ー 昨年7月に、山梨県言語聴覚士会が主催で、失語症友の会を立ち上げていますが、その設立に対する想いを教えてください。
内山先生 言語障害のために、どうしても日ごろ他者とのコミュニケーションが不足しがちな失語症の方やそのご家族、言語聴覚士が集まる場として、県士会会主催で友の会「ふじやま」を設立しました。
昔は、全国に友の会や、似たようなサークルがあったものですが、だんだんとその数も減っていき、今では県内にふじやまを除くと2つしかないという状況になってしまいました。このままでは、いつか一つもなくなってしまう。まずは山梨県に元気な患者会を一つ作ろうと思いました。
失語症のリハビリテーションというものは、病院の言語聴覚室で少し単語が話せるようになるだけでは意味がありません。家に帰ってご家族の方と話したり、近所に住む友人と会話を楽しむことにこそ、意義があるというものです。
今の若手言語聴覚士は、病院の中での失語症の方しか診る機会がないので、患者さんが地域でどういう風に生活をしていて、どんなことに困っているかを知りません。
在院日数を短縮し、地域に早く帰らなければいけない国の制度の中で、退院していった人たちを支えるのは、我々言語聴覚士しかいないだろうと思いました。職能団体が患者会を設立するということは、日本で初めてのことです。
コミュニケーションを促すプロフェッショナルとして
ー 続けていくには、会の中身が大切だと思います。地域の方達は、どんなことを望まれているのでしょうか?
内山先生 そうですね。参加者に今後の活動について意見を聞いたときには、少なくとも「勉強したい」とか、「誰かの話を聞きたい」という答えは一個も出てきませんでした。
それよりも、「この仲間で野菜を作って食べたい」、「仲間で野球観戦に行きたい」といった”活動”と”参加”に対しての意見が多かったです。
ー 職能団体主導で会を作っても、当事者が主体的に始めているわけじゃないので、人が集まらないものなんじゃないかなと思ってしまいます。
内山先生 確かに患者会というのは自分達で立ち上げるものですよね。
私も、半信半疑でしたよ。地域で生活のしづらさから、外出する機会を減らして長年過ごしてきた方たちが、患者会を作ったところで本当に出てきてくれるのか。「そんなの行かねえよ」って言われたっておかしくないと思っていました。
まずは、とにかく、来てもらわないことには何も始まりませんので、外来で言語訓練を受けていた人や、ケアマネージャーさんに紹介をしてもらったり、地域包括支援センターや保健所などにもチラシを置かせてもらったり、声をかけて周りました。必死に広報したかいがあったのか、初回から大勢の人に来ていただきました。
正直、立ち上げるまでは大変でしたが、それでも本当にやってよかったと思いましたね。当事者のご家族から「うちのお父さんこんなに笑ったの見たことない」とも仰っていただいたり、会で出会ったご家族同士が、「あ、近所だったんですね。じゃあ今度、一緒に行きましょう。」と次の会から同じ車に乗って来てくださることもあったり。
最近は、行政系からも声がかかるようになりました。学会や新聞などを通して、この活動を知ってくれた方が、「自分の県でも真似してやってみたい」「職能団体が友の会を活発にするということもありなんだ」と思ってくれたら嬉しいです。
ー 例えば、患者会でBBQをするっていうのには、専門職ではなく、無資格の方でもできるような気がするのですがSTが関わる意義はどこにあると感じていますか?
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