神経モビライゼーションの概要
神経を動かすことによる効果
・疼痛、異常感覚の軽減
・神経の機械的機能の改善
・神経結合組織の成形
・神経内血流の改善
・機械感受性の改善
神経系機能障害の原因
神経が伸長されると神経内の血流が変化します。神経を支配する神経内の血管は、コイル状になっているため神経が伸長されても血管までは伸長されません1,2,3)。8%程度神経を伸長すると静脈流は減少しはじめて、15%伸長で神経内外の血流が遮断されると言われています4)。抹消神経だけでなく、脊髄の血流も低下するといわれています。
神経は、非常に酸素を使う組織のため、酸素不足に対して敏感です。酸欠状態に陥ると、神経機能が低下し、しびれ等が出現していきます。一方、わずかな伸長でも長時間に及ぶと虚血が起こります。6%の伸長でも、1時間程度続くことで神経伝導性は70%に低下するという報告もあります。例えば、肘関節を屈曲位から伸展すると、正中神経の周囲組織(メカニカルインターフェース)は20%程度長くなると言われています5)。
末梢神経の血流はだいたい8ー15%の伸長で遮断されるため、仮に肘関節伸展時に正中神経が全く滑走しないとしますと、正中神経の血流が遮断され虚血を起こします。ただし、実際にはそういうことは起こらず、肘関節伸展時には近位では肩関節、遠位では手関節から神経組織が移動(滑走)するため、実際の神経の伸長は4ー6%程度に抑えられると言われております6)。このような状態に対して、長期的な臥床等で神経の滑走性が低下すると神経症状としての問題が出てきます。
神経に対する評価
ー触診の注意点ー
神経の触診は慣れないと難しく、腱との区別が特に難しいです。以下が神経触診の注意点です。
・神経は腱よりも固く丸い。
・神経は腱よりも横断方向の弾性がある。
・神経を伸長して触診すると反応(神経性の痛み、違和感)が大きい。
・症状の出現、左右差に注意する。
・優しく慎重に触診する。
・神経特有の反応が見られるとは限らない。
・健常者における典型的な反応を把握する。
坐骨神経の触診手順
大転使と坐骨結節を結んだ線のちょうど真ん中または内側1/3の部分に位置しています。まず指の先端で触れたら、走行に沿って触診していきます。人によっては、坐骨結節付近ですでに脛骨神経と総腓骨神経に分かれている人もいれば大腿後面の中央部辺りで枝分かれする人もいます。
また、大腿後面は軟部組織も多い場所のため直接触れるよりも軟部組織を通して触診することになると思います。そのまま走行に沿っていくと膝窩部で脛骨神経が触れ、徐々に内果の裏に伸びていきます。一方、総腓骨神経は大腿二頭筋腱の内側辺りを探すと見つかり、腓骨後面から下方に走行していくのが触知できます。
先ほど、触診の注意点でお伝えしたように「神経を伸長して触診すると反応(神経性の痛み、違和感)が大きい」という特性を生かして、総腓骨神経の触診をしてみると、足関節を底屈位にすると総腓骨神経が伸長されるため通常の触診よりも強い刺激で反応を確認することができます。
参考文献
1)Sunderland, S. (1978) Nerves and Nerve Injuries. 2nd Edition, Churchill Livingstone Inc., Edinburg London and New York.
2)Sunderland, S. (1991) Nerve injuries and their repair : a critical appraisal.Churchill Livingstone, Edinburgh
3)Lundborg, G: Nerve injury and Repair, pp. 91-96. New York, Churchill Livingstone,1988.
4)G Lundborg, B Rydevik: Effects of stretching the tibial nerve of the rabbit. A preliminary study of the intraneural circulation and the barrier function of the perineurium.1973 May;55(2):390-401.
5)Millesi H: The nerve gap. heory and clinical practice. Hand Clinics, 1986, 4: 651-663.
6)Millesi H: Mechanical properties of peripheral nerves.1995 May;(314):76-83.
参考:神経系モビライゼーション|痛み/しびれ/可動域障害を治療する!病態に応じた積極的なアプローチ(セラピスTV)
【目次】
チャプター1:神経モビライゼーションの概要
チャプター2:神経系のメカニズム
チャプター3:神経系機能障害の原因
チャプター4:神経系に対する検査①
チャプター5:神経系に対する検査②
チャプター6:ニューロダイナミックテスト1(胸腰部~下肢)
チャプター7:ニューロダイナミックテスト1(胸腰部~下肢)
チャプター8:ニューロダイナミックテスト1(胸腰部~下肢)
チャプター9:ニューロダイナミックテスト1(胸腰部~下肢)
チャプター10:ニューロダイナミックテスト1(胸腰部~下肢)
チャプター11:ニューロダイナミックテスト2(上肢)
チャプター12:ニューロダイナミックテスト2(上肢)
チャプター13:ニューロダイナミックテスト2(上肢)
チャプター14:ニューロダイナミックテスト2(上肢)
チャプター15:ニューロダイナミックテスト2(上肢)
チャプター16:神経系機能障害の分類/メカニカルインターフェースに対する治療
チャプター17:神経要素に対する治療①
チャプター18:神経要素に対する治療②
チャプター19:治療の注意点①
チャプター20:治療の注意点②
チャプター21:まとめ
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