本研究のポイント
・高齢者133名を対象に、GPSと加速度計を用いて2週間の外出行動データを実測。
・外出時間の長さだけでなくその中身(多様さ)を知るため、外出先の数(滞在地点数)を分析。
概要
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科の上村一貴准教授、富山県立大学工学部の岩本健嗣准教授らの研究グループは、高齢者の健康維持に不可欠な身体活動量の多寡には、外出時間の長さよりも外出先の数(滞在地点数)が関連していることを明らかにしました。
当該分野におけるこれまでの外出行動の分析は、自己申告式アンケートに基づくものや、GPSデータを利用した場合も外出時間などの単一指標によるものが多く 、望ましい外出行動パターンを具体化することに関して課題がありました。今回、「外出先の数(滞在地点数)」に着目することで、外出の多様性を指標とした分析を行いました。
本研究では富山県の65歳以上の高齢者133名を対象に、GPSと加速度計を用いた行動分析を14日間行い、外出行動パターンと身体活動量の調査を実施しました。
その結果、高齢者の身体活動量には、外出時間の長さよりも外出先の数(滞在地点数)の多さの影響が強いことが実証されました。健康寿命の延伸に向けて、高齢者に外出行動を推奨する際は、外出先の多様性(目的地の多さ)の視点が重要である可能性が示唆されました。
本研究は、2022年7月9日(土)『Geriatric Nursing』にオンライン掲載されました。
「外出」が高齢期の心身の健康づくりに有益であるのは明らかですが、本研究では、単に長い時間外出することより、外出先が多いことのほうが、身体活動の多さに関連していることを示しました。
趣味や買い物、地域参加など目的は人それぞれですが、健康づくりのための「外出の多様性」という視点の重要性を提案します。
■研究者略歴
現職:大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科准教授2009年京都大学医学部保健学科卒業、2014年名古屋大学大学院医学系研究科博士課程修了。名古屋大学特任助教、富山県立大学講師を経て2022年4月より現職。
<研究の背景>
「身体活動」は運動・スポーツのみでなく、移動、仕事、余暇を含めて生活の中で身体を動かすこと全般を含みます。身体活動を維持・促進することは、がんや糖尿病のような疾患や高齢期の要介護(寝たきり)状態を予防する効果があります。しかし、健康状態や環境面の制約から高齢者が十分な身体活動を獲得することは容易ではありません。
「外出」は、運動のための設備・知識がなくても、手軽に(無料で)身体活動を促進する手段であり、高齢期の心身の健康づくりのために重要な要素です。実際に、外出時間が長いほど1日の平均歩数が大きいことが報告されています。
健康づくりのための外出の重要性が明らかになる一方で、これまでの研究では、外出行動の評価が自己報告(主観的)であることや、GPSを用いて客観的に測定している場合でも、多くの場合外出時間という単一指標で分析されていることが弱点と考えられました。そこで、我々はGPSデータをもとに、外出の多様性の指標として外出先 (滞在地点 )の数を評価し、身体活動との関連を検討しました。
<研究の内容>
富山県在住の地域在住高齢者133名(平均73.1歳、男性48名、女性85名)を対象に、GPSと加速度計を用いた行動分析を14日間行い、外出行動パターンと身体活動量の関連を横断的に検討しました。GPSデータの解析には密度準拠型クラスタリングを用い、外出時間と外出先(滞在地点)の数の1日あたりの平均値を算出しました。身体活動は、加速度計により歩数と身体活動レベルの平均値を測定しました。
分析の結果、1日当たりの平均の外出時間は3.5時間、滞在地点数は2.5個でした。日常生活で自動車を運転する人の割合は91%でした。外出時間・滞在地点数のいずれも、多いほど歩数も多い、という正の相関関係を示しました。しかし、年齢、性別、 教育年数、体格、全般的認知機能、身体機能(歩行速度)の影響を取り除いた多変量解析の結果、滞在地点数のみが身体活動量(歩数・身体活動レベル)に関連しており、外出時間は有意な関連を示しませんでした。
(表)外出行動と身体活動に関連についての線形回帰分析
すなわち、外出時間の長さよりもむしろ外出先が多いことが、身体活動量の多さに関連していました。具体的には、滞在地点(外出先)1個につき、歩数は1,324歩、身体活動レベルは0.05増える関係性を示しました。
今回のデータでは外出目的や移動手段は不明ですが、(仮に車移動でも)スーパーマーケットや公共施設など外出先での活動が積み重なり、身体活動の増加につながったことが予想されます。健康づくりのために身体を動かすことを奨める際、単に「外に出ましょう!歩きましょう!」という呼びかけのみではなく、外出の多様性(目的地の多さ)の視点での評価・介入が重要であることが考えられます。
<今後の展開>
本研究は、車を移動手段とする高齢者が大多数を占める地域で実施されたものであり、公共交通機関が発達した都市部では結果が異なる可能性があるため、更なる検討が必要です。また、本研究は一時点を切り取った横断的な検討であるため、実際に外出先を増やすことで身体活動が増加するか、心身の健康増進に寄与するかを追跡調査し、縦断的な関連性を明らかにする必要があります。
■掲載誌情報
【発表雑誌】Geriatric Nursing
【論文名】Objectively-measured out-of-home behavior and physical activity in rural older adults
【著者】Kazuki Uemura, Takeshi Iwamoto, Masakazu Hiromatsu, Atsuya Watanabe,Hiroshi Okamoto
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2022.06.010
詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-01509.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。