概要説明
熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学 辻田賢一教授らのグループは、冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療に関するガイドラインを発表しました。このガイドラインは2023年3月10日に日本循環器学会ホームページ(日本語版)及び日本循環器学会が発行する英文誌「Circulation Journal」に掲載されました。
背景
冠攣縮性狭心症は、虚血性心疾患の一種で、冠動脈の痙攣によって一時的な狭窄が起こり、心臓の筋肉の血流が悪くなり生じる疾患です。夜間や早朝、朝方などの安静時に発作が起こること、非発作時の冠動脈を見ても血管の狭窄部は確認できないことが特徴とされています。原因としては、冠動脈が一時的に痙攣することで、冠動脈が収縮し血流が悪くなることによって冠動脈の内腔が一時的に狭くなる、もしくは閉塞して、数秒から数分程度の胸痛を引き起こすことが挙げられます。また、喫煙や飲酒、脂質異常症、ストレスなども原因とされており、動脈硬化との関連性もあると言われています。
冠微小循環障害は、血管造影で目にみえないくらい(500μm以下)の微細な冠動脈の循環に生じる障害で、障害により心筋虚血といった疾患が発生します。
今回のガイドラインは、2008年に「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」として世界に先駆けて日本循環器学会から発表され、その後2013年に改訂版が発表されたもので、今回、10年ぶりの改訂となりました。なお、2008年、2013年改訂版は小川久雄 熊本大学長(当時 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学 教授)が中心となり作成されました。
成果
今回のガイドラインでは、前回の改訂後に得られた冠微小循環障害やバイオマーカー、画像検査、生体イメージング、生理機能、遺伝子等の多方面からの新知見や診断技術の発展を踏まえ、冠攣縮性狭心症に関連する新たな疾患概念として、冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(myocardial infarction withnon-obstructive coronary arteries: MINOCA)と心筋虚血(ischemia with non-obstructive coronary artery disease: INOCA)の項目を記載しました。また、以下のとおり病態・診断方法・治療方法のアップデートを行いました。
・病態:2型アルデヒド脱水素酵素遺伝子多型、冠微小血管攣縮、薬剤溶出性ステント留置後、小児疾患との関連
・診断:基準の見直し、血管内超音波、光干渉断層法、血管内視鏡等の血管内イメージング、CTによる冠血流予備量比、磁気共鳴像(MRI)等の画像検査、冠血流予備能、冠微小血管抵抗指数等の生理学的検査や、内皮機能検査
・治療:薬物治療、非薬物治療、心臓リハビリテーション
さらに、心臓カテーテル検査時の冠攣縮薬物誘発試験において、局所的な冠攣縮のみならず、びまん性冠攣縮も陽性とすること等を新たに定めました。
展開
もともと、冠攣縮性狭心症は東アジアに多い疾患でしたが、最近では欧米でも冠攣縮有病率は高いことが報告され見直されています。本ガイドラインの発表が、冠攣縮性狭心症、冠微小循環障害に対する標準的診断・治療のガイドとして全世界に発信され、全世界の患者の診断と治療に寄与することが期待されます。
研究グループ
本作業は、合同研究班参加学会として、日本循環器学会 日本心血管インターベンション治療学会 日本心臓病学会、日本冠疾患学会 日本小児循環器学会、日本心臓血管内視鏡学会 日本心臓リハビリテーション学会 日本不整脈心電学会の循環器疾患の主要8学会の参加により行われました。
英語版著者の記載順
Seiji Hokimoto; Koichi Kaikita; Satoshi Yasuda; Kenichi Tsujita;Masaharu Ishihara; Tetsuya Matoba; Yasushi Matsuzawa; YoshiakiMitsutake; Yoshihide Mitani; Toyoaki Murohara; Takashi Noda; Koi chiNode; Teruo Noguchi; Hiroshi Suzuki;Jun Takahashi; Yasuhiko Tanabe;Atsushi Tanaka*; Nobuhiro Tanaka;Hiroki Teragawa; Takanori Yasu;Michihiro Yoshimura; Yasuhide Asaumi;Shigeo Godo; Hiroki Ikenaga;Takahiro Imanaka; Kohei Ishibashi; Masanobu Ishii; Takayuki Ishihara;Yunosuke Matsuura; Hiroyuki Miura; Yasuhiro Nakano; Takayuki Ogawa;Takashi Shiroto; Hirofumi Soejima; Ryu Takagi; Akihito Tanaka; AtsushiTanaka#; Akira Taruya; Etsuko Tsuda; Kohei Wakabayashi; Kensuke Yokoi;Toru Minamino; Yoshihisa Nakagawa; Shozo Sueda; Hiroaki Shimokawa;Hisao Ogawa on behalf of the Japanese Circulation Society and theJapanese College of Cardiology and Japanese Association ofCardiovascular Intervention and Therapeutics Joint Working Group
掲載情報
・日本語版 2023 年 JCS/CVIT/JCC ガイドラインフォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療
・英語版 JCS/CVIT/JCC 2023 Guideline Focused Update on Diagnosisand Treatment of Vasospastic Angina (Coronary Spastic Angina)and Coronary Microvascular Dysfunction
こちらからガイドラインをご覧いただけます。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_hokimoto.pdf
詳細▶︎https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20230310
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。