<本研究のポイント>
・腎移植レシピエント(腎移植を受けた患者)において骨格筋量の変化とタンパク摂取量が正に相関することを発見した。
・慢性腎臓病患者ではタンパク制限が一般的だったが、腎移植後の骨格筋量の改善には十分なタンパク摂取が必要である。
<概要>
大阪公立大学大学院医学研究科泌尿器病態学の香束昌宏研究員、岩井友明講師、内田潤次教授らの研究グループは、腎移植後の骨格筋量の変化はタンパク摂取量と正の相関関係であることを明らかにしました。本研究成果は、腎移植後のサルコペニアの改善につながることが期待されます。慢性腎臓病患者は、腎機能の低下に伴う栄養摂取量の減少や身体活動の低下で骨格筋量が減少していることが知られています。腎移植後は腎機能が回復することで骨格筋量が増加することを本研究グループはこれまで明らかにしてきました。慢性腎臓病患者では、過剰なタンパク摂取が腎機能を悪化させるため、タンパク制限して腎機能を保護するという考えが一般的でした。しかし、その一方で厳しいタンパク制限がサルコペニアを悪化させ生命予後の悪化に繋がる可能性も指摘されています。本研究グループは、腎移植レシピエント64名を対象に、生体電気インピーダンス法によって測定した腎移植12ヶ月後の骨格筋量の変化と、蓄尿検査から推定されるタンパク摂取量との関連を調べました。その結果、腎移植レシピエントでは腎移植12ヶ月後の骨格筋量の変化がタンパク摂取量と正に相関し、不十分なタンパク摂取量では筋肉量が減少することが明らかになりました。(図1)本研究成果は、2022年7月31日に国際学術誌「Clinical Nutrition」(IF =7.643)オンライン速報版に掲載されました。
図1. 腎移植レシピエントの腎移植12カ月後の骨格筋量の変化とタンパク摂取量の関連
■掲載誌情報
雑誌名:Clinical Nutrition(IF = 7.643)
論文名:Influence of protein intake on the changes in skeletal muscle mass after kidney transplantation
著者:Akihiro Kosoku, Tomoaki Iwai, Takuma Ishihara, Kazuya Kabei, Shunji Nishide, Keiko Maeda, Yoshiko Hanayama, Eiji Ishimura, Junji Uchida
掲載URL:https://doi.org/10.1016/j.clnu.2022.07.028
<研究の背景>
慢性腎臓病患者では、腎機能の低下に伴う慢性炎症、代謝亢進、栄養摂取量の減少、身体活動の低下などによって骨格筋量が減少していることが知られています。腎移植レシピエントにおいて、腎移植後には腎機能が改善することで、骨格筋量が増加することを本研究グループは明らかにしてきました。一般に、サルコペニアの改善には、栄養療法と運動療法が推奨されているため、腎移植後の骨格筋量の回復にはタンパク摂取量が関連することが推測されますが、これまで、腎移植レシピエントにおいて、骨格筋量とタンパク摂取量の関係を調べた報告はほとんどありませんでした。
<研究の内容>
本研究グループは、64名の腎移植レシピエントと、対照群として17名の腎移植ドナーを調査しました。体内に流した微弱な電流の流れやすさから骨格筋量を推定する生体電気インピーダンス法を用いて、腎移植前、腎移植1ヶ月後、腎移植12ヶ月後の骨格筋量を測定しました。また、24時間の間に排泄される尿を集め、その尿中に含まれる尿素窒素から推測される1日当たりのタンパク摂取量を計算しました。交絡因子の影響を補正するために多変量回帰分析を行って腎移植12ヶ月後の骨格筋量の変化とタンパク摂取量との関連について調べました。腎移植レシピエントの骨格筋量は、腎移植1ヵ月後には一旦減少するものの、腎移植12ヵ月後には腎移植前より増加していました(図2)。また、多変量解析を行った結果、腎移植レシピエントの骨格筋量の変化は、タンパク摂取量と独立して関連していることが分かりました(p=0.015)。この解析モデルを用いた予測値によると、タンパク摂取量が0.72 g/kg 標準体重/日未満の腎移植レシピエントは、腎移植12ヵ月後には骨格筋量が減少することが分かりました(図1)。
図2. 腎移植後12カ月の骨格筋量の推移
今回の研究の結果、腎移植レシピエントにおいて、十分なタンパクを摂取することにより、腎移植後の骨格筋量を維持することができる可能性が示されました。骨格筋量の維持により、サルコペニアの発症防止や生命予後の改善に繫がることが期待されます。
<今後の展開>
これまで、慢性腎臓病患者には過剰なタンパク摂取が腎機能を悪化させるため、タンパク制限することで腎機能を保護するという考えが一般的でした。しかしながら、最近、サルコペニア(骨格筋量の低下)が生命予後の悪化に繋がるということが明らかになり、サルコペニア対策の観点からは、厳しいタンパク制限の弊害も指摘されています。今回の研究では、高タンパク摂取による腎機能に及ぼす影響については調べていません。今後、腎移植レシピエントの生命予後を改善するために、腎機能の低下を防ぎ、かつ、サルコペニアを予防するのに適したタンパク摂取量を明らかにするなど、さらなる研究が必要となります。
詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-01969.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。