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管楽器奏者のブレスについて

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優れた音楽家は、並外れた身体運動能力を持っている

山本篤先生: 私は、理学療法の技術を用いて、音楽家の方々の演奏時の身体運動を行いやすくするサービスをご提供いたしております。
 


では、そのようなサービスを、理学療法士が行うメリットは一体何なのでしょうか。 それは、演奏時の”身体運動”の改善の提案や、演奏による身体の故障を未然に防止する訓練の指導などを科学的根拠を持って行うことができるという点であると私は考えています。

 

管楽器や弦楽器等、楽器という道具を巧みに操り演奏するためには、呼吸や指使い、演奏姿勢といった身体運動が必要です。同様に、声楽家においては、自分自身の身体を巧みに操りながら歌唱という身体運動を行います。


これらのことから、優れた音楽家の条件のひとつに、並外れた身体運動能力を持っているという点を挙げることができます。そして、その身体運動能力を研ぎ澄まし、演奏において思い通りに発揮するために、音楽家は毎日数時間の練習を重ねるのです。

 

さて、奏でる音楽の巧拙に、身体運動能力が深く関与する以上、その能力をイメージ通りにコントロールすることができれば、音楽家自身にとっての理想的な表現が可能となり、聴衆を魅了する音楽を奏でることができるようになる、ということになります。

 

実際に音楽家が演奏をする際の身体の動きを見ると、とても複雑な運動の組み合わせであることがわかります。そして、その複雑な運動を、理学療法士が動作分析することで、より目的に合った動きにするヒントを見出すことができるのです。

 

管楽器奏者にとっての呼吸とは、演奏に必要なブレス


例えば、管楽器奏者の呼吸(ブレス)を例にとってお話いたします。 理学療法士にとっての呼吸とは、主に外呼吸のことをいいます。 理学療法士は、西洋医学の知識に依拠した、外呼吸に関する解剖学および運動学の基礎知識を持っています。

 

さらに、慢性呼吸器疾患や胸部術後等の急性期医療に携わる理学療法士であれば、生理学や病理学といった、外呼吸に関する西洋医学の幅広く詳細な知識の習得と理学療法技術の研鑽を、毎日続けているのです。 このように、理学療法士は、外呼吸に関わる西洋医学の知識を幅広く持っている専門職でもあるのです。



では、管楽器奏者にとっての呼吸とは何でしょうか。 管楽器奏者にとっての呼吸とは、演奏に必要なブレスのことをいいます。

 

管楽器は、肺からの空気の流れによって、リード(※葦やプラスチックで作られた薄い板)や唇といった物理的なものを振動させたり、エッジの部分に空気を鋭く当てたりして音をつくりだします。つまり、空気はまさに音の源であり、音楽表現の根幹を成すものです。

 

これらのことから、呼吸(ブレス)の身体の動きを最大限に引き出すこと、つまり理学療法士が考える呼吸(外呼吸)の動きを最大限に引き出すことが、管楽器奏者にとって強く求められるのです。


では、管楽器奏者にとっての呼吸(ブレス)=理学療法士にとっての呼吸(外呼吸)が妨げられる背景を一緒に見てまいりたいと思います。

 

楽器を構えることで起きる身体の変化

まずは楽器の重量の側面からみてまいります。 フルート等の小さな楽器ですと、その重量は数百グラムですが、オーケストラで使われるような大型の楽器ともなると、その重さは10kgに迫るものもあります。

 

 そのような重量の楽器を、演奏するのに理想的な位置に保持し続けることが必要なため、上肢帯はどうしても固定されやすくなります。

 

そして、その上肢帯の固定には、上肢帯の中枢側である肩甲胸郭関節を介した胸郭の安定が必要となります。 この胸郭の安定を得るためには、吸気時の胸郭の十分な可動性を制限する必要性が出てくるため、呼吸(ブレス)が妨げられやすくなります。



次に、楽器の構えからみてまいります。 管楽器の演奏時は、身体の前で楽器を構えます。その構えによって、音を出すために必要な、身体と楽器との相対的な位置関係をつくりだします。

 

そして、その位置関係をできるだけ崩さないようにするために、上肢帯を固定して演奏するのです。この上肢帯の固定が、肩甲帯を中心とする体幹筋の持続的な収縮をひきおこし、その収縮が、呼吸(ブレス)に必要な胸郭の運動を妨げます。



