“着たい”より“着れる“を優先していなかったか?
>初めまして、誰もが好きな暮らしを楽しめる「オール・インクルーシブ」な社会を目指し、第一弾としてファッションブランドを発足した「SOLIT(ソリット)」の専門リサーチメンバーをしている、作業療法士の山口 賢です。
日々、障害を抱えている方と接している理学療法士、作業療法士、言語聴覚士であれば、『障害と服(更衣)』に関する問題やケースは容易に想像がつくと思います。
自分で着られるように、障害を捉え、動作分析をし、必要に応じて自助具やリメイクといった環境調整を行い、目標に沿って更衣動作のパフォーマンスを上げる。そのために、「シャツや靴などの衣服は機能的により良いものを・・・」、と福祉カタログ片手に選択し薦める。何よりその方のために。「できなかったことを“できる”にする」のは、リハビリテーション専門職の使命のひとつ。
作業療法士である私もそれなりに病院でそんな経験を多くさせていただきましたし、その時は『障害と服(更衣)』に一生懸命向き合っていた…つもりでした。
しかし、SOLIT発起人の田中美咲と出会い、他の業種の方たちの話を聞いていく中で、改めてセラピストとしての過去を思い返してみると、
「あの方の服の仕様とか靴とか、本当にあれでよかったのかな?」
「あの時もっといい解決策があったんじゃないかな?」
と疑問が湧き、
「ズボンの着脱がしやすいように、伸縮性のあるジャージの方がいいなぁ」
「Yシャツのボタンは難しいし時間がかかるから、かぶるタイプのポロシャツやTシャツが良いかも」
「ズボンの着脱は時間がかかるし、リスクや生活背景を考えれば一部介助が妥当かもしれないな」
と、セラピストとして偏ってしまった考え方や捉え方をしていたと気づき、後悔の気持ちに苛まれました。
・あの方がほんとうに着たかった服は?
・あの方は、どんな場面で、どんな洋服を着たかったのか?
・あの方が着たいと思う洋服に合わせて、どれだけ服の選択肢を広げられたか?
・あの方が着たいと言った洋服で更衣動作練習ができたか?
・“着たい”より“着れる“を優先していなかったか?
今でこそ、障がい者の方と接したりお話ししたりする機会が増えたので、よく耳にするようになりましたが、障害を持たれた方たちはファッションをあらゆる場面で「諦める」ことをしてきたということ。そして、それは、私はセラピストとして「諦めてはいけない」と精神論的でもいいから胸を張って言い切れるような勇気づけや、それを裏付けるための選択肢を持っていなかったことも事実です。
何のためのセラピストであるのか。SOLITは、この答えを私自身の中から引っ張り出してくれている気がしています。現在、私を含めた専門職も多数所属しているファッションブランド「SOLIT」について、今回紹介させていただきます。
『All inclusive(すべてを受け入れる)』を実現するファッションブランド
SOLITは、誰もが「違い」をありのままに受け入れ、健全に共存できる「All inclusive経済圏」の実現を目指す、オールインクルーシブライフスタイル企業です。
第一弾として、誰でも、そして特徴的な体型の方も着脱しやすく、部位ごとに好きなサイズや丈を選ぶことができるセミパーソナライズのファッションの開発、製造、EC販売を目指してます。
発起人である田中美咲は、東日本大震災をきっかけに、様々な社会課題に取組み始め、「いかにして全ての人間、自然や動物も、どれも取り残さない、全ての存在が本来持つべき尊厳を保つ社会を実現できるのだろう」と問い続け、そしてそれを、毎日、誰しもが手に取り身に着け、自己表現の手段となりうる「ファッション」から実現できないか、と仮説を立てました。
彼女は、自身のnoteに想いをこう綴っています。
“私は太っているから。私たちは日本人だから。私の肌の色が黒いから。そうやって服の選択肢は、私たちの手から幾度となくすり抜けていった。体型や国籍や宗教や性別や、ありとあらゆる分類が自由なはずだったファッションを、私を縛り付ける鎖にする。私にだって、好きな色がある。好きな形がある。 ほんとうは、もっと、ファッションを楽しみたい。“
引用:https://note.com/misakitanaka/n/nc6f4d43cdb4f(田中美咲note)
本当はデートに着ていけそうなジャケットを着たい、けれど諦めていた
SOLITは、様々な身体的特徴を持つ仲間たちと一緒にそれぞれにあわせてカスタマイズができる衣服開発を進めています。筋肉のつき方が特徴的でジャストサイズが着こなせない人も、身体に障害があって既存の服だと着脱に困難を感じる人も、車椅子ユーザーの人もいます。身体障害のある方、特に車椅子ユーザーの仲間と共に開発する中で、あらためて「画一的なサイズや形の衣服以外の選択肢の少なさ」に大きな課題があることを知りました。
|本当はデートに着ていけるようなモテるジャケットとか着たいけど、肩があがらなくて着れる服が限られる(脳性麻痺・30代)
