第6回:『ニンゲン観察モニタリング』のススメ|松山 太士先生

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前回は、マネジャーに必要なコミュニケーションの実際について私の実践と内省を基に考えてみました。
今回は、コミュニケーションや関係性の観点から組織全体の状態を把握する方法について考えてみたいと思います。

 

改めて、マネジメントとは?

マネジメントの定義として、本連載では『他者を介して成果を出すこと』ということで話を進めてきました。
マネジメントについて更に理解を深めるために、まずはP.F ドラッカーの言葉をいくつか共有したいと思います。

 

・マネジメントとは、仕事の絆で結ばれたコミュニティとしての組織において機能すべきものである。共通する目的のもとに、仕事の絆で結ばれたコミュニティであるからこそ、マネジメントは人に関わることであり、善悪に関わることである。

 

・人的資源ほど効率の悪いものはない。したがって、人材のマネジメントこそが最大の関心事でなければならない。

 

・人的資源の生産性をもたらす鍵は、マネジメント的視点である。すなわち、それらのものを全体との関連において見ることである。

 

・マネジメントは、自らの組織が目的とする成果をもたらすことに責任を負う。

(出典:『ドラッカー 365の金言』P.F.ドラッカー著 ダイヤモンド社)

 

やや小難しいな、と感じたかもしれませんが、これらを簡単にまとめると
「マネジメントとは、組織全体を見渡しながら他者に関わり、組織の成果に責任を負う」
といった感じでしょうか。


組織を構成する『個人』は、目の前の自分のやるべき仕事に目を奪われがちです。個人がそれぞれ一生懸命やっていても、それらが全体として機能していなければ成果が低くなってしまいます(部分↔全体の軸)


このことは、皆さんよく分かっていることと思いますが、『言うは易く行うは難し』です。人は機械とは異なり感情を伴います。職種が異なれば物事を見る視点や価値観は異なりますから、意見や解釈の不一致が発生します。ここに、ドラッカーの指摘する非効率さが発生するのです。この非効率さを解消するために、マネジャーは人間関係やコミュニケーションの状態を常に把握し、必要に応じて最適化を図ることが求められます。

リハ領域のマネジメント 過去→現在→未来

特にリハビリテーション領域では、部署内だけでもPT・OT・STの3職種が存在します。病院全体では、医師・看護師らとの協働が必要です。このことからも、病院内の仕事で成果を出すためにはマネジャーの仕事が重要であることが理解できるかと思います。

 

ただし、理学療法士・作業療法士が病院内のみで仕事が完結できる時代は10年以上前に終焉を迎えています。地域包括ケアの時代を迎えた現在では、同じ地域の別組織との協働や自治体との連携なども求められています。部署・職場だけでなく、より広域な地域単位で仕事をし、全体最適を図ることが求められているわけです。更に未来未目を向けると、ロボットやAIなどテクノロジーの発展に伴い今まで関わりのなかった異業種との協働が求められる時代を迎えることが予想されます。

 

リハビリテーション領域のマネジメントは、現在では10年前と比べて難易度が相当上がってきているということ、そして今後さらに領域を超えた難易度の高いマネジメントが求められるということを改めて認識する必要があります。そうすると、特に次世代の中心となる若手療法士の皆さんこそ、現在~未来に向けてマネジメントのスキルを高めていくことが必要なわけです。

成功の循環モデル

さて、前置きが長くなりましたが本題に入ります。
マネジャーは組織全体を見渡しながら他者に関わり、組織として成果を出すことに責任を持つことが仕事です。
そのために押さえておきたい「組織全体の状態を把握する方法」について、マサチューセッツ工科大学(MIT)のダニエル・キム教授が提唱した『成功の循環モデル』というモデルを基に話を進めたいと思います。


物事の多くは、このようにらせん構造になっています。

上方向はグッドサイクル(良循環)、下方向はバッドサイクル(悪循環)です。
そして、中央部分がスタート地点だと考えた時に、グッドサイクルとバッドサイクルとの差はほんのわずかな差ですが、時間の経過とともに徐々に大きくなっていくという特徴があります。
このイメージをまず持ったうえで話を進めましょう。

 

物事の多くはらせん構造になっています。

上方向はグッドサイクル(良循環)、下方向はバッドサイクル(悪循環)です。
そして、中央部分がスタート地点だと考えた時に、グッドサイクルとバッドサイクルとの差はほんのわずかな差ですが、時間の経過とともに徐々に大きくなっていくという特徴があります。
このらせん構造のイメージに『成功の循環モデル』を重ねると、このようになります。

組織は人で構成されます。
組織内の関係性の良し悪しが、メンバーの思考の質行動の質につながり、ひいては結果の質にも影響を及ぼす、ということを示しています。そして、重要なのはこれらの循環はグッドサイクルもバッドサイクルも自律して回り続けるということです。
よってマネジャーの仕事は、バッドからグッドに組織の状態が向かうように働きかけることになります。

