスタッフの一員として国際レフェリーのコンディショニングをサポートした。

 

2013年春、厚生労働省より特例認定を受け、日本でも理学療法士の免許を付与される。日本とドイツをメイン拠点とし、複数の競技の海外遠征や国際大会帯同のため世界中を飛び回る。

 

2014年、株式会社アレナトーレに入社し、さらに活動の幅を広げる。理学療法士、各競技帯同トレーナー、パーソナルトレーナー、養成校講師、講習会講師、通訳などとして国内外で活動。

 

2016年、医療法人社団 山手クリニックにおいて理学療法士として勤務開始。臨床経験を磨きながら、アスリートの傷害予防やパフォーマンスの向上をはじめとしたコンディショニングの重要性を広く普及させるべく活動中。

これから先進国で働くことを考えている療法士・学生へ #4|岡田瞳先生

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