名古屋大学大学院医学系研究科人間拡張・手の外科学/医学部附属病院先端医療開発部の佐伯将臣特任助教、予防早期医療創成センターの大山慎太郎 准教授、人間拡張・手の外科学の米田英正 助教、個別化医療技術開発講座の平田仁 特任教授らの研究グルーブは、愛知県新城市、新城市民病院、株式会社 NTT データ経営研究所、株式会社 NTT ドコモ、ニプロ株式会社との共同研究で、山間部高齢化過疎地での 5G 通信による携帯型超音波検査装置を用いた遠隔医療、および遠隔リハビリテーションは、従来の LTE*(Long Term Evolution)通信に比べ、複数の高精細画像をより低遅延で伝送することが可能であり、これらの違いは医師や理学療法士の主観的評価に影響することを明らかとしました。
5G 通信システムは、高速・大容量通信と低遅延という特長から、医療、自動運転、4K・8K の高精細映像伝送、スマートホームなどへの活用が進んでいます。また、これまでの通信世代における変革のような通信速度などの技術的向上のみでなく、情報システムを通した human-centered(ステークホルダーへの価値の提供を基軸とすること)の社会づくりがより重要視されています。一方、高齢化が進む過疎地域では、特に人的な医療リソースが限られていることが問題であり、5G 通信システムには、遠隔医療・リハビリテーションによる医療リソースのより有効的な活用の実現が求められています。
平田特任教授らのプロジェクト・チームでは、本研究において愛知県新城市の山間部高齢化過疎地に 5G 通信を用いた映像伝蔵・診療システムを構築し、携帯型超音波検査装置を用いた遠隔医療と遠隔リハビリテーションの実証実験を行いました。その結果、従来の LTE 通信に比べ、複数の高精細画像をより低遅延で伝送することが可能となり、これらの違いは、医師や理学療法士の主観的評価が向上することを確認しました。
本研究は、総務省 令和 2 年度「地域課題解決型ローカル 5G 等の実現に向けた開発実証」における実証事業として行われました。また本研究結果は、英国科学雑誌『Digital Health』(2022 年 10月 13 日)に掲載されました。
ポイント
・高齢化が進む山間部過疎地域で 5G 通信システムを用いて、携帯型超音波画像診断装置を使用した遠隔医療と遠隔リハビリテーションを実施し、従来の LTE 通信と比較した。
・5G は LTE と比較し、高画質と低遅延で、4K 画像や超音波映像などの情報を伝送することが可能であった。
・5G と LTE で伝送された 4K 画像や超音波映像の違いは、医師または理学療法士の主観的評価に影響することが明らかとなった。
背景
本国における高齢者人口率はこれまでに無いほど高く、その増加は日本のみでなくグローバルに進むと見込まれています。高齢化地域の問題は、医療や看護を必要とする人口の増加、および、特に人的な医療リソースが限られることです。
革新的な技術は、医療・健康領域に多くの利益をもたらしてきたが、未だ環境や経済的理由により医療資源にアクセスする機会の格差はあります。
一方、近年の情報およびコミュニケーションに関するテクノロジーの進歩は目覚ましく、地域間での医療アクセスの不均衡を減少させることが期待されています。5G 通信システムは、大容量、低遅延の情報伝送が可能であり、医療・健康領域を含め多領域においてその活用が進められています。山間部過疎地域においては、医療業務の効率化や遠隔医療や技術指導、健康管理などへの活用が期待されています。
本実証実験は、名古屋大学が 2018 年に健康寿命や労働寿命の拡大で、高齢者が活躍できる社会の実現を目指して包括研究協定を締結し、また、平田特任教授が立ち上げ、リーディングし、産学官民で次世代の医療・健康ソリューションの創出に取り組んでいる奥三河メディカルバレープロジェクトの主なフィールドである愛知県新城市において行われました。
研究成果
本研究では、過疎地域の中核病院と山間部の診療所の間で、5G 通信システムを用いて、携帯型超音波画像診断装置を使用した遠隔医療、および遠隔リハビリテーションを実施しました。遠隔医療では、診療所にいる検査技師が模擬患者を対象に携帯型超音波のプローブを操作し、中核病院に医師に滞在する医師がプローブを操作などの検査における指示と観察を行いました。遠隔リハビリテーションでは、理学療法士が、地域住民 5 名を対象としてリハビリテーションを行いました。両実証において、5G と LTE のそれぞれで、医師または理学療法士が映像の質と伝送遅延への主観的評価を行いました。
携帯型超音波画像診断装置を用いた遠隔医療では 2 名の医師が評価しました。遅延において、5G では“許容範囲”と“どちらかといえば許容範囲”の回答であり、LTE では 2 名とも“許容範囲ではなかった”との回答でした。
遠隔リハビリテーションでは、評価した 7 名のうち、5G で 6 名が 4K 画質の伝送において“品質はよかった”と回答し、LTE では 3 名のみでした。遅延に関しては、5G では 5 名が“許容範囲だった” と回答し、LTE では 1 名のみでした。
この結果から、5G 通信システムは、従来の LTE に比べ、高質の映像などの情報を低遅延で伝送することが可能であり、それは実際に医療を実施する医師や理学療法士の主観的評価にも影響することが明らかとなりました。
遠隔リハビリテーションにおける「映像の質」の評価
遠隔リハビリテーションにおける「映像の遅延」の評価
今後の展開
本実証実験から、5G 通信システムを用いることで、携帯型超音波画像診断装置を用いた遠隔医療や遠隔リハビリテーションを低遅延で高質の映像などの情報を用いて実施することが可能であり、実際に医療を実施する医師や理学療法士の主観的評価にも影響することが確認されました。今後、医療・健康領域における技術革新を、技術の高度化を評価する指標のみでなく、医療従事者や患者に与える価値で評価し、高齢化が進む山間部過疎地域における医療・健康領域においてhuman-centered(ステークホルダーへの価値の提供を基軸とすること)を重視した課題解決に取り組みたいと考えています。
用語説明
*LTE:
3G の後に登場したモバイルデバイス専用の通信規格で、「Long Term Evolution」の略。4G を普及する橋渡し的通信であった。データの通信速度は最大 150Mbps で、かつては高速な回線として使用されていた。現在では、国際電気通信連合が LTE を 4G と認め、「LTE=4G」とされている。
発表雑誌
掲雑誌名:Digital Health
論文タイトル: Demonstration experiment of telemedicine using ultrasonography andtelerehabilitation with 5G communication system in aging and depopulated mountainous area
著者・所属:
Saeki Masaomi; Nagoya University Graduate School of Medicine Faculty of Medicine, HandSurgery; Nagoya University Hospital, Center for Advanced Medicine and Clinical ResearchOyama Shintaro; Nagoya University Graduate School of Medicine Faculty of Medicine, HandSurgery; Nagoya University Hospital, Medical IT center
Yoneda Hidemasa; Nagoya University Graduate School of Medicine Faculty of Medicine, Hand Surgery
Shimoda Shingo; Riken, Center of Brain Science- TOYOTA Collaboration Center
Agata Tsukasa; Shinshiro Municipal Hospital, Medical Technology
Handa Yutaka; Shinshiro Municipal Hospital, Medical Technology
Kaneda Satoshi; NTT Data Institute of Management Consulting Inc
Hirata Hitoshi; Nagoya University Graduate School of Medicine Faculty of Medicine, Hand Surgery
DOI: 10.1177/20552076221129074
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Dig_221025en.pdf
詳細▶︎https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/10/-5g-g.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。