車椅子マラソンランナーの伴走者として【井上和広】

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リハの効果を汎化させるには

ー 前回、学校に入っていくという話がありましたが、養護学校では、今どのようにPTやOTが働いているのでしょうか?

 

井上先生 特別支援学校自立活動教諭という資格があって、それはPTOTじゃなくても受けれますが、PTOTのライセンスを持っていれば、一部科目が免除されます。

 

特別支援学校では、教育的リハの支援者として、発育発達の専門家として、そして一教員としての役割が求められます。実は僕も、いいなと思って転職を考えた時期があったんですよ。北海道では、全国に先駆けて社会人枠で自立活動教諭受けれる仕組みがあって。

 

やりがいは間違いなく、ある仕事だと思います。その子の機能を引き上げるには、普段過ごしている環境でないと学習できない部分があって病院や施設では限界があります。

 

実際に、普段過ごしている環境とは異なるところでやるセラピーは般化されにくいというエビデンスも出てきていて、海外では、その学習効果の高さから、家族や他の職種と一緒にセラピーを行うということが標準化されてきています。

 

井上先生に出会えたから

 

ー 小児理学療法領域の魅力について教えていただけますか?

 

井上先生 一生を通じて関わることができるというのは、小児分野ならではの醍醐味だと言えるかもしれません。出生直後2ヶ月くらいで出会った子と、大人になってもいまだに関わるなんてこともあります。そんな職業は中々ないですよね。

 

実習生の時に担当した、当時小学1年生だったアテトーゼの子と、40歳くらいになった今でもLINEしたりしていますからね。感動しながら仕事ができる、何か出来た時に感動を家族と共有することができるというのが、小児領域の一番の魅力だと思っています。

 

まだ私が若い頃に、ある二分脊椎で小学校5年生から担当したことがあったんですが、「車椅子マラソンでも挑戦してみる?」と、僕の提案で始めたことがありました。

 

練習してどんどん大会に出るうちに活躍するようになって、16歳になった時は、北海道で初めてハーフマラソンに出場、テレビ取材も受けるレベルにまでなりました。

 

もう、仕事のようで仕事じゃないですよね。コーチというか、伴走者というか。

 

その子のお父さんは、漁師で、一緒に船に乗せてもらって、釣りに行ったりとかして。家族ぐるみでお付き合いをさせていただきました。

 

それからある日、本人から膀胱がんだったんですって聞いたんですよ。その子は二分脊椎だから、膀胱の感覚がなくて。気がついたときにはがん細胞がかなり大きくなってしまっていました。

 

結局、見つかってから2ヶ月くらいで亡くなってしまって。34歳でした。

 

お見舞いにも行ったり、お通夜にも行って。

 

その子のお姉ちゃんには「〇〇は、井上先生と出会ったから、マラソンに出会えて光った人生を送れました。本当にありがとうございました。」って。

 

その時に、この仕事やっていて本当によかったなと、本当に思いましたね。本当に…。

 

実は、その子が使っていたレーサー(競技用車いす)も私がいただいています。「この車いすは井上先生に渡して、井上先生に次の世代を作ってくれ」と話していたそうです。

 

もう理学療法士と患者とかじゃなくて、人と人との関わりになるんですよね。

 

その子は水頭症もあったから、知的にも障害があって。IQでいったら60とか。でも車の免許も取って、アルファードみたいなでっかい車に乗って。二分脊椎だから足は麻痺なのにですよ。

 

「IQの点数が悪く視覚・認知機能も低いので、買い物もできない」と言われていましたが、普通に生活ができて結婚もして。僕ら理学療法士は、IQや検査の数値だけを鵜呑みにして、将来の設計っていうのは見れていないというのは学ばせてもらいましたね。

 

家族や子ども達から学ばせてもらうものって、ものすごく多い。むしろ、そのほうが大きいかもしれない。自然と「もっと勉強しなきゃいけない」という気持ちにもなりますよね。もっときちんとしたものを提供しなきゃいけないなって。

 

ー 井上先生にとってプロフェッショナルとはなんですか?

 

井上先生 2つ大切にしていることがあって、1つはある研修会で当時ボバース記念病院の鈴木恒彦先生に言われた「子どものアイドルになりなさい、そうすると脳内伝達物質が増え、より学習効果が高まります。」っていうこと。子どもが「この人となら楽しくやれる」とか「もっとこの人と頑張りたい」って思ってもらえるよう、アイドル的な理学療法士になろうと意識しています。だから下ネタも言いますよ(笑)。子どもにウケるんだったら、手段も選んでられないですよ。

 

あともう1つは、北海道に毎年研修会に来ていただいていた今川忠男先生に言われた「この人と出会ってよかったなって思われるセラピストになりなさい」ということ。

 

それは、お母さんにもそう。僕も今までいろんないい人たちに出会ってきて、今の自分がいると思っていて、子どもたちにとっても人生にとっていい出会いというのが大事だと思っています。子どもたちや家族が「誰に出会うか、何に出会うか」が、最も大切なんだとおもいます。いい出会いを提供できる理学療法士になりたいですね。

 

【目次】

第一回:子どもに理学療法士はどう関わるのか

第二回:車椅子マラソンランナーの伴走者として

 

車椅子マラソンランナーの伴走者として【井上和広】

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