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常にバランスボールの上で生活できますか?【藤縄 光留先生】

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完全麻痺者特有の動作をイメージできることが大切

 

ー 今まで脊髄損傷を担当したことのない地域で働くセラピストに向けて、いざ担当した時に気をつけ方がいいポイントなどを教えていただけますか。

 

藤縄先生 脊髄障害は脳に障害を負っていないので、痙縮以外の問題は運動器として捉えることが可能です。ようは運動学知識がしっかりしていれば対応できると思います。立てないなら、その問題は筋力なのか、可動域なのか、動き方を学習していないだけなのか。操作に対する反応が運動器疾患では予測が可能です。脳疾患では操作に対する反応が不自然なことがあります。例えばプッシャー現象などのように運動学では説明がつきません。

 

また、完全麻痺では教科書的に損傷レベルによって可能な動作が決まってきます(ex.第五頸椎(C5)レベルだと肘を曲げることができる、車椅子駆動が自立する。C6レベルでは起き上がりや前方移乗が自立するものがいるなど)。しかし、これらの動作は正常動作とは違い、代償動作を伴うことが多いのです。正常動作は健常者をお手本とすれば良いのですが、完全麻痺者では健常者の動作がお手本にはならず、各損傷レベルで動作を獲得してきた先輩脊損者の動作を知る必要があります。

 

他の疾患では、起き上がり動作など我々健常人が動いているように誘導していくように考えると思いますが、完全損傷の方は、受傷してからセラピストと長い歴史の中で「あーでもない、こうでもない」と代償動作を発見してきました。それをまず把握しなければいけないし、動作イメージを持つことが必要になります。テニスのフォームを知らない人が、テニスのコーチができないのと一緒です。頭の中にフォームが入っていないとアドバイスできません。

 

あとは、脊髄損傷の方は支持基底面である骨盤帯や下肢が常に不安定な状態です。バランスボールに乗りながら生活していると思ってください。不全麻痺者は体幹や下肢が機能化してくるので、立位歩行動作の獲得が視野に入ってきます。

 

動作パターンも健常者の正常パターンを参考にできると思います。しかし、CVA片麻痺者などでは重症でもCVA片麻痺者ですが、不全脊損者は重症度が増すと完全麻痺者に近くなります。こうなると完全麻痺者の動作も知らないと対応ができません。完全麻痺への介入経験がないと対応できない状況と思います。

 

徒手療法と全介助の技術が必要です

 

ー 脊髄損傷の方はどうしても移動の問題がネックになってくると思います。ベッドで1日中寝ている方も多いイメージがあります。

 

藤縄先生 俗に”三点セット”とは言いますが、ベッド上でテレビリモコンとパソコン、携帯電話があれば動かないで済んでしまうので、その人を外に連れ出そうとしても「疲れるし、ここでいいよ」となってしまうわけです。

 

でも外出は、前の日からの準備を含めて、気持ちの面で緊張感も出ますし、心のメリハリがつくので本人が嫌だといっても、うまく誘導して機会は作った方がいいと思います。まずは外の空気を吸うことから始め、デイサービスでもなんでも、週一回、緊張感を持ってもらうということへつながるといいと思います。

 

そのためには、まず理学療法士の介助技術が高まらないと無理ですね。クアドピボットのトランスファー技術を身につけるのが大事です。まずは、全介助ができなければ患者さんを動かす機会が作れません。逆に言うと全介助ができるということは相当技術が長けていると思うんですよね。体の状態をしっかり把握できている。それがセラピストでも難しいんだから、地域スタッフに求めるって言うのはちょっと難しい。リフターの利用もありますが、セラピストには介入につなげるために全介助技術を習得して欲しいです。

 

脊損者の介入にあたって、徒手療法技術と全介助技術が必要になります。身体運動を考えた時、細部の関節運動と全体の身体運動があります。一つ一つの筋や関節を安全にどう動かしていけばいいのか、身体運動をミクロで捉えていくには徒手療法技術が必要です。感覚の無い身体を動かすわけですから、どの程度の力加減で痛みが生じるのか、軟部組織の損傷を起こすのかなど、筋や関節、痛みについての知識が必要となります。

 

また、麻痺の重度な四肢麻痺患者の全身運動を引き出すためには全介助法の習得が必要になります。全介助法を身に付けていれば、患者さんの潜在能力を探りながら介助量を減らしていく部分介助へ移行していけます。徒手療法技術と介助技術の組み合わせにより、誘導手技や促通・抑制手技に発展させることができると思います。

 

【目次】

第一回:臨床力を鍛えるにはこれしかない

第二回:介助技術がセラピストに必要なワケ

第三回:常にバランスボールの上で生活できますか?

最終回:経験年数10年以下はまだまだ若手だ

 

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藤縄 光留先生プロフィール

専門理学療法士(神経系)/ 認定理学療法士(脊髄障害)

1990年 3月 国立療養所犀潟病院附属犀潟リハビリテーション学院 卒業

1990年 4月 神奈川県総合リハビリテーションセンター 入職

脊髄損傷理学療法研究会」会長 2015~ 

北里大学医療衛生学部 非常勤教員 2016~

【講師・講演・学会発表歴】

  • 日本理学療法士協会主催 認定理学療法士(脊髄障害)必須研修会講師
  • 日本理学療法士協会主催 理学療法士講習会「脊髄障害に対する理学療法の実際」

学会・研究会発表、座長、講義多数 

【共著】 

  • 「脊髄損傷理学療法マニュアル第2版」文光堂2014
  • 「訪問理学療法技術ガイド」文光堂2014 
  • 「今日の理学療法指針」医学書院2015
  • 「OT・PTビジュアルテキスト ADL」羊土社2015
  • 「OT・PTビジュアルテキスト リハビリテーション医学」羊土社2018 など
常にバランスボールの上で生活できますか?【藤縄 光留先生】

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