グッドサイクル組織 vs バッドサイクル組織

 

グッドサイクルが回っている組織は、

①関係の質:

挨拶や会話の量が多く、思ったことはお互い素直に伝えあっているため相互理解度が高い

②思考の質:

信頼関係がベースにあり、異なる意見であっても互いを尊重することができるため気付きが生まれる。自分たちでより良いものを生み出したいという当事者意識を持っている。

③行動の質:

お互い支援しあいながら、自発的チャレンジ行動している。

④結果の質:

組織として高い成果が出ている。

 

一方、バッドサイクルに陥っている組織は、

①関係の質:

挨拶や会話の量が少なく、相互理解度が低い自己防衛的となり、思ったことがあっても顔色をうかがうだけで伝えることは少ない。時に対立が生じ、強制力の強い指示や命令が増える。

②思考の質:

信頼関係が低く、お互いできるだけ干渉を避けるため気付きは生まれにくい。自分の任された仕事を無難にこなすことにフォーカスする「事なかれ主義」に陥る。組織の成果への関心は低く、他責思考に陥る。

③行動の質:

言われたことはやるが、それ以上のことはせず自発的な行動は見られない。何かに挑戦するようなことも無く自己保身に終始する。

④結果の質:

組織としての成果が低い

 

最初の差は紙一重であっても、1年、3年、5年と時間が経過すればするほどグッドサイクルの組織とバッドサイクルの組織とでは大きな違いが生じます。マネジャーは、組織全体の関係性を常に把握し、紙一重の差をしっかりと察知する能力が問われます。察知できていない課題は解決できませんし、課題が大きくなってからでは対応が困難となります。


マネジャーがトラブル対応に追われるばかりの組織は、バッドサイクルに陥っているのかもしれません。このような場合、何とかグッドサイクル側に入るところまで持っていくことが必要です。時には、人の配置を見直したり、入れ替えたりといった外科手術をしないと悪循環を断ち切れないかもしれません。このような時には関係性の調整といった対応のみでは困難なことも多いため、短期的に痛みを伴う人事異動などの英断も必要です。

 

最も理想的なのは、課題がまだ小さな時にしっかりと対応しグッドサイクル側に持っていくようなマネジメントです。大きな問題は起きることなく組織は自律的に成果を出し始めます。こうなればマネジャーの仕事は極端に少なくなりますし、上昇気流に乗って勝手に人が成長する組織になっていきます。マネジャーは大した仕事をやっていない様に映るかもしれませんが、それが理想的なのです。職員の成長を加速させるような働きかけをすれば良いわけですから、気持ちの良いコミュニケーションが主体となり精神的なストレスも少なくて済みます。

 

ニンゲン観察モニタリング


マネジャーにとって、『ひとりひとりの人間を観察し、組織の状態を正確に把握するモニタリング能力』は非常に重要です。マネジャーは人間に興味を持ち、興味深く観察し、なぜそのような行動(目に見えるのは行動だけです)をとるのかを、関係の質思考の質といった切り口から考え続けることが必要だと思います。
人間が好きで、他者に興味がある人は、マネジャーの資質アリです。このような人は、まだマネジャーの立場に無い方であっても、職場はもちろん電車の中でも人間観察を繰り返し実行してみましょう。できれば、友達同士のグループや上司と部下のグループなど、集団を観察すると多くの学びがあります。繰り返しの反復練習を重ねることで、モニタリング能力は確実に開発できると思います。
何だか似たようなバラエティ番組を思い出すかもしれませんが、マネジャーの重要な仕事の一つは、『ニンゲン観察モニタリング』だと肝に銘じておきましょう!笑

 

成功の循環を生み出す『マネジャーの言葉』を考える

最後に、私が普段から口癖のように言い続けている具体的な言葉をご紹介します。
『他者を介して成果を出す』ためには、どのような言葉でコミュニケーションを図るかが大切です。私の言葉が最適解では決してありませんが、『成功の循環モデル』と以下の言葉とを照らし合わせながら、ご自身の言葉に転換してご活用頂ければと思います。

 

・何か思ったことがあったら伝えた方が健全な関係が作れます。コンフリクトが起きても構いません。

・自己認識と他者認識の乖離が生じないよう意識しましょう。

・コミュニケーションは組織の血液循環。どこが滞っているのかを把握し解消しましょう。

・人間だから好き嫌いがあっても仕方がないけれど、コミュニケーションは怠らないようにしてください。

・組織の要となるポジションには、上司・部下問わず誰とでもコミュニケーションがとれる人を配置します。

・ああしろこうしろ、というより自分で考えて決めた方が良い方向に行きます。

・やりたくないならやらなくてもいいですよ。自分で決めてその結果も自分で受け止めましょう。

第6回:『ニンゲン観察モニタリング』のススメ|松山 太士先生

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