つまり、管楽器を演奏する時は、呼吸(外呼吸)に必要な胸郭運動が妨げられやすい姿勢で演奏することが求められるにも関わらず、可能な限り大きな胸郭運動による大きな呼吸(ブレス)が求められるという、相反する身体機能が同時に奏者に求められるのです。

 

さらに、演奏姿勢の意識からもみてまいります。演奏姿勢の審美性を必要以上に意識するあまり、脊椎全体の過剰な伸展を認めることが多くあります。この総体的な過剰な体幹の伸展により、胸椎や肋横突関節、肋骨、胸骨の可動性が制限され、胸郭全体の拡張が制限されます。

 

また、立って演奏する場合などにおいては、両側の足底間に投影された支持基底面の中心点から後方に重心点が偏位するため、転倒を回避するために腹側を中心とした全身の筋活動が亢進し、胸郭全体の拡張制限、つまり呼吸(ブレス)を妨げることにつながります。



そこで、管楽器奏者の呼吸(ブレス)に関するこれらの望まれない諸条件に対し、理学療法士の動作分析能力が必要となります。

 

PTの専門性は芸術の分野にも発揮できる

 

ここで、私が行っている一連の流れをご紹介いたします。 まず「管楽器奏者が表現したい音」を共通のゴールに設定します。

 

これは、音楽家自身から語って頂いたり、CD等から音を聞いたりします。次に、そのゴールとなる音に近づくために、管楽器奏者自身の現在の外呼吸運動(=胸郭の運動)や楽器の構え方(=演奏姿勢や上肢帯〜全身の固定)、実際の音、奏者自身が感じている悩みを評価します。



この一連の評価により、奏者が演奏時に無意識に行ってしまう、外呼吸を制限してしまう動きや姿勢において、何が改善可能なのかを推察します。この推察を元に、理学療法士の専門性である、動作の分析や姿勢の評価、各種理学検査などで評価を行います。

 

そして、その評価を元に、外呼吸時の胸郭の可動性向上を目的とした肋骨の可動域改善訓練や、招来が予測される機械的ストレスを軽減させ得る姿勢の提案などを行います。 つまり、医療分野において必須とされる理学療法士の専門性が、芸術の分野においてもいかんなく発揮させることができるのです。


そして、その理学療法士の専門性が、海外の音楽家の間ではすでに広く認知され、理学療法士が音楽の現場においても求められているのです。今後、日本においても、身体芸術の分野に関わる理学療法士は増えていくものと思われます。もちろん、それぞれの分野(音楽やダンス等)に特化した知識は必要となります。

 

しかしながら、それ以上に重要な点は、どのような分野にあっても、西洋医学に則った理学療法士として、解剖学や運動学、生理学といった、西洋医学の基礎的な知識は必要であるという点です。

 

この点から申しますと、学校での机上の学習や臨床実習での実地経験の全ては、理学療法士としての将来の自分自身に必要不可欠なものばかりなのです。

 

これからも楽しみながら、経験する知識や技術の全てを自分のものにして、様々な方の目標達成をサポートする素晴らしい専門職を目指してください。

 

今回のZOOMレクチャーでは、実際にヴォーカリスト、もしくは管楽器奏者をお招きして、評価からアプローチまでの流れをデモで行っていただく予定です。

 

解剖学を深く学ばれている山本先生に、ミュージシャン×理学療法の携わり方を伺います。

 

◆講師プロフィール

山本 篤 先生

理学療法士・Merge Labo代表

大阪芸術大学 非常勤講師として 解剖学の講義を担当 (年間90単位 135時間)

サックス奏者として、30年以上の演奏歴、サックスアンサンブルから 吹奏楽・ビッグバンドまで、 音楽の演奏での身体の使い方を 自分自身の感覚から学んでいます。 

 

◆概要

【日時】 6月27日(土) 19:30~21:30

【参加費】3,300円

※POSTのプレミアム会員(770円/月)・アカデミア会員の方は無料です。

【定員】50名

【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。お申し込みの方へ、後日専用の視聴ページをご案内致します。

【申し込み】以下のサイトからお申し込みください。

▶︎ http://ptix.at/Afhz6O

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