発表内容の概要
東京都健康長寿医療センターの高齢者健康増進センター原田和昌副院長、杉江正光医員らの研究グループは、高齢化日本一の群馬県甘楽郡南牧村が実施した「フレイル調査」の結果から、当該地域における身体的フレイル、うつ、孤立の頻度が低いこと、さらには、負のフレイルスパイラルの順序性を明らかにし、英文紙「Archives of Gerontology and GeriatricsVolume 100, May–June 2022, 104659」に掲載されました。
研究成果の概要
群馬県甘楽郡南牧村(以下、南牧村)では、平成 30 年度より「南牧村いきいき健診」事業を(一社)日本健康寿命延伸協会に委託しフレイル調査を実施しています。本事業は、75 歳以上の後期高齢者であり、かつ要介護認定を受けていない村民を対象に握力や歩行速度などの身体機能を含む身体的フレイルや高齢期うつ、認知機能、社会的孤立などの評価を実施し村民のフレイル状況を把握、介護予防事業等の方針決定の一助とすること、及びフレイルハイリスク者の早期発見・対策につなげることを目的に行われました。
研究解析の結果、南牧村の後期高齢者は身体的フレイルや高齢期うつ、社会的孤立の頻度が、65 歳以上の前期・後期高齢者を対象とした他地域での先行研究の発生頻度よりも低く、認知機能の低下に関しても前期・後期高齢者を対象とした他地域での先行研究と同等の発生頻度であることが判明しました。また、身体的フレイルや認知機能の低下、高齢期うつや社会的フレイルの相互関係を解析した結果、身体的フレイルは社会的孤立や高齢期うつから始まり、身体的フレイルが認知機能の低下をもたらすことが判明しました (図1)。
研究成果の意義
今回、南牧村のデータ解析から、「身体的フレイルは社会的孤立や高齢期うつから始まり、身体的フレイルが認知機能の低下をもたらす」負のスパイラルの存在が地域特性として判明しました。
Covid-19 のパンデミックやそれに伴うロックダウンは活動自粛に伴う社会的孤立の悪化に拍車をかけ今後の、高齢者におけるうつや身体的フレイル、認知機能の増悪が危惧されます。フレイルが各種疾患(心血管疾患、脳血管疾患、転倒・骨折、認知機能障害ほか)の発症の温床となっていることや 75 歳以上の高齢者における要介護の原因であることを踏まえると今後、ポストコロナにおける社会保障費の増大が懸念されます。人生100 年時代を見据えた健康施策には、地域特性を明らかにし抽出された地域課題に合目的的に立案する事が有用と考えられます。
詳細▶︎https://www.tmghig.jp/research/release/2022/0311.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。