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吉川法生先生 -作業療法を通して社会と教育を考える作業療法士(OT)- 第1回

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「作業療法の学校すぐ辞めます」

インタビュアー細川:

吉川先生が作業療法士になろうと思ったきっかけをお聞きしたいのですが。

吉川先生:

※高校生のとき(昭和57年=1982年)一番目指していたのは弁護士でしたので,法学部志望でした.

でもなかなか合格しないのであきらめていたところ,看護師の義姉からこんな仕事があるよと聞いたのが「理学療法士」でした.

文系の私には「理学」なんて無理,と思っていたらその横に「作業療法士」とありました.

作業療法って何だ?と思いましたが,「理学」でないことは確かだったので,短大ということで法学部と入試日程が別だったこともあり,受けたら補欠で合格しました.法学部はやっぱりダメでしたが・・・.

つまり,なんだかよくわからずに入学したということです.(笑)

入学してからは,文系の私に解剖学や生理学の膨大な知識量を処理することなどとても無理と思い,また専門科目の授業が始まっても,ただ編み物をしたり,絵を書いたりして終わっていたので(あまり解釈を聞かされなかった),これはつまらないと思い短大をやめようと思っていました.

その時,やめる相談を担任であった山田孝先生(現・目白大大学院)にすると,先生は笑って,やめるのはいつでもできるからと,当時のアメリカの作業療法の最新情報を話してくれました。

その後,授業以外の時間に先生の研究室を訪ねてはいろいろな話をしてくださり,「これから作業療法は変わる.我々が変えていこう」と励まされ,短大に留まりました。

もしあの時,相談しないでやめていたら違う人生になっていたことでしょう.

それはそれで受け入れていたと思いますが,人生のターニングポイントはいつも自分以外の誰かの存在が大きいかなと思います.

自分の夢や希望を叶えるためには,それを支えてくれる家族や友人,先輩の存在があって成り立つものだと思います.

ですので,本当に作業療法士になろうと思ったのは入学してから後の話です.あまり参考になりませんね(笑).

ただ,以前大学の教員をしていた時に,入試の関係で理学療法学科を受けられず作業療法学科に入学してきた学生がちらほら見かけられました.

PTに合格する点数が足りなくてOTに流れてきた子たちですね.

彼らは,入学当初は本当にOTをやる気がない様子で,新入生合宿の挨拶でも「私はすぐやめますから」と平気で言って来ました.そんな子たちに「今の気持ちを絶対に忘れないように.卒業式の時に,もう一度OTでよかったかと尋ねるから」と宣言します.

 

そして卒業式でそれを聞くと「私はOTでよかった」と涙でくしゃくしゃになりながらお礼を言ってくれました.皆さん今では立派にOTを実践しており,後輩を育てております.

何になるかはそのプロセスで決まるものですから,あんまり最初から無理に決めつけないほうがいいんじゃないでしょうか.

特に今は,高校生の段階で自分の将来を決められる人がどれだけいるんでしょうか?進路変更がしにくい社会,すなわち価値の多様性を認めない社会は,きっと生きていきにくい社会です.

これも昔の話ですが,私が勤務していた大学でリハビリテーション学科として100名入学させて,2年の後期から進学振り分けでPTとOTの希望を取ったらいいんじゃないかと計画を立てましたが,ほとんどの教員から却下されました.

そんな曖昧な態度での入学は許さない!と叱られました.OTの教員からは.OTに学生が全然来なかったらどうするんだ,とまたまた叱られました.私にはOTが一杯になる自信があったのですが.

東京大学はこのシステムで,最初はじっくりいろんなことを学んで,それから自分の進路を決めていくスタイルです.北海道大学も一部このシステムを取り入れていますね.総合理系(理学部,医学部保健学科,工学部,薬学部,農学部,水産学部に進学できる)からOT学科に入れるのですよ.

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作業療法は対象を選ばないのが強み

インタビュアー細川:

今やられている事や今後取り組むことはどういったことでしょうか。

吉川先生:

今年の4月から,大阪市にある地域リハビリテーション・サービスの民間会社である株式会社リハステージの事業本部で副本部長をしています.

 

固そうな肩書きですが,訪問看護ステーションと介護予防のデイサービスの職員指導とプログラム開発を行っています.リハビリテーションを充実させたデイサービスの構築を日々考えています.

それまでは大学教員を主にして,いろんなことをやってきました。

よく聞かれる質問が,なぜ大学教員をやめたのですかというものですが,いくつか理由があります。

まず自分が研究職には向いていないことに気がついたことです.漠然とした,形にならないものを形にするという仕事はとても魅力的なのですが,15年やって自分には結果を出す能力はないなと自覚しました.それが一番大きな理由です.

次に思ったのは,臨床での教育を充実させたい,ということです.今の作業療法士の教育システムでは,卒前教育に十分な臨床教育を組み込めておりません(と私は考えています).

学内で,講義をした教員が自ら臨床教育を行うことの教育効果は高いと思います.しかし,経済的な理由等で付属病院や付属研修施設の整備ができないということであれば,臨床でしっかり教えられる作業療法士の養成を別に行う必要があると思います.

特に,今私がいる地域リハの現状では,地域リハを効果的に学生や若手に指導する体制が充実しておりません.

今後ますますこの領域の重要性は高くなると思われ,臨床での指導体制を早く構築する必要があると思います.

現在の臨床実習も,もう未来を見越して変化させていく必要があると思っています.時代も人も変化しているのに臨床実習のシステムだけが20年も前のものを使っているのは怠慢以外の何者でもありません.あ,カリキュラムもですが.

この3月まで大学病院にいまして,発達障害の子を少し診ていましたが,当然ですが病院の訓練時間だけでは関わりきれません.

それで,学校にボランティアで出て作業療法を知ってもらおうと思いましたが,学校での作業療法士の認知度が低いことに驚きました.

地方ではまだ数も少なく,医療現場でさえ満たせていないのでしょうが,医療に偏ることがOTの本来の姿だとも思えません.

作業療法は,対象を選びません.医療でも,福祉でも,地域でも本質的には役に立てるものです.でも現状はまだ本当の広がりを見せていないと思います.

これをどう国民に知ってもらうか,そのためのどのようなシステムを作っていくかが,現場を通してのこれからの私の仕事になると思います.
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     吉川先生の経歴

職種:株式会社リハステージ 事業本部副本部長

学歴:

北海道大学医療技術短期大学部作業療法学科卒業(作業療法士免許取得)

秋田大学大学院教育学研究科学校教育専攻(障害児教育)修了後,東北大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻(人間発達科学)博士課程中退

職歴:

ひまわり会札樽病院,クラーク病院,社会福祉法人楡の会こどもクリニックを経て秋田大学助手,星城大学准教授,千葉県立保健医療大学准教授を経験後臨床に戻り旭川医科大学病院から現職

吉川法生先生  -作業療法を通して社会と教育を考える作業療法士(OT)-  第1回

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