|基本は、自分で服を選んだことはない。カッコいいものがあっても、自分では着れないと諦めている(脊髄損傷・20代)
|下半身が太くて、気に入った服を試着室で着ると、着れないことが多い。私が悪いのかな...。(下半身肥満・20代)
私がいる専門リサーチチームには、全国様々な場所に滞在するリハ医、理学療法士、作業療法士、鍼灸師、介護士、車椅子ユーザーなどが在籍しています。このチームでは大きく分けて以下5つの役割を現在担っています。
❶ 障がい者へのアンケート作成と調査(個別課題とニーズの洗い出し)
❷ 試着会でのサンプル評価やヒアリング (協力:脊損トレーニングジムJ-workout)
❸ 因子分析MAP作り(更衣と服をリンクさせ、デザイナーも活用見て分かる評価尺度作成)
❹ リハビリテーションとファッションに関する文献、研究調査
❺ 試着室兼オフィス条件整理(障がい者も使用できる試着室や店舗条件の洗い出し)
<専門リサーチメンバー(専門職)>
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田中慎一郎:リハビリテーション科専門医(医療法人田中会武蔵ヶ丘病院 副理事長)
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橋本ゆりか:作業療法士(医療法人田中会武蔵ヶ丘病院)
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大門恭平 :理学療法士(岸和田リハビリテーション病院 科長/京都大学大学院 博士課程)
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伊藤由希子:鍼灸師
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山口賢 :作業療法士(社会福祉法人牛久博愛会フロンティア牛久 管理者)
特に、専門リサーチメンバーが担う「因子分析MAP作り」に関しては、生みの苦しみを味わいながらチームメンバー総力戦で作成しています。
↓zoomミーティングで全員が悩みの森にさまよった場面(笑)
↓脊髄損傷者専門トレーニングジムJ-workoutでの試着会場面
SOLITメンバーの仲間は、それぞれのプロフェッショナルとしてお互いにリスペクトし、力を合わせて今まさに奮闘しているところです。
“着たい“を実現し、”着れる“も同時提供する。
そして、『着たいと思う服を自由に着られる』ということが、その方にとっての自己表現のひとつになり、自分を好きになるきっかけになる、何より“今日は何着ていこう”といった日々のワクワクがひとつ増えることになると思っています。
リハ職「も」関わることで、誰しもがファッションを楽しめる世の中に
最後に、私がSOLITのチームメンバーとして、専門リサーチメンバーとの関わり、異業種の方たちとの関わりで感じたことや思ったことを2つ、あくまで主観ですがお伝えできればと思います。
1つは、リハ専門職の活躍の場はもっと広く社会全体に存在しているということ。
専門的知見やスキルで作成しているSOLIT独自の因子分析MAPもアパレル業界に対し先駆的に価値を提供できるソリューションになるかもしれないですし、アパレルだけでなく“健康”や“地域・コミュニティ”といったワードを使用してCSV活動をあらゆる企業が行っているこの時代に、専門職として高めたスキルは、社会全体に、より多くの人のためになり貢献できるものであります。働く場、活躍の場は確実に広がっていると思います。
2つめは、より多くのセラピストにSOLITという会社とこのプロジェクトを知っていただき、ひとりでも多くセラピストが「SOLITを利用し、障害を抱えていることによって“ファッション“で悩んでいる方たちの課題解決の橋渡し」になっていただけると嬉しいです。
SOLITの手掛ける洋服やファッションを通して、障がい者の生活や生き方をより良くしていきたい。
私たちがあたりまえのように「デートで着たい」と思った服を選び着るのと同じように、障害を抱えた多くの方も同じように体験できる人生を送ることができるような社会を実現したい。
そして、SOLITは、障害を抱えた方の生活に寄り添い、伴走しているセラピストの皆さんの一助となり、そんな未来ある社会の実現を皆さんと共有したいと思っています。
現在、ファッションの製造やEC販売のための運営のための資金集めのために、クラウドファウンディングにも挑戦中です。
誰しもがファッションを楽しめるような世の中へ。
オールインクルーシブライフスタイル企業である SOLITのはじめの一歩。
オールインクルーシブな社会のはじめの一歩。
皆さんのサポートや後押しをいただけたら幸いです。
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