作業療法の醍醐味
ー具体的にどんなことを研究しているんですか?
西方先生 例えば、今は、若年性認知症者の活動に関心があります 。デイサービスに通う若年性認知症者の方々が行う活動がどのように参加している方々に影響を与えているのか?どのように行っているのか?を調べようとしています。
作業をしている様子を観察したり、インタビューしたり、その人の中でどんな経験をしているのか理解するという質的研究が多いです。私が過去に調べた研究だと、障害児の親御さんたちが、子供に障害があると気づいた時に一度落ち込んで、それからどんな作業で光が見えてきたのかといったことを行いました。
それは、同じような経験をしている障害児の親同士の繋がりや、一緒に食事をしたり、一緒にピクニック行ったりして、前向きに気持ちが変わっていったということでした。これはあくまで一部ですが、そういった研究をしました。
ー 理学療法士と作業療法士は現場でどのような連携をするのがいいと思いますか?
西方先生 対象者がどういうことをしてきた人なのか、脳卒中になった方でも、それまでは一人一人違う作業をしていたわけですよね。背景を知ることで、今後障害を持ちながら生活していくときに何が重要なのかというのが分かりますし、とにかく対象者の語りを聞いてほしいと思います。
そこは、作業療法士が売りにしていかないといけないところ。そこで理学療法士とうまく連携ができるんじゃないかなと思います。作業療法士が「Aさんはもともとこんな趣味があって、退院した後にあの趣味がもうちょっとできるようになったら、他の ADLができなくてもすごく満足できると思うよ」っていうのを、理学療法士やその他のスタッフに共有できたらいいなと思います。
それが本当の作業療法の醍醐味になるんじゃないかなと思います。
ー 学生にはどのような授業をしていますか?
西方先生 ビデオを見てもらいながら、その人がどういう経験をしてきているのか、どんな思いでいるのか、というのをディスカッションしながら考えてもらっています。例えばNHKで昔やっていた「100歳バンザイ!」という100歳の高齢者の方を特集する番組があります。
朝ごはんをきちんと食べて、そのあと化粧をして、近所のおばちゃん達が遊びに来て…っていうのを見ていると、その人の作業が色々見えてくるじゃないですか。「どんな風にして行っているのか」、「健康にどんな風に影響するのか」、「なぜ100歳まで元気でいられるのか」といったことを考えてもらいます。
そういったことを患者さんに聴く力も必要ですし、それを分析する力も必要になってくるといます。そういったトレーニングを積むことで、作業の視点でその人を理解する職種になれるという気がしますよね。
ー 臨床の中で印象に残っている患者さんとのエピソードってありますか?
西方先生 作業療法士になって1,2年目ぐらいの時に出会った患者さんで、病院で七夕祭りを患者さんと一緒にやろうってなった時に、自分の担当患者さんに「開会の言葉お願いします」って頼んだことがあったんですよね。
その方は、かなり高齢の片麻痺の女性で、最初は「私そんなことできるかしら」って不安を漏らしつつも、一緒に文言とか考えたり練習したんです。
いざ当日、開会の言葉を話してもらった後に、その人に「すごくいい経験させてもらった。私はね、自分が開会の言葉を話した時に、自分が障害者で手が動かない、という感覚を忘れることができました」って言われたんですよね。
その時に、その人がその人らしく誇りに思える瞬間というのに作業が関わっているんだなと思いました。
【目次】
第一回:作業療法の “作業 “とは?
第二回:「作業療法は上肢」ではない
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西方 浩一先生プロフィール
文京学院大学 保険医療技術学院大学 准教授
日本作業科学研究会理事
日本作業療法士協会 教育部養成教育委員会委員
【最終学歴】
筑波大学大学院教育研究科
カウンセリング専攻リハビリテーションコース修士課程修了
聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科博士後期課程修了