医療経済研究機構(所⻑=遠藤久夫)は、愛知県豊明市とNTTデータ経営研究所との共同研究協定に基づき、「多様なサービス・資源による自立支援・介護予防効果の研究〜豊明市における介護予防・日常生活支援総合事業等の効果分析〜」に取り組んでいます。その一環として実施した住⺠健康実態調査(介護予防・日常生活圏域ニーズ調査)や要介護認定情報・被保険者情報を組合せたデータ分析を行いました。その結果、高齢者の日常生活における移動の性質が「能動的」か「受動的」かという選択が、手段的日常生活機能動作レベルの変化と関連があることを明らかにしました。本研究の結果が、英語論文雑誌「BMCPublicHealth」にて掲載されましたので、概要をお知らせします。
論文著者(採択時点)
研究代表者・責任著者:服部真治
著者:田村元樹*、石川智基*、松本小牧
掲載論文誌情報
BMC Public Health 23, 175 (2023)
DOI:10.1186/s12889-022-14671-y
タイトル
英文:Association between choicesof transportationmeans and instrumental activitiesofdaily living: observational cohort studyof community-dwellingolder adults
和文:移動手段の選択と手段的日常生活動作の関連:地域在住高齢者の観察的コホート研究
*共同第一著者,Co-first author
研究の背景
近年、高齢者の身体的健康と外出活動との間の関連を示す研究が増加している。加えて、自治体による高齢者の活動支援関連施策の整備が進んでいる。先行研究では、外出頻度と機能的健康状態との関連を示す報告があるが、移動手段の選択が手段的日常生活動作(IADL: instrumental activitiesofdaily living)に及ぼす影響については報告されてこなかった。そこで、本研究では高齢者における移動手段の選択とIADL低下リスクとの関連評価を行った。
研究の方法
本研究では、市内在住の要介護認定を受けていない65歳以上全員を対象に実施された住⺠健康実態調査(介護予防・日常生活圏域ニーズ調査)の2016年と2019年分調査結果を分析に使用した。さらに、要介護認定情報および被保険者情報を結合し、要支援・要介護認定者を特定したデータを作成し分析を行った。「移動手段の選択」による比較を行うため、徒歩や車(自ら運 転 )のような動作や操作を伴う「能動的移動手段」1、および専ら乗車だけで移動が完了する「受動的移動手段」2に分け、両グループ間の属性が対称に近づけるために傾向スコアマッチング3を行った。能動的移動手段を基準にした受動的移動手段による3年後の手段的自立の低下リスク4を、ポアソン回帰分析によってリスク比として評価した。
研究の結果
能動的移動手段は6,280人(76.2%)、受動的手段は1,865人(22.6%)であった。3年間でIADLが低下した人は999人(12.1%)であった。結果、「受動的移動手段」は「能動的移動手段」よりもIADL低下リスクが高く、リスク比は1.93(95%信頼区間1.62, 2.30)と有意に高かった。
研究の結論
高齢者が受動的移動手段を選択することは、3年後の手段的自立低下リスクと関連がある可能性が示された。高齢者が日常生活で移動する際には、徒歩や自らの操作等を含む「能動的移動手段」を維持するための施策が、介護予防に有効かもしれない。また、自治体 など の移動支援施策 において、高齢者が能動的な交通手段を利用する機会や環境を地域社会に増やすことは、高齢者の社会的自立生活を促すのに有効である可能性がある。
図:能動的移動手段に対して受動的移動手段はリスク比1.93でIADL低下と関連
1徒歩、車(自ら運転)、シニアカー、自転車、バイク、電車、路線バス
2タクシー、車(他者が運転)
3性別や2016年時点の年齢、教育歴、家族構成、主観的経済困窮感、BMI、喫煙、認知機能低下、慢性疾患数、IADL低下リスク有無を変数とした傾向スコアマッチングを行った。4本研究ではIADLの評価指標に老研式活動能力指標を採用し、先行研究に倣い5点を「自立」状態、5点から5点未満への変化をIADL低下と評価した。
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。