血液透析患者における知見 栄養不良とサルコペニアの関係が明らかに ~サルコペニアの発症防止、早期発見・治療への期待~

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本研究のポイント

・血液透析患者において、栄養状況がサルコペニアと関連することを発見。

・簡便な栄養指標(NRI-JH)を用いることで、サルコペニアの発症防止、早期発見・治療、生命予後の改善に繫がることが期待。

概要

大阪公立大学大学院 医学研究科代謝内分泌病態内科学の藏城 雅文(くらじょう まさふみ)講師、腎臓病態内科学の森 克仁(もり かつひと)准教授、代謝内分泌病態内科学/腎臓病態内科学の繪本 正憲(えもと まさのり)教授らの研究グループは、血液透析患者において、栄養状況と筋肉量が減少し筋力が低下するサルコペニアが関連することを発見しました。

血液透析患者では、高頻度に低栄養状態であることが知られています。また、サルコペニアも高頻度に発症し、死亡率が高いことを我々は明らかにしてきました。これまで、血液透析患者において、低栄養状態がサルコペニア発症の危険を増加させるのではないかと考えられていましたが、実際にそのような関係を調べた報告はほとんどありませんでした。

本研究グループは、315 名の血液透析患者を対象に、日本透析医学会学術委員会栄養問題検討ワーキンググループで開発された栄養指標 NRI-JH と、サルコペニアとの関連を調べました。その結果、低栄養は骨格筋量・筋力・身体機能の低下と関連し、さらにサルコペニア・重症サルコペニアと関連することがわかりました。

この研究成果は、血液透析患者において、栄養状況がサルコペニアと関連することを明らかにするものであり、さらに NRI-JH を用いることで、サルコペニアの発症防止、早期発見・治療、生命予後の改善に繫がることが期待されます。

本研究結果は 2022 年 5 月 13 日に「Frontiers in Nutrition」誌(IF= 6.576)にオンライン掲載されました。

 

研究者からのコメント

低栄養状態はサルコペニアと関わるという考えは、古くからありましたが、実際にそのような関係を調べた報告はほとんどありま せんでした。本研究により、栄養状況がサルコペニアと関わることが明らかになったことで、栄養状況をターゲットとしたサルコペニアの発症・進展防止の治療戦略につながることを期待しています。

 

掲載誌情報

雑誌名: Frontiers in Nutrition

論文名: Nutritional status association with sarcopenia in patients undergoing maintenance hemodialysis assessed by nutritional risk index

著者: 藏城雅文、森克仁、宮部美月、松藤勝太、一居充、森岡与明、木津あかね、辻本吉広、繪本正憲

Masafumi Kurajoh, Katsuhito Mori, Mizuki Miyabe, Shota Matsufuji, Mitsuru Ichii, Tomoaki Morioka, Akane Kizu, Yoshihiro Tsujimoto, and Masanori Emoto

掲載 URL: https://doi.org/10.3389/fnut.2022.896427

研究の背景

血液透析患者では、高頻度に低栄養状態にあり、さらにサルコペニアも高頻度に発症していることが知られています。これまで、低栄養状態はサルコペニア発症の危険を増加させるのではないかと考えられていましたが、実際にそのような関係を調べた報告はほとんどありませんでした。その理由は、特に透析患者において、栄養状況を評価するゴールドスタンダートと呼べる診断基準がなかったことや、サルコペニアの判定に必要な骨格筋量の計測は、設備が整った機関でないと受けることが難しいことなどが挙げられます。そこで、本研究グループでは、日本透析医学会学術委員会栄養問題検討ワーキンググループで開発された NRI-JH とサルコペニアの関連について調べることで、栄養状況がサルコペニアと関連することを明らかにできるのではないかと考えました。

研究の内容

315 名の血液透析患者を対象に、栄養指標である NRI-JH とサルコペニアとの関連を調べました。NRI-JH とは、日本透析医学会学術委員会栄養問題検討ワーキンググループで開発された栄養指標であり、BMI、血液中のアルブミン、クレアチニン、総コレステロールにより、評価するものです。サルコペニアの評価には、アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2019の診断基準を用いました。具体的には、骨格筋量を DXEA 法(二重エネルギーX 線吸収測定法)、筋力を握力計、身体機能を 5 回椅子立ち上がりテストにより評価しました。サルコペニアは、「骨格筋量の低下」+「筋力の低下 もしくは 身体機能の低下」、重症サルコペニアは、「骨格筋量の低下」+「筋力の低下 および 身体機能の低下」により判定しました。

中/高リスク群(低栄養患者)では、骨格筋量の低下、筋力の低下、身体機能の低下の有病率が有意に高値であり、サルコペニア、重症サルコペニアの有病率も有意に高値であることが明らかになりました(図 1)。また、サルコペニア、重症サルコペニアの危険因子を考慮(危険因子で調整)しても、中/高リスク群(低栄養患者)は、低リスク群に比べて、サルコペニアのリスクが 2.96 倍、重症サルコペニアのリスクが 2.24 倍高いことが明らかになりました(図 2)。

図 1. 中/高リスク群と低リスク群におけるサルコペニアとその構成要素の有病率

 

図2. 中/高リスク群(栄養指標)におけるサルコペニア・重症サルコペニアのリスク

(低リスク群に対するオッズ比)

詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-00843.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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