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半側空間無視を 3 次元的に検出・個別介入できる VR 型システムを実用化 -視空間認知障害の3次元的な病態解釈の実現に一歩前進-

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早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科 教授の岩田浩康氏、同大学 理工学術院総合研究所 客員主任研究員の安田和弘氏、創造理工学研究科 赤塚智輝・髙澤彩紀らは、脳卒中による半側空間無視患者に VR 空間内で標的探索課題を行うことで無視領域の 3 次元的マッピング化および注意を無視側に誘因する可動スリットを搭載した VR 型半側空間無視リハビリ支援システムを実用化しました。この VR 型システムは株式会社 INOWA(早大ベンチャー)とシスネット株式会社より製品化されました。半側空間無視の病態理解、個別リハビリテーションの提供など、広く臨床応用が可能であり、将来的には標準検査を3次元空間に更新することが期待されます。本研究成果は、厚生労働省の「障害者自立支援機器等開発促進事業」により助成されました。

開発の経緯

株式会社 INOWA(東京都港区)は、半側空間無視(以下、USN)に対して、VR 空間内で標的探索課題を行うことで患者の無視領域を 3 次元的に描写し、個別介入を実現するVR 型システムの開発に取り組んできました。

そして令和元年度 厚生労働省(以下、厚労省)「障害者自立支援機器等開発促進事業」において、シスネット株式会社(大阪府大阪市)を申請機関として補助金事業に参画し、令和 2 年 8 月に「VR 型半側空間無視リハビリ支援システム Vi-dere」を実用化しました。

1,本デバイスは、脳損傷後の USN を対象に無視症状を 3 次元的に定量化、症状に応じた介入を実現するためのものです。VR 空間内で標的探索課題を実施することで、3 次元座標系として無視症状を抽出し、さらに個別症状に併せて介入が必要な空間領域を設定できます。

2,一般的な評価は紙面を用いて机上で二次元的に実施されることから、三次元である実生活で生じる無視症状との乖離が指摘されていました。しかしながら、施設内で実生活に類似した三次元空間を検査のために構成することは困難であり、臨床現場の制約を解消できる手法が望まれていました。

3,こうした中で、臨床上の課題を解決する革新的な無視評価・個別介入システムを創製するため、厚労省の支援のもと、株式会社 INOWA、シスネット株式会社、早稲田大学創造理工学研究科、早稲田大学理工学術院総合研究所、亀田リハビリテーション病院、苑田会リハビリテーション病院が産学連携で VR 型の新たなシステムの開発に基礎技術の確立からシステム製造に至るまで一貫した研究開発に取り組んできました。

4,その結果、産学連携による共同研究と厚労省の支援による成果として本システムが開発され、2021 年 8 月に実用化されました。

開発した VR 型半側空間無視リハビリ支援システムについて

1,本システムは、USN を有する患者の正確な無視領域を抽出・描写するため、VR 空間内でボールの認識の可否を回答させるという低負荷な課題により 3 次元的に無視を検出できるのが特徴です(図1)。これにより、実生活空間に近い三次元空間で個別の無視領域が定量化・可視化できるため、その無視領域に応じてテーラーメード型の介入が実施できます。

2,最大の特徴である無視領域の 3 次元的マッピング化(図2)に加え、Posner らが提唱する注意の3つの段階(*1)に基づき、非無視空間からの注意の解放を促す可動スリット機能が実装されました(図3)。この可動スリット機能では、非無視側に存在する物体への注意の引き付け(Magnetic attraction: MA)(*2)を低減させるために設計されています。また、可動スリットによりブラックアウトを施すスペースは、視覚探索課題で抽出された無視領域により個別設定が可能になっています。

3,これまで提案されてきた様々な USN を対象とした介入では、日常生活への効果の転移が難しいことがわかっています。本デバイスでは、VR の強みを活かして、食事や通り抜けなどの生活場面上で可動スリット機能を用いることが可能となっており(図4)、実生活に類似した 3 次元空間で繰り返し介入することでより高い効果が期待されます。

図 1: 患者は安定した座位でヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し, 頭部を正中位に保持.標的は半径6m, 36-144 度の範囲で球体がランダムに出現.患者は VR 空間内で標的が認識できるかを回答.

図 2: 得られた 3 次元座標から無視領域をマップ化.図 3: 患者毎の無視領域に併せて可動スリットを設定.無視方向へスリットを移動することで注意誘導. 図 4: 3 次元空間内で食事場面を再現, コントローラを把持し手を伸ばすことでオブジェクトに接触可能.

今後の展開

本システムは、2021 年 8 月に発売を開始しており、株式会社 INOWA およびシスネット株式会社が製品の製造販売を行っています。今後はこのたび確立した技術について、本プロジェクトに参画した各機関の協力のもと、国内外の医療機関への導入や在宅サービスへの応用を積極的に検討していきます。

 

補足説明

(*1)注意は3つの段階で構成されており、対象から注意が離れる段階(注意の解放) 、次の対象へ注意を移動させる段階(注意の移動)、次の対象を捉える段階(注意の捕捉)で構成される。この3段階は注意の解放が後頭頂葉、注意の移動が上丘、注意の捕捉が視床と外側視床枕に関与していることが研究から分かっている。

(*2)半側空間無視では非無視側(主に右側)の対象物に注意を集中しやすく、そこから注意を離すことが難しく、注意の解放障害 (Magnetic attraction; MA)として知られている。

 

製品 URL

VR 型半側空間無視リハビリ支援システム「Vi-dere」

https://vi-dere.com/

 

詳細▶︎https://www.waseda.jp/fsci/wise/news/2022/06/22/7848/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

半側空間無視を 3 次元的に検出・個別介入できる VR 型システムを実用化 -視空間認知障害の3次元的な病態解釈の実現に一歩前進-

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