概要
2020年からのコロナ禍において、感染拡大防止のため新型コロナ感染症の患者、家族、医療者が隔絶された中で死を迎えるという、多くの医療者にとって経験のない看取りが相次ぎました。この未曽有の臨床現場で、医療者は悩みながらも終末期ケアを提供してきました。現場でのケア提供の詳細を明らかにする為、京都大学大学院医学研究科健康情報学分野中山健夫教授、西村真由美研究員、静岡社会健康医学大学院大学社会健康医学研究科森寛子准教授らの研究チームが質的研究で33名に詳細な聞き取り・分析を実施しました。その結果、ケアの4要素「患者との関係性の維持」、「患者と家族のつながり支援」、「意思決定の共有」、「人間らしいエピソードの創出」が示されました。具体的なケアの行為として、患者への積極的なお声掛け、家族とのWebを使ったコミュニケーションや面会の支援、ICU日記等が示されました。これらの要素は隔離下での看取りでの患者と家族へのケアの提案として、医療現場で役立つ可能性があります。本研究は、2022年10月17日に米国の国際学術雑誌「CHEST」でオンライン掲載されました。
1.背景
2020年からのコロナ禍において、感染拡大防止のために、新型コロナウイルス感染症患者(以下、コロナ患者)、医療者、家族が隔絶された中で死を迎えるという、多くの医療者にとって経験のない看取りが相次ぎました。この未曽有の臨床現場で、医療者は悩みながらもコロナ患者へ看取りケア*を提供してきました。本研究チームは、現場でどのようなケアが提供されたか、医療者の看取りケアの経験についてインタビュー調査を行いました。
2.研究手法・成果
実際に経験した人に詳細なインタビューを行い、語られた一語一語について分析を行いました。人々個々の行動や経験から、より一般的な意味を見出してゆく質的研究法の一つです。社会学や教育学で使われてきた研究法ですが、近年医学研究でも取り入れられるようになりました。
13都道府県33名のコロナ患者の看取りを経験した医療者のインタビューから、4つのケアの要素「患者との関係性の維持」、「患者と家族のつながり支援」、「意思決定の共有」、「人間らしいエピソードの創出」と、51の実践の具体例が示されました。例えば、「患者と家族のつながり支援」としては、死を前にした患者から家族へのメッセージを聞き取るというケアが提供されました。
これらケアの要素と具体例は、コロナ感染により死を迎えることになった患者とその家族に対し、どのような看取りの支援をすればよいか、その手掛かりを提供してくれると考えます。
3.波及効果、今後の予定
○本研究の結果を、コロナ患者の看取りケアを行う際の参考にしてほしいと考えています。小さな取り組みも重要なケアになります。
○本研究はICUや集中治療の現場を対象とした結果ですが、コロナ患者の看取りは自宅や介護現場など多様な状況でも生じており、他にも必要なケアの要素が存在すると考えられます。更なる調査の必要性も示唆されます。
○聞き取りの中で、生きるための治療も並行して行っている医療者だけでは、負担が大きいという声も聞かれました。海外や国内の一部では宗教者やボランティアによる看取りケアの協力体制があります。地域社会を含めて看取りを支援する仕組みも広がってほしいと考えています。
○本研究の聞き取りデータからは、遺体を包む納体袋の使用の経験や、過酷な現場で働く医療者のモチベーション等についても、分析結果を公表していく予定です。
研究プロジェクトについて
○本研究は、京都大学の研究費で実施されました。
研究課題名「COVID-19患者へ終末期ケアを提供した医療者の経験:質的研究
○京都大学医の倫理委員会受付番号R3027 (承認日2021年7月12日)
<用語解説>
*看取りケア:医療の世界では終末期ケア、エンドオブライフケアと称しますが、本稿では医療ケアを超え家族への支援を含めた意味で、より一般的な用語の「看取りケア」としました。
<研究者のコメント>
死亡者数が増加する中、「困っている患者さんと家族のために役に立ちたい」という思いで看取りケアに向き合った医療者の方々のお話に大変励まされ、共有できる形にできたと思います。コロナの死に向き合う様々なケア提供者の方々のヒントになればと思います。(西村真由美)
<論文タイトルと著者>
タイトル:
Providing End-of-Life Care for Dying COVID-19 Patients and their Families in Isolated Deathduring the Pandemic in Japan: The PRECA-C Project.
孤立状態で死亡するCOVID-19患者と家族へ提供したエンドオブライフケア:PRECA-Cプロジェクト
著者:
西村真由美、當山まゆみ、森寛子、佐野真樹子、井村春樹、栗山明、中山健夫
掲載誌:
CHEST
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.chest.2022.10.009
詳細▶︎https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-01-30-4
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。