〇発表内容の概要
福祉と生活ケア研究チーム(医療と介護システム研究)・石崎達郎研究部長の研究グループは、北海道に住む後期高齢者約 80 万人分のレセプト(診療情報明細書)情報を分析し、後期高齢者の歯科受診は肺炎や脳卒中発作、尿路感染症といった全身疾患による急性期の入院発生に対して予防効果があることを明らかにしました。研究成果は国際科学雑誌『Archives of Gerontology and Geriatrics』に掲載されました。
〇研究目的
年齢を重ねると、肺炎や脳卒中などの全身疾患によって入院する危険性が高まります。歯の健康は全身疾患の発生に関連するという報告は多くありますが、その因果関係までについてはあまり検討されていません。そこで、本研究では、因果関係を推論できる傾向スコアマッチング法という手法を使って、歯科医療機関への受診(歯科受診)が全身疾患(肺炎、脳卒中発作、急性冠症候群、尿路感染症)による急性期の入院発生を予防するかどうかその効果を検討しました。
〇研究結果の概要
北海道に在住する後期高齢者約 80 万人のうち、2016 年 9月から 2017 年 2 月の間(ベースライン期間)に医療機関を受診した約 75 万人を対象者としました。そのうち、ベースライン期間に入院経験があった者や在宅医療を利用していた者、要介護認定があった者などを除いた 432,292 名分のレセプトデータを分析に用いました(右図)。ベースライン期間に歯科受診があった者は 149,639 名(34.6%)でした。
次に、歯科受診があった者と、歯科受診がなかった者の特性(性別や年齢、医療費自己負担割合、疾患、健康診断受診の有無、地域)を均等にするため、傾向スコアマッチング法を用いました。歯科受診のあった者となかった者で、特性の近い 148,032 組(合計 296,064 名)が選ばれ、分析に用いられました。
2 年間の追跡期間(2017 年 3 月から 2019 年 3 月)において、歯科受診がなかった者に比べて、歯科受診があった者では、肺炎と脳卒中発作、尿路感染症による入院の発生割合が低かったことが示されました(歯科受診あり vs 歯科受診なし;肺炎 4.9% vs 5.8%、脳卒中発作;2.1% vs 2.2%、尿路感染症:2.2% vs 2.5%)。また、歯科受診がなかった場合に比べると歯科受診があった場合に、急性期の入院発生は、肺炎で 15%、脳卒中発作で 5%、尿路感染症で 13%の抑制効果が認められました。
図 分析対象者の選出について
〇研究の意義
後期高齢者における歯科受診の効果を示した本研究成果は、後期高齢者における歯科保健・歯科医療のあり方を検討する上で重要な知見です。今後は、本研究で除外した要介護高齢者においても同様に効果が得られるのか、更には、どのような診療行為(検査、処置、治療等)が急性期疾患の発症抑制と関係しているのか、検討を続けます。
掲載論文
「Archives of Gerontology and Geriatrics」(オンライン掲載日:2022 年 12 月 13 日)
The effect of dental visits on the occurrence of acute hospitalization for systemic diseases among patients aged 75 years or older: A propensity score-matched study
邦訳:75 才以上における歯科受診が全身疾患による急性期の入院発生に及ぼす効果-傾向スコアマッチングによる検討
URL: https://doi.org/10.1016/j.archger.2022.104876
著者:光武誠吾 1、石崎達郎 1、枝広あや子 2、北村明彦 3、平田匠 4、齋藤淳 5
1. 東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム
2. 東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム
3. 東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム
4. 奈良県立医科大学付属病院 臨床研究センター
5. 東京歯科大学 歯周病学講座
※本研究は、厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業『後期高齢者の歯科受診による全身疾患の予防効果に関する研究:傾向スコアを用いた共変量調整法による因果効果の推定(20FA1015)』(研究代表者:石崎達郎)の助成を受けて実施されました。
※当センターは北海道後期高齢者医療広域連合と「北海道における後期高齢者医療制度被保険者の健康寿命延伸に関する連携」にかかる協定を締結しています。
詳細▶︎https://www.tmghig.jp/research/release/2023/0105.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。