【ポイント】
- ・適応学習機能を搭載した筋電制御型の義手システム
- ・厚生労働省の補装具等完成用部品に登録され、公費支給により利用者に届けられる
【概要】
電気通信大学大学院情報理工学研究科の山野井佑介特任助教、矢吹佳子特任研究員、博士後期課程 3 年黒田勇幹氏(横井研究室所属)は、5 指独立駆動型のサイボーグ義手(1)の開発と実用化に成功し、病院等でのフィールドテストをパスし、厚生労働省の補装具等完成用部品として認められた。このシステムは、個性適応学習(2)機能を搭載しており、利用者の筋電パターンと義手の手指運動パターンを後天的に対応づけることで、自在にコントロールすることができます。
【背景】
これまでに国内で公費支給されてきた筋電義手は、海外の製品が主であり、輸入品であるためにコスト高であるとともに、機能的にも制限が大きく、自由に機能追加などの開発を行うことが困難でした。山野井特任助教らは、人工知能とロボット技術を研究しており、そこでの研究成果の社会還元を目指した取り組みを行ってきました。今回完成用部品に登録されたサイボーグ義手は、その一例であり、電気通信大学が開発に成功した研究の集大成となります。
【手法】
この義手システムは、3ch の筋電センサの情報をルネサス製 SH2 マイクロコントローラを介して、5 指ロボットハンドを制御するシステム構成です。ソフトウエアは適応学習機能を搭載しており、利用者の筋電パターンと義手の手指運動パターンを後天的に対応づけることで、自在にコントロールすることができます。(図 1)
【成果】
上記、義手システムを 3 名の被験者と 3 か所の病院および義肢装具会社の協力を得て、3 か月間のフィールドテストを行い、主治医の診察として、日常生活において有効に機能し被験者の生活向上に寄与するとの評価結果を得ました。これらの評価結果に加え、組み立てマニュアルとプロトタイプを厚生労働省に提出し、完成用部品としての認定登録に至りました。これまで電動義手で完成用部品に登録されているものは国外製大手 3 社のものと 2018 年に当研究グループが開発したもののみであり、国産義手としては 2 例目となります。本システムは他社製には無い適応学習機能を搭載しており、より直感的に義手を動かすことが出来ます。
完成用部品リスト(部品単位で記載されています)
https://www.mhlw.go.jp/content/000922395.pdf
Mu-BORG MU001-HD-A-001 BIT ハンド
Mu-BORG MU002-SH-A-001 コントローラモジュール
Mu-BORG MU003-EM-N-001 センサモジュール
Mu-BORG MU004-SG-A-001 センサグランドケーブル
Mu-BORG MU004-PS-N-001 主電源スイッチ
Mu-BORG MU004-PW-N-001 メインケーブル
Mu-BORG MU005-MB-N-002 バッテリー
Mu-BORG MU005-MB-N-001 バッテリーボックス
Mu-BORG MU004-MT-N-001 モータスイッチ
Mu-BORG MU005-MB-N-003 バッテリーチャージャー
【今後の期待】
本義手システムは、独自開発のメカおよび制御系システムとなっているため、自由に機能追加の開発を実施可能です。本学の英知を取り入れながら機能向上が図られることが期待できます。
(論文情報)
Yuki Kuroda, Tatsuki Tsujimoto, Takayoshi Shimada, Yoshiko Yabuki, Dianchun Bai, Yusuke Yamanoi, Yinlai Jiang, Jinying Zhu, Hiroshi Yokoi : "Development and ClinicalEvaluation of a Five-Fingered Myoelectric Prosthetic Hand with Pattern Recognition", 2022 IEEE 4th Global Conference on Life Sciences and Technologies (LifeTech), (2022). (IEEELifeTech 2022 Outstanding Student Paper Awards for Oral Presentation 受賞)
(外部資金情報)
本研究の一部は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 )2019 年度「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」の助成を受けたものです。
(用語説明)
(1)サイボーグ義手:
生体信号を用いて制御されるロボットハンド。
(2)個性適応学習:
パターン識別機能を用いることで、筋電信号の周波数強度パターンと義手の手指動作パターンの対応関係を後天的に獲得する方法。
図 1 左より、五指駆動型ロボットハンド、五指駆動型筋電義手システム全体、ソケットへの組付け例
詳細▶︎https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2022/20220414_4386.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。