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【佐藤良枝】認知症。なぜ対応に困ってしまうのか

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小児は発達していく、老年期はその逆。

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佐藤 なんとなく作業療法という仕事に就きました。


高校生の時に、児童文化部という保育園などを廻って人形劇や影絵など、自分達で作ったものを見てもらうという活動をしていたんです。その時に障害のあるお子さん達に、それを見てもらった際に「これって本当にこの子達にとって楽しいことなのかな」という疑問を持ちました。


ちょうどその時国際障害者年でその時にリハビリテーションという言葉を知りました。当時はリハビリテーションという言葉自体、今とは違って誰も知っていなかったんだけど、砂原茂一先生の「リハビリテーション 」という岩波新書の本を読み、なんとなく興味を持ってこの道に進むことを決めました。



卒業して、一番最初に勤めたのは小児の分野でした。その時は絶対、小児分野をやりたいと思って静岡にある養護学校が併設されている肢体不自由児施設に就職しました。


それから3年ほどして神奈川に戻ってくることになったのですが、小児分野で働く場所が見つからず、知人の紹介で老健で働くことになりました。



小児分野から老年期の分野に移って感じた一つが「全身を診る」というところが共通しているなと思いました。身体障害の分野だと役割分担みたいになっちゃうところが多いじゃないですか。だけど小児だとPTもOTも「全身をみる」ということが当たり前だったから今思えばそれが良かったと思っています。


あとは発達の逆というところ。小児って発達していくけどお年寄りはその逆に近いところがあるなと思うんです。

 

小児分野の経験が認知症ケアに活かされる


認知症のある方に対して小児の知識が一番役だったのは「指差し」。これは本当に発達の知識がない、小児で働いてなかったら思いつかなかったなと思うんです。指差しって一番最初は小さい子が犬を見た時に「ワンワン、ワンワン」って指すだけなんだそうです。



対象と自分の二つの関係性を結ぶ指差し。それが成長してくると「ワンワン」って言ってお母さんの顔をみるんです。それが対象と自分と母親の三者関係を結ぶ指差しです。


またそれが成長するとお母さんが「◯◯ちゃん、あそこにブーブーが通ってるよ」って言った時にお母さんが指した指差しを見ることが出来るようになる。前言語の段階で自分と他者、対象とのコミュニケーションが広がっていきます。


アルツハイマー型認知症のある方で、記憶が低下して見当識が障害されているという知識はすごく今浸透しているので、ご家族の方でも一般の方でも知っている方が多い。


でも認知症は言語能力も低下するということがあまり知られていないんです。その知識がすっぽり抜けていると、例えば説明を丁寧にしようと長ったらしく話してしまったり。その知識が抜けていることで、親切が逆効果になっていることが多いのかなと覆っています。



認知症が進行すると言葉が言えなくなるんだけど、ただ感情や意思とかしっかりあるんです。表現する手段がないだけで単語なら分かるけど長文理解ができない。ということはよくあります。


認知症という状態像を引き起こす病気の1つの前頭側頭型認知症(たとえばピック病)では、言語表現力が低下するということがよくあります。 そんな時に指差しが役立つコミュニケーション手段になるんです。それを知っておくと認知症のある方で言語能力が低下している方のアウトプットにとても活用することができるんです。
 

クレーン現象と職員の戸惑い

 

実際、指差しがPick病の方のコミュニケーションを取るのに「指差し」役立ったことがあるんです。

あるケースで、その方はお部屋に行きたいんだけど「お部屋にいきたい」と言えないので職員を強引に険しい顔して引っ張っていったんです。それは言葉が発せないからその人は必死の思いで引っ張って連れて行ったんですね。

でも、職員だって硬い表情で無理やり引っ張られたら嫌じゃないですか。「クレーン現象」という自閉症児のお子さんでも起きることのある現象で、言葉で言えない時に自分の意思を伝えるために相手を引っ張って目的地に連れていくという現象です。

結果としてそうなってしまうんですけど、Pick病の方でそれだけの強い意思があれば指差しできるかもって思ったんです。



ずっとその人に引っ張られた時に「お部屋に行きたいんですか?」って指差しをしながら繰り返しやったんです。視覚的被影響性亢進(目に見たものにつられてしまう)っていうPick病の症状もあって、その方指差しができるようになったんです。「部屋にいきたい」という意思表示を指差しを使って!


この発想は小児の分野に勤めていなければ出てこなかったなと思います。
 

認知症は「いい人になることを介護者が求められる病気」?


認知症に対するケアでまだまだ、不十分だなって思うところはいくつかあって。「優しくする、褒める、怒っちゃいけない、相手に寄り添う」だということが全面に出ちゃって周知されていること。


言葉はすごく綺麗でその通りだと思うんですけど、あまりにも心理社会的な対応だけ取り上げられちゃって、認知症は脳の病気といういうのが抜け落ちちゃっている。あたかも「いい人になることを介護者が求められる」ような状況になっていてそれはおかしいと思っています。


例えば、同じ脳の病気で脳卒中の後遺症のある方に、怒らなかったり親切にしたり優しくしたところで、麻痺が改善するわけでもなければADLがよくなるわけでもない。ただ対人援助職の基本としてそういうことをするわけで、麻痺の改善やADL向上を考えた時は他のアプローチをすると思うんです。


だけど、同じ脳の病気の認知症のある方に対してはそれだけなんです。「怒らない、優しくする。」ってしてても認知症による困りごとはよくならない。


認知症も脳の障害によって起きるのだから、障害と能力をきちんと把握しないといけないんとずっと思っています。

 

佐藤良枝先生経歴

1986年 作業療法士免許取得

肢体不自由児施設、介護老人保健施設等勤務を経て2010年4月より現職

2006年 バリデーションワーカー資格取得


2015年より 一般社団法人神奈川県作業療法士会 財務担当理事
隔月誌「認知症ケア最前線」vol.38〜vol.49に食事介助に関する記事を連載

認知症のある方への対応や高齢者への生活支援に関する講演多数

一般社団法人神奈川県作業療法士会公式ウェブサイト「月刊よっしーワールド」連載中

 

【佐藤良枝】認知症。なぜ対応に困ってしまうのか

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